大きなお部屋に案内された。迷子センターにしてはなんだかお家みたい。最近のテーマパークはすごいんだなあ。

殿、入っていいか?」

 この声は、剣心さんかな?

「どうぞー」

 間もなくしてふすまが開いて、赤毛の剣心さんがやってきた。

「少し、話を聞いてもいいでござるか?」
「あっはい、なんなりと。」

 剣心さんはわたしの目の前に座った。んーやっぱりすごい整った顔。

殿は、いったいどこからきたんだ?」
「わたしですか? わたしはえーと、未来からやってきました」
「……み、らい?」
「はい、だって、ここ明治なんでしょう? 明治、大正、昭和ときて、平成の世からやってきました」

 えええーここは突っ込まれるところだと思うんだけど!!! 何県かとか聞き返してくれると思ったのに、この人、どこまでも変。ほんとに明治時代の人みたい。

「では、未来の日本はどのような姿でござるか?」
「んー……。高いビルがいっぱい、洋服着てる、街の灯りが明るくて星が見えません」

 ざっくりしすぎて何て言えばいいかわからなかった。結果、全然伝えられなかった。

「……殿」

 剣心さんが、真剣な顔になった。

「真剣に答えてほしい」
「はい……?」

 真剣な顔は苦手だ。真剣な顔でされる話とかって、大抵悪いことってイメージがあるから。

「本当に未来からきたのか?」
「……本当にって、だから、平成ですよ、未来とか、そんな」
「この時代は明治でござる。平成ではござらん」

 どきどき、と心臓がいやに早くビートを刻む。うそだ、うそだ、ドッキリだ。平成じゃないなんて、こんなまじめな顔で言われたら、信じちゃうよ。

「そんな……あっ!」

 慌ててポケットからケータイを取り出す。それを確認し、愕然とする。

「圏外……」

 どんどんと不利な要素が増えていく。

「あの、剣心さん、冗談とか、からかいとか抜きで、本気でいってるんですか?」
「ああ、ここは本当に明治の世でござる」

 困った、困った、困った。嘘だ、嘘だ、嘘だ。
 ここは明治? ここは平成じゃないの? なんで? どうして??

「……わあああああ!!!!」

 頭を抱えて腹の底から叫んでしまった。

「わたしどうして明治に!?!? じゃあ、英語とか通じないんですか? Can you speak English!?!?!?」
「きゃん……? 英語とは、西洋の言葉でござるか、拙者は全くわからんなあ」
「んううう……、どうしよう、わたし、どうすればいいんでしょう? どうすれば元の時代に戻れるのでしょうか?」
「皆目見当もつかんでござるな。ともかく、悩んでも仕方ない。元の時代に帰れるまで、ここにいるといい。力になれることがあれば拙者、力になる。それにここにはいい人がそろっている。大丈夫でござるよ」
「……はい、ありがとうございます」

 この人のやさしい笑顔は、とても頼りがいがあった。

「わたし、家事とかはあまり得意でありません、要領もあまりよくありません、運動神経も並み以下です。こんなわたしでも、できることがあれば、なんでもいってください。あっお着替えとかはあります」
「しかし、そのような格好で町を出歩いてはいささか目立つだろう。出歩くときは薫殿から着物を借りるといいでござるよ」
「お着物ですか……わたし、着方とかわかりませんけど大丈夫でしょうか?」
「薫殿に着させてもらうといいでござるよ」
「わかりました、ほんとなにからなにまですみません」

 はああ、明治で出会った人が剣心さんでほんとよかった。これがもし遊郭とかだったら……今頃花魁とか! ないか! わたしじゃ無理か!!

「しかし、拙者人のこと言えんが、珍しい髪色でござるな」
「ああ、これは染めたんです。髪が伸びれば根元は黒くなります。って、じゃあ剣心さん地毛なんですか?」
「そうでござる。……堅苦しい言い方はよしてくれ、剣心でいい」
「ええ、失礼ですがお年は?」
「28でござるよ」
「ひょええええ!!!! み、みえない!!!」

 せいぜい20代前半だろう。まさかアラサーだとは。

「年なんて関係ない、同じ家で暮らす者同士、かたっ苦しいのは抜きでござるよ」
「う、はあ……」

 なんだか、この笑顔には勝てないなあ。