「おろ?」

運命の人がこの世のどこかにあるとは思ってたけど、まさか、タイムトリップ?先で出会うなんて思わなかった。
いや、まだ運命の人って決まったわけではないのだけど、そんな気がするんだ。

「何見てるでござるか。」
「いやあ、なにも。」
「そうか。」

ふわりと笑った剣心がなんだかとても愛おしくて、わたしの胸がときめきを訴える。

「ねえ、わたしって、剣心に会うためにここにきたのかな。」

剣心が、ふふ、と笑った。なんだよう。

「本気でいったのに。」
「すまんすまん。つい。」

頭を撫でられて、なんだかぼーっとしてしまう。
剣心の顔はとっても整っていて、まるで目の前には美しい絵があるようだった。
造られたかのような剣心の顔に、刻まれた痛々しい十字傷。
ミロのヴィーナスは腕がないから美しいように、剣心もこの十字傷があるからこそなお美しいのかとも思う。
その傷をつけた人をわたしはよく知らないけれど、でも、いまはわたしがいるんだから。

「……好き?」
「な、なにをとつぜん。」
「好き?」
「ん……。」

剣心が困ったような顔で笑った。
ああ、困らせちゃったみたい。

「なあんて、」
「―――好きでござるよ。」

おどけてみせようと思ったところで告げられた愛の言葉。
不意に抱きついてみる。剣心を独り占め、なんだかいい気分。
かぎなれた剣心のにおいをめいっぱいすいこむ。

「甘えん坊でござるなあ。」
「だめかなあ?」
「いいや。拙者は好きでござる、甘えん坊。」

ぽん、と手を置かれなでなで。
はあ、落ち着く。

「このまま、二人で、溶けて一つになれればいいのに。」

わたしたちは対となって生みだされた二人。
二人でいて初めて一人になれる存在。

―――だと、信じたい。

「けれど一つになってしまってはこうやって抱き会えんな。」
「うーんたしかに。でも、一つになれれば離れることもないよ。」

たとえば抗えないなにか大きな力によってわたしがもとに世界に戻されてしまったり、
あるいは、やがては二人を死が分かつでしょう?
一つになれれば、きっとそんなことないもの。

「絶対に離れたくないんだ。」
……。」

こんなに人を好きになれる幸せと、人を好きになることによる不安を感じながら
わたしたちは互いの存在を確かめるように抱き合った。




ひとつになれれば