ジョナサン・ジョースターさまというのはわたしの仕えているおうちのご子息様でして、とっても勇気あふれるお方で、素敵な男性なんです。年も近いことから、仲良くさせてもらっていて、友達とはまた違うのですが、それに似た感覚で接してもらっています。そしてそんなジョナサンさまに、憧れを抱いているわたしです。

「ジョナサンさま、夕飯の時間でございます」

 読書をなされていたジョナサンさまが顔を上げてにこっとほほ笑むと、栞を挟んで本を閉じました。

「ありがとう、すぐ行くよ」
「はい、お待ちしております。では失礼します」
「ああ、。」
「? はい」

 ジョナサンさまの部屋から出るところを呼び止められまして、振り返ります。

「今日の夜もお話をしないかい?」
「は、はい! 喜んで!」
「ありがとう、じゃあぼくの部屋で待っているね」

 たまにジョナサンさまのお部屋でおしゃべりをすることがございます。とても些細なことなのです、お話しすることは。今日あったこと、ダニーとのこと、そんなことを喋っては、笑いあって、時間になって、また明日、といい、わたしは部屋に戻ります。
 昔からこれはたまにやっていることで、けれどこれは二人の秘密です。お父様であるジョースターさまが知られましたら、

 ――紳士たるもの、夜中にも年端も行かぬ女性と密かに会ってはならん!

 と言われてしまいますからね。
 るんるん気分でジョナサンさまのお部屋から出ます。はあ、今日もいい日です。




The moon longed for the sun
太陽に焦がれる



 きょろきょろとあたりを気にしつつ、控えめにノックをすると、扉の奥からくぐもった声の「どうぞ」と聞こえてきました。再びあたりを警戒し、誰もいないことを確認してわたしは急いで扉を開けてジョナサンさまの部屋に入り込みます。

「やあ、お仕事終わったんだね」
「はい、終わりました。お待たせして申し訳ありません」

 ジョナサンさまはベッドに座って夜空を眺めていましたが、くるっと振り返って、ニッといつもの笑顔をわたしに向けてくれました。

「いや、いいんだ。待っている間も君のことを考えていて、楽しいからね」

 !!
 ジョナサンさまはたまに爆弾のようなことを言うので、わたしの心が爆発してしまいそうです。

「あ、あ、あはは!」

 そんなときわたしは笑ってごまかすのです。ジョナサンさまは何の気なしにいっているだけで、浮かれているのはわたしだけなのですから。
 わたしたちはいつものように丸いテーブルを挟んで座り、今日あったことを喋りあいます。

「そういえば、聞いたかい? この家に、父さんの命の恩人の息子がこのジョースター家にやってくるってことを」
「あ、聞きましたよ! なんでもジョナサンさまと同い年だそうで」
「うん。楽しみだけど少し不安だなあ。仲良くできるかな?」
「ジョナサンさまなら大丈夫ですよ。安心してください」
「あはは、にそういってもらえるとなんだか本当に安心するよ、ありがとう

 その男の存在が、わたしたちの間に何を植え付けるかなんてこのときのわたしたちには想像もつきませんでした。まだ見ぬその男――ディオ・ブランドーという男に思いを馳せて、彼と生活していく様子を思い描きました。
 数日後、ディオさまが馬車に乗ってやってきました。ジョースターさまに召集をかけられたので、どぎまぎとジョースター邸のエントランスでその時を待ちました。

「君は今からわたしたちの家族だ。わたしの息子ジョジョと同じように生活してくれたまえ」

 ディオさまは、白いお肌に綺麗な金色の髪、切れ長の赤い瞳。女性でしたらさぞかし美人だろうとわたしは思いました。ジョナサンさまとともに現れて、隣でたたずむ姿は凛としていて、自信にあふれている印象を受けました。
 対するジョナサンさまはどこか浮かない顔をされていまして、どうかしたのでしょうか。それどころかなぜかボロボロです。

「ジョースター卿、ご厚意大変感謝いたします」

恭しく一礼をしたディオさま。

「ジョジョも母親を亡くしている。それに同い年だ、仲良くしてやってくれたまえ。ジョジョ……ダニーのことはもういいね?」

 ダニーのこと……? なにかあったのでしょうか。それで、浮かない顔を?

「はい……。ぼくも急に知らない犬が走ってきたら、吃驚すると思うし、気にしてません」

 ディオさまが、なにかしたのでしょうか。ううーん、事情が呑み込めませんが、心配です。

「来なさいディオくん、君の部屋に案内しよう! みんな、集まってくれてありがとう、仕事に戻ってくれ」

 ジョースターさまの言葉に、わたしたちはそれぞれの持ち場に戻りました。その日の夕食はディオさま歓迎のちょっぴり豪華なディナーなので、会場のセッティングをせっせかしていました。
 準備も終わり、食事も運ばれ始めたので、わたしは夕食を知らせに参りました。まずはジョースターさま。次にジョナサンさま。ノックをすると、元気のない声でどうぞ、と言われました。

「失礼します。ジョナサンさま、もうじき夕食ですのでご準備くださいませ。」

 ベッドに寝転がっていたジョナサンさまに声をかけます。

、今日の夜も、お話がしたい。」

 ジョナサンさまは天井を見上げたままそうおっしゃいました。わたしはジョナサンさまの様子が気になっていましたので、誘ってくださったことはとても好都合でした。

「わたしもお話がしたかったです。それでは、また夜に」

 わたしの返事を聞くと、ジョナサンさまは顔をこちらに向けて、にっとほほ笑み、「ありがとう」といいました。ぺこっと頭を下げて、ジョナサンさまの部屋を後にしました。
 そのあとはディオさまです。これがディオさまとまともに関わりあう初めての機会なので、緊張をしていました。
 ノックをすると、はい、と返事がありましたので震える手でドアノブに手をかけ、ディオさまのお部屋に入ります。
 ディオさまはベッドに腰掛けていました。

「失礼します。メイドのです。よろしくお願いします」

 頭を下げて自己紹介をします。

さん。ぼくはディオ・ブランドー。よろしくね」

 微笑みを浮かべながら、ディオさまはわたしのもとへ寄ってくださり、手を取って言いました。近くで見るとますます端正で、わあ、と心臓が高鳴りました。

「さん、なんていりませんよ! 、と呼んでくださいませ」

 俯いて、熱のこもった頬に自然と空いている方の手が添えられて熱さを確認しつつ言います。

「いいのかい? じゃあ遠慮なく、。なんだかぼくたち年が近そうだね、はいくつだい?」

 握手していた手が離されて、ディオさまに気さくに話しかけます。

「ディオさまの一つ下でございます」

 俯いたままわたしが言います。

「へえ! じゃあ年が近いジョジョとは仲がいいのかい?」
「あ、はい。仲良くしてもらっています」
「へえ……」

 顔を上げてディオさまの顔を見た時、なんと表現したらいいかわかりませんが、ディオさまの顔が少し怖かったのです。まさかそんな顔をしていると思わなくてわたしは吃驚して一瞬固まってしまいました。

「じゃあ、ぼくとも仲良くしてくれるかい?」
「も、もちろんですよ」

 にこっとほほ笑んで頷きました。うーん……気のせい、ですよね。それより早くディオさまとも仲良くなりたいものです。