潮風が頬をなでて、そのまま遥か彼方へ去って行く。 空色の髪の毛が、闇色の髪の毛が、風に乗ってさらさらと流れている。 僕たちがその後姿を見つめていると、二人はゆっくりと向かい合い、そして微笑みあった。 黒薔薇に銀の髪飾りを 漆黒の少し長めの髪をひとつに束ね、紫色のターバンを巻く男 と、銀色の短い髪の男が、サラボナにやってきた。二人は兄弟だった。彼らの旅の目的は、亡き父パパスが成し遂げられなかった目的の遂行。すなわち、伝説の勇者を探すこと。それから、亡くなったと聞いていたが、実は生きていると聞かされた母を捜すことだった。 「ここに天空の盾があんの?」 「うわさによると、ね」 「誰か! お願いです! その犬をつかまえてください!」 ふと声がして、前を見れば、息を切らしながら犬を追いかける女の子と、追いかけられる犬。どちらもぱっと見ただけで育ちのよさが伺えるようだった。犬はまっすぐに向かって走っていき、そして勢いよくつっこんだ。その勢いではしりもちをつき、犬は狂ったように尻尾を振りながらの顔をなめまわした。 「はあ……はあ……ごめんなさい。この子が突然走り出しちゃって……」 遅れてやってきた女の子は、空色の髪の毛をした美しい女の子だった。肩で息をしながらも、おいで、と犬にいうが、犬は一向にの顔をなめるのをやめなかった。 「お嬢さん、可愛いね。」 は人懐こい笑顔を浮かべて、さらりと女の子にいう。彼は可愛い子に目がない、典型的な女好きだった。そういうことに免疫がないのか、空色少女は顔をほんのり赤くして、目を見開いた。 「あ……そ、そんなことないですわ。それより、リリアンがわたくし以外の人に懐くなんて初めてです」 多少強引だが、空色少女は話題をそらして、とリリアンに視線を向けた。この様子を見る限り、とてもそうは思えないが、彼女がそういうのだからそうなんだろう。 「あなたはいったい……」 やっと舐めるのが落ち着いてきたリリアンが、少しと離れる。そのとき、重なると空色少女の視線。見つめあう二人を見て、 はぼんやりと思う。(ああ、この二人はたぶん、恋に落ちた) 「……あら、いやだわ。わたくしったらお名前も聞かずにぼーっとしてしまって」 頬に手を添えて、真っ赤になった顔できょろきょろと視線を彷徨わせた。間違いない。彼女はに恋をした。そして、はというと。 「い、いいえ。俺こそ、あの、っていいます……」 予想通り、真っ赤になっていた。しりもちをついたままの姿勢でかたまっている。は笑いがこみ上げてきて、こらえきれずに小さく笑いを漏らした。 「……ふはっ。俺は、」 「さんに、さんとおっしゃるのですね。本当にごめんなさい……またお会いできたら、きっと御礼をしますわ。さあリリアン、行くわよ」 空色少女は顔が赤いまま、リリアンを引き連れて立ち去っていった。 「、あの子に惚れたんだろ?」 がからかいぎみにに聞けば、彼はぼーっとどこかを見つめ口をぽかんとあけている。完全に魂が吸い取られてしまったようだった。はにや、と口角をあげて、もういちど、今度はしゃがみこみ耳もとで、 「あの子に惚れたんだろ?」 と囁きかければ、の顔は一気に赤くなり、刹那、すっと立ち上がった。 「そんなわけないだろ! ほら、いこう!!」 「へいへい。まったく……なーんで俺の兄貴のクセにこんなアレなんだか」 すたすた前を行くに、小さくボヤく。昔にもこんなことがあった。小さいころ、船から下りるときに出会った、あの少女たち。今頃どうしているのだろうか? ぼくは聞いた。 「おなまえは?」 黒髪の少女はいった。 「あんたに教えるなまえなんてないわ」 負けじとぼくはいった。 「じゃあつぎあったとき、教えてね?」 |