「ねえ、鋼牙くん」
わたしの呼びかけに前を歩く鋼牙くんは首だけ振り返り、
「ん?」
それはもう、みんなの前からは思いつかないような穏やかな声で首を傾げた。
わたしはこのギャップが好き。
「なんでもないよ」
「嘘つけ、顔が笑ってるぜ」
今度はわたしの横に並んで、わたしの頭を自身の爪がさわらないようにしながら優しく撫でる。
彼は妖怪だけど、人間みたいに、寧ろ人間以上に優しくあたしに接する。まるで壊れ物を扱うかのように。
まあ、妖怪の鋼牙くんからしたら、人間のわたしなんてとるにたらないから、壊れ物同然なのかもしれないけど。
「鋼牙くんは優しいよね」
「限定な」
「ふうん」
「ほんっと、かわいいのなっ」
わたし限定…。
さらりと嬉しいこと言われちゃったけど、素直になれないわたしはつい素っ気ない返事。
でも彼はもうわたしのことを知り尽くしてるから、その素っ気なさから本意をくみ取り、
立ち止まってわしゃわしゃとわたしの頭を撫でる。おっきな手、あったかい手、だいすきな手。
「ばーか…」
「にバカにされちゃおしまいだな」
「なっなにおうっ!」
甘すぎず、程良い鋼牙くんの愛情はわたしにとって心地よくて、
鋼牙くんと一緒にいるとその愛情に酔いしれてしまう。そしてどんどん依存していく。
鋼牙くんナシじゃわたしが成り立たな――
「俺さ」
「ん?」
「なんかもう、ナシじゃ無理みたいだわ」
心臓が飛び跳ねた。
いままさにあたしが考えてたようなことを鋼牙くんも考えてた…!
驚いて見上げれば、逆光でよく見えないけどかすかに見えるニッコリとほほえんでいる鋼牙くん。
「。好きだばーか。」
わたしの後頭部に手を添え、ゆっくりとした動作であたしに口付けした。
「鋼牙くん…。」
視線が絡んで、今度はわたしから精一杯の背伸びで口付けしようとしたけど、
それでも身長が足りなかったから鋼牙くんに屈んでもらってやっとのことで口付け。
「よーしっ!これで力をもらった」
嬉しそうに笑った鋼牙くんにつられてわたしも笑う。
妖怪と人間はこんなにもわかりあえて、こんなにも愛しあえる。
犬夜叉と出会って、鋼牙くんと恋におちて改めて思った。