侍女からお呼びがかかりいよいよ導かれし者たちが会場へと向かう。パートナー同士で並列に並んで、一番前は&マーニャペア。次にアリーナ&ライアンペア。&クリフトペア。ミネア&ブライペア。トルネコ&ネネペア。といった具合に縦一列に並んでアリーナの部屋を出た。 「ええと、腕を絡ませればいいのですよね」 「はい。……、ほんとうにいいのですか? 仲直りしなくて」 「ええ、かまいませんよ。クリフトが気にすることではありません」 「(気にしますって……)」 問題はと自分との親交にあるといってた手前、引け目を感じる。この幼馴染の頑固さは重々知っているがため、今後を思うと気が重い。喧嘩があったとしたら、妥協なんかは決してしない。自分の納得できる結論に至るまでは決して譲らない人だった。時間が経ってある日ケロッと元通りと言うのはあるが、その時間と言うのが、一日であったり一週間であったり、不定であった。今回はどれくらいであろうか。あるいは二人できちんと解決するのだろうか。いつもそばにいて悩みや愚痴なんかを聞いていただけに、自分なしでも大丈夫なのだろうか、と不安になる。 クリフトはこの幼馴染が心配でならなかった。 「そういえば、ここ数年どうです? 元気ですか?」 そんなクリフトの心配をよそに、は朗らかに尋ねた。 「元気ですよ。しかも最近、少し女性から持て囃されるようになりました」 「身長が少し伸びたからでしょうか。よかったですねー」 「あっわかりました? 実は伸びたんですよ」 身長が伸びたからでなくて、がいなくなったことにより、親しくなれるチャンスが巡ってきた女性が次々にクリフトにアタックしているのだが、そのことに当人たちはなにも気付いていない。は無意識に前を行くとマーニャに目をやった。彼らは楽しそうに談笑していて、は嫌な気持ちになる。 (仲良さそうじゃないですか……ふんだ。知りません) 「今日は楽しみましょうね!」 「そうですね。……悪いことは言いません、早く仲直りすることです。そうすればもっと楽しめますよ」 「はで楽しんでいるようなので、結構です」 に言われて目をやると、確かに楽しそうだった。どうやら幼馴染は現在やきもちを焼いているようだった。なんだ、可愛いところあるんじゃないですか。とひそかに微笑む。恋愛沙汰には無縁だった彼女がいまや、やきもちを焼くまでに成長しているなんて、意外だし、なんだか取り残されたみたいで寂しくも思った。 階段を下りて外に出ると、衛兵が会場までの道を並んで作っていた。は差し出されたクリフトの腕に抱きつき、その道を進んで行くと、衛兵たちの道は途切れ、変わりに芝の上に敷かれたレッドカーペットが先の主賓席まで伸びていて、そのカーペットを囲う大勢の人の姿が見える。会場にはいくつものテーブルとたくさんの料理が載っている。あまりに豪勢なパーティ会場の様子に、パーティに出馴れていないとクリフトは一気に緊張に襲われる。 「どうしましょうクリフト……緊張してきました…!」 「私もです……! そういえば何か言うんでしたっけ?」 「ああそうだった! なんていいましょう……」 なんて二人であたふたしているときだった。 「ちゃんにクリフトー! 相変わらず仲いいなー!!」 「ヒューヒュー! あっついぜー」 誰かからの冷やかしが聞こえてくる。誰が言っているのかとおもってそちらを見れば、サントハイムの兵士たちだった。彼らは皆の知り合いで、は眉を寄せて「もう」と呟く。 「そちらも相変わらずですねー!」 「まあなー!」 はイタズラっぽく笑っている兵士たちに手を振り、再び前を向いた。 「サントハイムは変わらずいいところです」 「そうですね」 一方もその会話は聞こえていて、彼の表情に穏やかさのカケラも残っていなかった。 「……おーい? なんかコワーイ顔してるけど」 「いつもどおりだよ」 「はははは……」 頼むから早く仲直りしてくれ、とマーニャは心のそこから思った。主賓席は簡易的なステージになっていて、階段を上り、サントハイム王や大臣たちが待つ主賓席までやってきた。サントハイム王にそれぞれ一礼をし、横一列に並び組んでいた腕を解いた。ステージ上から改めてパーティ会場を見ると、とてつもなく広く感じる。おかしいな、サントハイム城の庭はこんなに大きかっただろうか。それにこんなに人はいただろうか。 (臆病者には敵が大群に見えるという言葉があります……! 臆病者ではないはずですよ!!) が地味に葛藤しているなか、サントハイム王が導かれし者たちの前に出て、マイクをもってパーティの参加者に向かって言葉を送った。 「みなのもの、よく聞いてくれ。今日は世界を救った勇者たちの偉業を讃えるパーティじゃ。この世界に穏やかなときが流れているのは他でもない、彼らのおかげ。感謝しようではないか!」 どっと歓声が上がる。彼らは心のそこから喜んでいる。の胸に温かいものが広がった。 「ではから……」 サントハイム王はにマイクを手渡した。は人前に立ってスピーチなどすることが大の苦手なのでははらはらと彼を見守る。彼の表情はこの会場に似つかわず、厳しい表情だ。 (って、の心配なんてべつにしなくていいんですから……。あんなわからずや) のころころ変わる表情で、大方何を考えているのか判っているクリフトは、笑みがこぼれそうなのをこらえた。素直になればいいのに、なんて胸中で呟く。 「ええーー……と、このたびは、このような素敵なパーティを開いていただき、恐悦至極に存じます。その、ボクたちが世界を救えたのは、ええと、みなさまのおかげです」 「ちょっと、サントハイムの人はそんときピサロに封印されてたんじゃないか」 マーニャがツッコむ。 「ああそうだった! ―――どうも、失礼しました」 どっと笑いがおき、女性が口々に可愛い、と言っているのが目に入った。(厳密に言えば可愛いと言っているように見えるだけだが)それが面白くなくて思わず顔をしかめる。は自分の夫だと言うのに。 (―――べつに、べつに……わたしには関係ないんですけど。だって、) 「はい、殿」 「はい。って、わ、わたし?」 やけに達成感でいっぱいの顔でライアンからマイクを渡されて動転する。いつの間にやら自分の番のようだった。緊張で手ががたがたに震えてしまうが、そんな震えを感じさせないように無理矢理笑顔を貼り付けて「ええと」と口を切る。 「お日柄もよろしいようで……その、パーティ日和と言いますか」 ちら、とクリフトに視線をやると、彼はが助けを求めてくるのが予測できたらしく、ふい、とがクリフトを見たのと同時にあさっての方をむいた。見捨てられた気がして、うぅ、と瞳がうるむが、頑張ってそれとない言葉を紡ぎ、 「みなさんお楽しみくださいませ……」 ささっと締めくくり、クリフトのほうを見ずに、ずい、とマイクを渡した。 +++ 無事、皆のスピーチは終わり、立食パーティは堂々開始した。導かれし者たちは壇上から順に降りて行き、たくさん盛ってある美味しそうなご馳走へと各々歩いてく。は何を食べようかと皿を両手に持ってきょろきょろと見渡していたのだが、食欲をそそるパスタのにおいが鼻腔をかすめたので、パスタをいただこうと思い、何種類ものパスタが盛ってあるテーブルへ歩み寄っていったのだが、ふとの視線の先にが現れた。それだけではない。なんと彼もパスタへと向かっているではないか。自然と足が彼とは反対の方へと向かったのではその自然に従って結局、パンを食べることになった。 |