ジョナサンさまと距離があいてしまった気がしてから、わたしはそれはそれは気分の上がらない日々が続きました。あのことを話してくれない以外、ジョナサンさまとわたしの間は別段普通でした。会えば挨拶もするし、お話もします。けれどわたし自身が距離を感じてしまっているため、もどかしい気持ちばかりが残ります。 ぼんやりとしたまま、ジョースター邸のエントランスの掃き掃除をしていると、エントランスの大きな扉が開かれました。目をやると、ディオさまのご帰宅のようでした。 「」 「おかえりなさいませ、ディオさま」 「ただいま。……なあ、やっぱり君、最近元気がないな。どうかしたのか?」 どきん、と胸が締め付けられました。なぜ、ばれたのですか。普段は気を引き締めてるのですが、ディオさまと会ったのは不意だったので、全身から負のオーラが出ていたのかもしれませんね。指摘されて、ますます落ち込みます。 「ちょっと……色々思うことがありまして」 「話してみろよ、話せば楽になるとかいうだろ?」 「ありがとうございます……。でも案外元気なんですよ?」 「嘘はよくないぜ、なあ、ぼくじゃダメか? ぼくじゃ、君の力になれない?」 「そんなことはないのですっ。……あっ」 再び扉があき、今度はジョナサンさまがお帰りになりました。ずきんと痛む胸を無視してわたしは、無理矢理笑顔を作ります。 「おかえりなさいませ」 「あ、ただいま。……それに、ディオ」 「、ちょっとぼくの部屋にこいよ」 「え? ですがわたしまだ掃除――――」 「いいじゃないか。緊急の用事ができたんだ。ほら」 ぐい、とわたしの手をもってずんずんと進んでいくディオさま。ジョナサンさまを見れば、なぜだか感傷的な顔でわたしを見ていました。どうしてそんな顔をしているのですか? 何がジョナサンさまを悲しませているのですか? わたしには、言えませんか? The moon longed for the sun冷たい月と優しい太陽「急に連れ出して悪かったな」 ディオさまの部屋にやってきて、ディオさまは椅子に座るように促しました。その通りにし、わたしたちは向かい合って座りあうと、ディオさまは開口一番にそういいました。 「いえ」 「君が元気のないのは、ずばりジョジョに関係しているだろう?」 「……そうなんですけど」 「、相変わらずわかりやすいな」 うー……相変わらず鋭い。頬杖をついてこちらをいたずらっぽい笑みを浮かべ見ているディオさま。 「どうしたんだよ。ぼくは君に笑っていてほしいんだぜ」 「………なんていうか、最近ジョナサンさまと距離があいてしまったなって思っていて。気のせいかもしれませんけど」 「へえ、なるほど」 「もどかしいです。まあくよくよ悩んでも仕方ないことです……。誰かと会っているときは気を張っているので大丈夫なのですが、ひとりで仕事をしているとつい、思い悩んでしまいます。心配かけてすみません」 「は本当に、ジョジョのことが好きなようだ。なあ、ジョジョじゃなくて目の前にいるぼくはどうなんだ? 君の気を引くことはできないのか?」 思わず目をぱちくりします。ディオさま……考えたこともない選択肢でした。綺麗で、美しい。けれど、何を考えているのか計り知れない奥深さと言いますか。そのようなものも感じる、ディオ・ブランドーさま。 「その間は、考えたこともないって感じだな」 「考えたこともない、といいますか、わたしごときがディオさまを好きになれませんよ」 「けれど君は、ジョジョが好きなんだろう?」 「ま、まあ。そうですね」 ジョジョが好き―――その言葉にぼっと火がついたように熱くなるわたし。そっか、わたし、ディオさまを考える暇なんてないくらい、ジョナサンさまでいっぱいいっぱい、なんですね。 「……そうか。無理矢理連れてきてしまって悪いな」 「あ、いえ。……それでは失礼します」 うーん、やっぱりディオさまが考えていることはよくわかりません、急に冷たく感じます……。突き放すような、そんな感じ。そのことに少しの恐怖すら感じつつ、わたしはディオさまの部屋を出ました。 部屋を出てエントランスに戻ろうとすると、ジョナサンさまが廊下でぼんやり何かを眺めているのが見えます。あれは亡きお母様の遺品である、石仮面です。少し気味が悪いのは内緒です。 「ああ、」 わたしに気づくと、ジョナサンさまはふわ、っとほほ笑みました。 「ディオに連れていかれただろ? 少し気になってさ。大丈夫かい?」 目の前で心配そうに聞くジョナサンさまに、叫びたくなりました。あなたのせいです、と。でもできない。理性が制御します。でも、叫んだら、何かが変わるのでしょうか。わたしとジョナサンさまの関係は、揺れ動き、そして変化するのでしょうか。 でも。 「大丈夫です。ありがとうございます」 変わるのが怖いです。今以上に距離があいて、もう二度と縮められない程距離が空いてしまうことが怖いです。ですので、あなたへ気持ちを伝える勇気もありません。かといって諦めることもできません。いずれジョナサンさまは可愛くて綺麗なひとと結婚してしまいます。家にいるメイドと結婚なんて、天と地がひっくり返ってもないんです。 「そっか。ならよかったよ」 なぜそんなに優しいのですか。……今は、その優しさが辛いです。 |