迷い込んだのは不思議な町、クロックタウン。何が不思議かって、なんと、同じ三日間をずっと繰り返しているのだ。そのことに気づいているのはリンクと、妖精のチャット。時のループから切り放たれたリンクは、三日間を何度も繰り返しながらこの世界を終焉から救うべく、戦っていた。
 時のカーニバル。このクロックタウンで開催される盛大なお祭りに向けて様々な人が十人十色の三日間を過ごすのだが、三日のうち、彼らの悩みだったり、事件だったりを解決したところで時を戻せば何事もなかったかのようにまた元通り。本当に面白いくらい、三日前の状態に戻ってしまう。
 そしてそんな日々の中、クロックタウンでとある女性と出会った。なんてことないただの町人だ。ボンバーズの団員を探す時に町中をくまなく見たつもりであったが、どうやら見逃していたらしい。きっと、この三日間の時の流れの中の重要な出来事の中に彼女は関わっていないのだろう。
 女性と出会ったことは取り立てて驚くべきことではないのだが、何しろ女性はとても似ていた。ハイラルを旅をしていた時に、一緒にいた女性と。彼女はマスターソードを台座に戻したのちの世界で、消えてしまった。無二の友、小さな妖精ナビィとともに。この世界、クロックタウンの人間はハイラルを旅していた時に出会った人物と似ている人がかなりいたが、まさか彼女がいるとは思わなかった。なぜなら彼女は違う世界の人間だったからだ。それに幻を探しては寂しい思いになってしまうのが辛かったのですぐにその可能性は捨てていた。
 彼女を見つけた時、リンクの中の時が止まった。息が止まるほどの衝撃と言うのは、多分このことを言うのだろう。

「あの!」

 最初の日の朝、クロックタウン南の隅のほうで昼間だというのにぼんやりと月を眺めていた女性に、殆ど反射的に声をかけていた。女性はその視線を驚いたように下へスライドさせ、リンクを捉えた。

「わあ、びっくりした。どうかした? ぼく」

 最初は驚いたように、けれどだんだんと落ち着きを取り戻し、穏やかに女性は言った。正面で向き合うと、ますます似ていた。

「あの、ここで何を……?」
「ああ、最近噂で流れてるでしょう? 月が落ちてくるとか……本当なのかなあって、思ってさ」
「お姉さん、逃げないの?」
「うん、ここにいて、時のカーニバルを見るつもりだよ」
「あ、危ないよ、だって月はあんな近くだし、三日後には落ち……っと」

 まるで未来を知っているかのような言い方をしてしまい、思わず口を噤んだ。けれども女性はさして気にしてない様子で、にっこりほほ笑んだ。

「ぼくは早く逃げなさい。ここらへんの子じゃないでしょ?」
「え? なんで知ってるの?」
「ほら、北にいるチンクルっていう一風変わったオジサンがいるんだけどね、あの人がよくいっているの、緑の服に妖精。あなたは妖精だわ」
「え! ち、ちが―――」
「冗談よ! ふふ、じゃあね、逃げるんだよ」

 そういって立ち去ろうとした女性の手を思わず握って引き留めた。

「待って! お姉さん、名前は……?」
「わたし? 。ぼくは?」
「おれ、リンク! ちゃん、おれ忘れない!」
「わたしもリンクのことを忘れないよ」

 じゃあね、と言ってリンクの頭を軽くなでた。リンクは握った手の力を緩めて、代わりにひらひらと手を振った。去りゆくの後姿を眺めながら、懐のボンバーズの団員手帳を無意識に取り出していた。
  最初の日の午前中、クロックタウン南、隅のほうで月を見上げている。
 手帳に書き込むと、小走りでのあとを追う。彼女がどこに帰っていくか見届けるためだ。ストーカーのような行為もこの三日間のループで大分慣れた。
 繁華街から少し外れた場所に彼女の家はあった。家の大体の場所も手帳に書き込み、リンクは満足そうに手帳を閉じた。

『ねえアンタ……随分嬉しそうね』
「まあね」

 だってやっと会えたんだから。とはチャットには言わないけれど。



時の狭間レデイ

◇◇◇
祝ムジュラリメイク!3DS!やっとやりはじめたんで書いてみました!!
特にオチなどなく、甘くもなければほのぼのでもない、よくわからないお話になりました……。