「くそ……暑いな、死の火山っていうだけあるぜ、スラリン大丈夫か」

 その名に恥じぬ恐ろしい火山は、足場を踏み外せばすぐに火口に飲み込まれる。灼熱の溶岩がうごめいている火口は目と鼻の先のため、熱気が常に辺りを取り巻いていて、拭っても拭っても汗がしたたり落ちてくる。

「大丈夫ダヨ! こそ大丈夫?」
「お前、今にも溶けそうだぞ」

 一番最初に仲間になったモンスターであるし、少しお馬鹿で、かわいらしいスラリンを はモンスターの中で一番可愛がっている。決して強くはないが、は好んで連れている。死の火山の選抜メンバーには他にスライムナイトのピエールとキラーパンサ―のチロルが選ばれていた。

「気を付けるんだよ、みんな」

  が先陣を切っていたのだが、振り返って声をかけた。足場に気を付けて、水分を補給しながら黙々と死の火山を進むと、最奥に祭壇が見える。そしてそれを守る魔物――溶岩原人が待ち構えていた。

「ん……人がいないか?」

  は祭壇から少し離れたところで人が倒れてるのを見つけた。駆け寄ると、金の髪の青年が大やけどを負って倒れていた。大方、溶岩原人に負けてここまで逃げてきたのだろう。

「アンディ!?」
「え?知り合い?」
「ああ……同じく炎の指輪を追っている人だよ」

 花婿候補ということか。それにしてもここまで一般人がやってくるとは大したものだ。ここにくるまでに人とすれ違っていないことを考えると、指輪を探しているものは たちとこの青年、アンディだけだろう。

「すげえ火傷だ……」
、リレミトでアンディと脱出して治療してあげてくれないか? あいつは俺たちでなんとかする」
「大丈夫か?」
「ああ、任せてくれ」

 が頼もしい顔をするので、 も頷いて、スラリンとともにアンディを連れて死の火山を脱出した。急激にさわやかな風が辺りを包んで、ほっと息をついた。先ほどまでの灼熱地獄から解放されたことを実感した。

「ベホマ」

 回復魔法を唱えると、アンディの表情が若干和らぐ。体力が回復しても火傷は完全に治るわけではない。安静にして医師の治療を受けるのが一番なのだ。けれど も心配なのでどうしようか考える。サラボナに戻るか、ここで待つか。戻った場合、何かあったと気づいた時に駆けつけるのが大幅に遅れてしまう。悩みに悩みぬいて、結局はサラボナに戻ることを決めた。 を信じての決断だ。ルーラを唱えて、サラボナに戻ってアンディを背負いとりあえずルドマン邸に赴く。話をすればルドマンはアンディの家まで案内するといって、メイドをよこしてくれた。アンディの家はルドマン邸からそう遠くなくすぐにたどり着いた。すぐに家のものがアンディを引き取り、重ね重ね礼を言われるながら、 はアンディの家を出て、メイドとともに引き上げた。

「ありがとう。君、可愛いね」
「えっ、そんな……」





薔薇 に銀の髪飾りを





  をルドマン邸の近くで待つことにした。黒薔薇に待ち合わせに向かえなかったことを謝ろうかとも思ったが、その考えは瞬時になくなった。どうせ待ち合わせ場所にいったはずがない。自分は約束をすっぽかされた身だ。のこのこと黒薔薇に会いに行くには情けないし、何より嫌だ。

(女ってほんとよくわかんない。よくわかんない生物と一緒にいるくらいならスラリンといたほうがいいぜ)

 そのとき、ルドマン邸の扉が勢いよく開いた。すごい音が鳴ったのでそちらを反射的にみると、空色少女改めフローラがあわただしくルドマン邸から出てきたところだった。

「あっ! さん……!」
「フローラちゃん」

 差し詰めアンディのことを聞いたのだろう。フローラはアンディのことを好きなのだろうか。

「アンディのことを助けていただいて、本当にありがとうございます!」

勢いよく頭を下げられた。

「いやいや。助けたのは俺じゃなくて。俺は連れてきただけだよ」

  、という名に目を見開いて顔を赤くするフローラ。同時に徐々にフローラは落ち着きを取り戻してきたように思える。

「まあ……ですが本当にありがとうございます。彼、私の幼馴染で……」
「もしやアンディのことが好きなの?」

 フローラはゆっくりと首を振る。左右に。

「アンディはそうですね……兄、といったところでしょうか。ずっと一緒にいましたから」
が好き?」
「うっ、あ……はい。きっと………好きなんだと思います」

 顔が真っ赤だぞ、というツッコミは心の中だけでする。一目ぼれか、なんだかいいなあ。と同時に人を好きになるってどういうことなんだ、と疑問に思う。人を好きになったことがないにとって好き。という気持ちは謎だらけだった。一人の子だけを選ぶ? 絶対に無理だ。
 女の子は好きだ。けれど女の子は、よくわからない。そんなものに心を開けるか? 生涯一緒にいれるか?答えは否だ。

はいいやつだよ、俺が保障する。でも今は、アンディのところに行っておいで」
「はい……ごめんなさい、いってきます」

 アンディはの背中でうわごとのように空色少女の名を口にしていた。何度も、何度も。フローラのことが、心の底から好きなのだろう。でなければ旅の経験もないものがあんなところに行かない。
 まったく、本当に理解ができないが、あの溶岩原人に立ち向かったということは死すら覚悟していたということだ。駆けていくフローラの背中を見ながら、はそんなことを思った。