「桔梗、というのはとてもいい名ですね。」
「……?突然どうした。」
風が一陣吹いて、桔梗との髪を揺らした。
「昔、桔梗という花の花言葉を聞いたことがあるのを思い出しました。」
かつて主君が妻に桔梗を贈った際に教えてくれたことがの頭によぎる。
「花言葉か。」
「ええ。"変わらぬ愛"、という意味です。」
桔梗は困ったように笑んだ。
「"変わらぬ愛"か。縁遠いな。」
「そうでしょうか。いつかは桔梗だって誰かを好きになり、きっと私なんかと話してくれなくなります。」
「よしてくれ。ありえない話だ。」
彼女は四魂の玉を護るために犠牲にしているものだらけだった。
本当は普通の女の子なのに、巫女という地位がそうさせない。
「しかし愛に勝るものはありません。」
「どうしたのだ、妖怪らしからぬ発言だな。」
「それもそうですね。」
の笑顔を見ていると、心の中にある弱いもの、醜いもの、
すべて出してに受けとめてほしくなる。彼ならば受けとめ、許してくれる気がするのだ。
「……、私は恐ろしいのだ。誰かを愛して、そこを妖怪につけいれられるのが。」
「怖いのですね。」
はそっと桔梗の肩に手を回しぎゅっと抱き締めた。
桔梗は驚き硬直するが、の体温を、匂いを感じ徐々にほぐれていく。
「何の心配もいりません。私がついています。」
「……ぁ、どうしたのだ。お前らしくない……。」
桔梗のなかにある淡い恋心が静かに桔梗の心を侵食しはじめた。
(ダメだ、いけない。好きになってはダメだ。)
「桔梗は一人ではない、とわかっていただきたくて。」
「が私を護ってくれるのか?」
「この命ある限りは。」
「ありが、とう。」
「ですから愛することから逃げないでください。」
「を愛してはダメかな…?」
の腕から出て、気持ちが伝わるように、とじっと見つめる。
だめだ、だめだとわかっていながらも、胸を侵す恋心が桔梗に衝動を与え続ける。
「私を、愛してくださるのですか?」
ひどく狼狽しているようだった。
白い肌に赤がさし、目を見開いていて明らかに動揺している。
「あ、愛せとか言ったのは、おまえだろう……!」
「いやしかし、いくらなんでも安直ですっ。誰でも良いわけではないのですよ。」
「誰でも良いわけじゃない!」
がいい、という言葉が出てこない。
「よ、妖怪からかっちゃいけませんよ。」
「からかってない!」
「いえ、からかってます。ひどいです!」
「だからからかってないと言っているだろう!」
この不毛なやりとりがしばらく続いたという。
「桔梗お姉さまが珍しく取り乱してる…どうしたんだろ。」
近くを通りかかった楓が不思議そうに見ていた。
変わらぬ愛