「哀ちゃん最近、博士に厳しいよね。なんか奥さんみたい」 「はぁ? ちょっと、冗談止めてくれる?」 哀が本当に嫌そうな顔でのことを睨む。睨む哀の姿も可愛くて、はわざとそんなことを言う訳なのだが。けれども本心ではある。博士のメタボリックシンドロームを気にして食事の節制はかなり厳しい。哀がいてくれれば博士のこの体型もどうにかなるかもしれない。暫く一緒にコロンボに行くのはやめておこう、とはひそかに思う。哀の怒る姿も可愛くて好きだけど、自分が怒られるのは御免こうむりたい。 「ねえ哀ちゃん」 「何よ」 「今の顔、可愛いから写メ撮ってもいい?」 「くんってどういう思考回路してるの? すごく興味深いわ」 またまた嫌そうな顔をして哀が言い、コーヒーを一口飲んだ。 「至って普通の思考回路だよ哀ちゃん。待ち受け画像にしたい」 「もうつっこむのも疲れたわ……」 「ちなみに哀ちゃんの待ち受けってなんなの?」 「博士の寝顔」 「えええ!? 博士に嫉妬する日がくるなんて思わなかった!」 哀の携帯の待ち受けは確かに、ナイトキャップをかぶって安らかに眠る博士の姿であった。 「そういうくんの待ち受けは何なの?」 「……博士の食べてる姿」 哀が見せてくれたようにも哀に待ち受けを見せる。コロンボで大好きなスパゲティを食べる博士の幸せそうな姿がの待ち受けであった。哀は、目を細めて小さく笑みを零した。 「まさかくんの待ち受けも博士だとは思わなかったわ」 「俺も、まさか哀ちゃんが博士が待ち受けだと思わなかった。運命かな?」 「そうかもね」 「まじ!?」 「冗談よ」 なんだ冗談か、なんてが肩を落とす。 「ああ。ねえ哀ちゃん」 急にが真面目な顔をして名を呼んだ。急に見せる真面目な顔にいい思い出はない。大抵、嫌なお知らせだ。やめてよ、何も言わないでよ、なんて逃げ出したくなる。 「俺と結婚したら、俺のために色々怒ってくれる?」 「はぁ!? け、結婚?」 突拍子のないの発言に思ったよりも大きな声が出た。そうだ、この男はいつもそう。真面目な顔をして変な子をと言い出すんだ。 「うん。俺の奥さんになったら、俺の身体を心配して色々怒ってくれるかなって?」 相変わらずののストレートな愛情表現に哀は困惑してしまう。嬉しいような、切ないような、不思議な気持ちになるし、なんて返せばいいのかわからなくなる。彼といると自分のペースが乱されて、自分が自分じゃなくなるような心地になる。 「こんなところ見られたら、幼女趣味だと思われるわよ?」 真剣に受け取ってバカを見るのなんて絶対にごめんだ。哀がわざと茶化せば、はにかっと笑顔になる。 「別にいいよ。周りにどう思われようと関係ないし」 「……あっそ」 「年上の志保さんも、年下の哀ちゃんも、どっちも君だ。このままの姿だって、元に戻ったって、俺はずっと好きだよ」 「………ふうん」 頭の先からつま先までじんわりと身体が温かくなるような、幸せの感覚。どうして彼は心の奥底を見透かしたような言葉をくれるのだろう。 哀は携帯のカメラを起動させて、目の前のの姿を捉えてボタンを押す。画面に映ったは幸せそうな顔で、こちらまで幸せな気分になりそうだ。 「お?」 シャッター音を聞いて、途端アホ面になる。ふっと、力が抜けるように笑った哀は、もう一度ボタンを押してそのアホ面も記録に残す。 「待ち受け、くんにしてあげるわ」 「まじ!?」 「このアホ面……なんか魔除けになりそうじゃない?」 「何それ! 喜んでいいのかわからないけど、とりあえず待ち受けにしてもらえることが嬉しい! でももっとカッコいい顔のほうがよくない? ほら、今の姿とかどう?」 「らしくないわよ」 わざとらしく顔を決めたがカメラに視線をやり、なんならウインクまで決めてくる。 「こういう姿のほうがあたしは好きだけど?」 「……急にデレるのやめてくれますか、哀ちゃん」 依然としてアホ面の写真を見せながら言えば、ほんのり頬を染めたが頭を抱えて俯いた。あれ、なんか形勢逆転? なんだか気分がよくなった哀はにんまりと頬が緩むのをどうにも止められそうになかった。 と、そこで阿笠邸の扉が開いてがやがやと賑やかな声が聞こえてくる。少年探偵団の面々がとうとう哀とのいる部屋までやってきた。 「どしたんだお前ら? つか、顔赤くね」 「おにいさんどうしたの? なんか顔赤いね?」 「にーちゃん、腹いてぇんじゃねーの? 顔真っ赤でツラそーだぞ」 「違いますよ元太君! 僕が思うに、さんは照れてるのかと」 「だあああ! うるせー! 帰る!!」 は真っ赤な顔を両手で覆って阿笠邸をすごい勢いで駆け抜けていった。わあああああ! と言うの叫び声が段々遠くはなるものの、暫く聞こえていた。 「オメー何したんだよ、灰原」 「別にー? 何もしてないわ」 たまに見る哀の心底嬉しそうな顔に、コナンは益々この状況を不思議に思った。 「まあ、楽しそうで何より」 コナンの言葉も聞こえないくらい携帯を夢中でいじって、何なら鼻歌を歌っている哀に、益々コナンは疑問を深めたのであった。 |