わたしがどこにも居場所がなくなってしまったのは、もう何年も前のこと。それはそれは怖かったし、それはそれは不安だったけれど、ずうっと一緒にいた人がいるから全然へっちゃらだった。まあそれには自分がある程度年を取っていたこともあるだろう。まだ小さいあなたにはわからないかもしれないけれど、いつか居場所がないことに気づき、さみしく思うときがくるのだろう。

「どうかした??」

 それまで夜ご飯を食べていたリンクがきょとんと首をかしげた。彼の見た目は大人だが、中身はまだ七年前のままである。ゆえにいろいろなことが伴わずに成長している。パンくずを口元につけているこの少年、いや青年がハイラルを救う勇者だとは、本当に面白い。

「ここ、パンくずついてるよ」
「ん。とって」
「甘えないのー」
「ちぇ」

 といって舌でパンくずをなめとる。その姿は少し、セクシーで、思わずわたしはどきりとする。
 見た目は大人、頭脳は子供。時に残念で、時にむかついて、時に可愛くて、時にずるい。

(いつか、居場所がないことに気づいたとき)

 そのときにわたしがそばにいれたら、わたしが支えてあげたい。わたしの居場所がなくなったときに、支えてくれたのはリンクだから。何度も何度も太陽のように温かい笑顔に救われたから。
 けれどいつ気づくのだろう。わたしはいつまでリンクのそばにいれるんだろう?いつか元の世界に戻ってしまうかもしれない。いつかリンクの心が誰かへ向かってしまうかもしれない。リンクのいう“好き”は、いわゆる幼稚園児が先生に対して抱くあの感情と、きっと類似している。わたしのいう“好き”とはきっと違う。わたしは気づいているがリンクはきっと気づかない。
 それはそれで好都合だけども。けどね、変わらない事実はきっとある。それは、

わたしの居場所は、あなたで。
あなたの居場所は、わたし。
これまでも、きっとこれからも。
祈りのような気持ちだけれど、願わずにもいられない。
いつまでも、いつまでも
リンクの居場所がわたしでありますように。



置いてけぼりの大人




「やっぱり、おれの居場所は、だなって思うよ」

 世界を救って、七年。その姿と中身が年相応になった頃合いに、彼はふとそう口にした。その言葉を聞いて、“あの時のこと”を思い出したわけだけれど。
 彼の居場所はあのころからずっとわたしだったというわけだ。うれしいし、こそばゆいし、何より愛しい。

「わたしも」
「そっか……。ねえ、俺、のこと好きだ。これからも、ずっと、そばにいてほしい」

 一言一言かみしめるように、愛を紡いだ。わたしは面食らって、しばらく何も考えられなくなった。まさか今、改めてそんなこと言われるとは思わなかった。むしろ、リンクのいう好き、がそれを意味するとは思いもしなかった。するとリンクの頬がゆるゆると朱に染まっていき、視線を斜め下へずらした。

「改めて言うと恥ずかしい」

 いつもさらっと、好きとか、いっていたくせに、なんだよなんだよ。ずるい、ずるい、ずるい。こんなにも心臓が早く動くなんて、この年になってあると思わなかったよ。何も言えないでいるわたしに、不安を募らせていくリンクはちらちらとこちらの様子をうかがっているが、うまく言葉が出てこない。

「そばにいてくれる?」
「……あ、う……ん」

 ひとつ頷けば、リンクはみるみるうちに笑顔になる。いつみたってこの笑顔は最高で、思わずわたしも笑顔になる。

、大好き」

 その言葉にうれしくて、うれしくて、心臓がぎゅっとなった。