俺の大事なが泣いてしまった。彼女は今花壇のふちの煉瓦に座っていて、俺はその目の前でしゃがみ込んでいる。めいっぱい笑う彼女だが、滅多に涙は見せない。ゆえに俺は涙に免疫がないから、正直涙は苦手だ。どうすればいいかわからないから。俺のちっぽけな頭でいろいろと打開策を考えるけど、あいにくなにも出てこない。それにの泣き顔や泣き声に気がいって、どうにも集中できない。

ー?」

 名前を呼んでも、は顔を上げてくれない。

 きっと彼女の耳には俺の声は届いていない。悔しいがこれが事実。ごめんよ、ふがいない俺で。

、泣かないで?」

 恐る恐る頭に手を置いて、ゆっくりと撫で付けると、一瞬静まったと思ったら、今度はより一層声を立てて泣き出した。これにはリンクもぎょっとした。

「ごっごめん!」

 反射的にぱっと手を離して、その手を持て余す。彼女を抱きしめたいが、下手なことできない。時の勇者形無し。好きな女の子の涙を目の前に、何もできないでいる。
 ―――それにしても、泣いてるもなかなかいい。
 もちろん笑顔が大好きだ。の笑顔を見ると力が湧いてくるし、何よりかわいい。けれど、いつもと違う、この涙をこぼすの姿も、ひじょーに愛らしい。守ってあげたいと、騎士さながらの心がくすぐられる。

「俺、が笑顔になるまでずっとそばにいるからね。何も心配しないで」

 この言葉を聞いたの涙は少し弱まった気がする。嗚咽もおさまってきたと思ったら、か細い声で「抱きしめて」と俺に言った。俺はもう、その言葉を聞き終わるか終らないかぐらいのときに反射的に立ち上がり、身をかがめてを抱きしめた。

「大丈夫だよ」

 俺が彼女から言ってもらって、一番安心する言葉を、今は俺がに伝える。

「うん」

 俺の腕の中から、くぐもった声が聞こえてきた。

「好きだよ」
「……うん」

 うん、きっともう少しでの笑顔が見れるはずだ。







君が笑ってくれるまで