Side 

(……、どこだろ。)

 喧嘩中とはいえ、自然と探してしまう俺は確実にがだいすきで、これは所謂惚れた弱みとやらなんだろう。いまだにクリフトではなく俺を選んでくれたと言う事実がなんだか信じられなくて、彼女の口からクリフトの名前が出るたび、その疑心暗鬼が濃くなり、けれど彼女の口が俺の名前を呼ぶたび、その疑心暗鬼は薄くなっていった。

「あの……さんですよね」
「? はい、そうですが」

 突然見知らぬ女の子に声をかけられ、少しあせりつつも応対する。すると女の子は急に笑顔になって両頬に手を添えた。少し顔が赤いようだ。

「ずっと会いたかったんです……!」
「あ、はぁ、どうも」

 全く見たこともない子からそんなことを言われてもいまいちピンとこないのだが、勇者と言うのはなかなかモテる職業なのかもしれない。(職業?)

Side 

「よう、ちゃん」
「あ、先輩! お久しぶりです!!」

 サントハイム騎士団の先輩がたです! わあ、本当に久しぶりです! 現役時代はとてもよくしてもらい、いい思い出ばかりです。

「元気してたか?」
「ええ、とても!」
「さっきのスピーチかなりテンパってたね」
「考えごとしてたらいつの間にかマイクがまわってきまして」
ちゃんらしいぜ」
ちゃんいなくなっちゃったから華がなくなったーってみんな嘆いてたんだぜ」
「えええ、また、うまいこといいますねぇ」
「ほんとだって。みんなで泣いたもんな」
「な」
「ふふふ」

 ああ、ほんとうに居心地がいい。サントハイムはやはり自分の故郷だ。

「でもちゃんはクリフトと結婚するんじゃないかと思ったけどなあ」
「ええ、クリフトとですか?」
「あんだけ仲がいいのになあ」



第三戦 絶対度の笑顔で挨拶




Side クリフト

「……はあ」

 まったく、さんも強情ですね。早く仲直りしてしまえばいいのに、仲直りしないから溝はどんどん深まってしまいますよ。

「あっちゃー。あいつら、まだ喧嘩してるの?」
「マーニャさん。そうなんですよ、ずっとあの調子で」

 さんはさんで女性に囲まれて、で男性に囲まれて、これでは再び喧嘩でしょう。ええ、喧嘩でしょうね。

「あいつらでも喧嘩するんだねえ。いっつも仲良かったから、意外だ」
「私もびっくりです。お互い穏やかな気性の持ち主なので、喧嘩することすら意外です」

 私と は幼少のころからの仲なので、昔はくだらないことでよくケンカしましたが、それも昔の話。

「けれど周りがどうこうやると逆にややこしくなってしまいそうですね」

 たとえば私が入ったら、一番ややこしくなってしまうでしょう。ですので見ていることしかできないのですが……ああ、頼むから早く仲直りしてほしい。大体私となんて兄妹のようなものなのだから、何も恐れることなんてないのに。

「まあ、あんたとは確かに仲がいいからね。やきもちをやいちゃう気持ちもわからなくもない」
「ですが……仲がいいだけですよ?」
にはその感覚がわからないんだろう。だから、こんなことになってんだろうね」

 という、異性でありながら異性でないような感覚の幼馴染の存在は私にとって当たり前でした。けれどともに育ったからこそそれは当たり前であり、そんな人がいない人からすればこれは当たり前ではない。

「……どうしたらいいものでしょうか」
「当人同士の問題だね。さ、なんか食べようじゃないの」

 話を切り上げてマーニャさんが陽気に言いました。私も頷いて、マーニャさんについていきました。するとどうでしょう。なんとが反対方向から私たちのほうへやってくるではありませんか。おそらく当人たちは、自分たちが近づきあっていることに気づいていません。
 ―――どうしましょう。静かにあわてる私。
 そんな私の不安をよそに、やがて二人は私とマーニャの目の前でばったりと出会いました。

「クリフ……!?」
「マー……!?」

 は私を、さんはマーニャさんに気づいて声をかけたところで、お互いの存在に気付いたようです。

「……、あなた随分と楽しんでたようですね」
「そっちこそ」

 このピリピリとした空気、どうすればいいのでしょうか……。

「まあ、楽しんでください」
「楽しむよ」

 ……これが、絶対零度の笑顔というやつですか。見るものを凍らせるこの笑顔の交し合いは、できれば二度と見たくないものですね。やがて二人はお互いに背を向けて来た道を戻っていきました。
 私はマーニャさんと目くばせをして、苦笑いをしました。

「フォローしてやりたいところだけどね」
「逆にだめになってしまいかねませんからね」

 神よ、二人を仲直りさせてくれませんか。


Side 


 なんだよ、なんだよ、のやつ。昔の仲間だか何だか知らないけど、仲良くして。でれでれしてたじゃないか。くそ、くそ。もやもやとする。仕方がないことだというのは、わかっているつもりだった。ただの仲間だということもわかっていた。でも――どうして、こんなに嫉妬してしまうのだろう。

「どうしたんですか?」

 俺の周りを囲う女の子の中の一人の子が、心配そうに尋ねた。

「……ううん、なんでもないよ」

 心配させないようにほほ笑むと、彼女は狼狽えた。……なぜ、狼狽えるんだ? ああ、もう。、どうすればいいんだ俺は。


Side 


 もーめ! むっきーです!! あれだけ女性の方がわらわら群がっていて、満更でもなさそうなのに、わたしのこと、悪く言えますか? むう。

「勇者さんのところいかなくていいのかい?」
「いいんです。……いつも一緒にいますし」

 喧嘩してる、ともいえず、適当なことを言います。ああーもう。どうすればいいのでしょうか。