君は勇者だから、世界を救うしかない。戦いは避けられないし、命だって落としかねない。
そんなことはわかってる。わかってるけど、どうしても傷ついていく君を見ていると怖くて仕方ない。
心も、身体も、戦いを重ねるごとに傷ついていく君は、それでも何事もなかったかのように笑おうとする。
強くて、弱い、。そんなが愛しくて、悲しかった。
「。」
夜中。どうしても寝つけなくて、のいる部屋へやってきた。
彼も寝つけなかったらしく、窓辺に設置されているいすに腰掛けてぼんやりと夜空を見ていた。
彼の影が、ゆっくりと動いた。
「?」
月明かりがを照らしていて、彼の表情がうまくみえない。
「はい。です。」
「寝付けないの?おいで。」
手招きをされて、は小さく頷いて部屋の奥へと入っていった。
の座っているいすのすぐ近くまで寄って、の表情を伺えば、いつもどおり穏やかな笑顔だった。
ああ、だ。と感じると同時に、どうしようもなく愛しく感じた。が、立ち上がった。
「え、あ、?」
気持ちはおさえられなくて、に抱きついた。ぎゅーっと、きつく。存在を確かめるように。
抱きついたの体は細かったが、引き締まった理想的な体だった。
Tシャツごしに伝わってくるの体温が、に安心を与えた。(ちゃんと、生きてます。)
「珍しいね、。」
「今日はこういう気分なんです…。」
どうしようもなく君が愛しくて、
どうしようもなく君のすべてが欲しくて、
どうしようもなく君を閉じ込めてしまいたくて。
はの唇を奪った。
「日々、増えていきますね。」
「…え?」
唇を離して切なそうな表情で言ったの一言に、は不思議がった。
どうにもの心情を読めなくて、なんだかもどかしかった。
「傷、です。」
今日の戦闘でついた頬の擦り傷に、が手を這わせた。
慈しむように、癒すように、そっと。
「ああ…。」
その手に、の手も添えた。
「痛いですか?」
「ん、そんなことないよ。」
の瞳が揺れる。
そしてその瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
はぎょっとした。今日のは何を考えているかさっぱりわからなかった。
「私、怖いんです。が傷ついてしまうこと、死んでしまうことが…」
あなたが勇者じゃなければ、あなたがふつうの人だったなら、
幾度となくそんなことを考えた。
「しょうがないよ、俺は勇者だから、戦わなきゃ。」
「わかってるんです、わかってるんですけど…。」
の胸に顔を埋めれば、聞こえてくるの心音。
少し速い鼓動に酔いしれる。
「いけない子だな。」
「…ですね。」
「大丈夫。俺は大丈夫だから。がいる限り俺は平気なんだ。」
「そんなわけないです…。」
「俺を信じて。」
そういってはの頭に手を添えて、さらにきつくと密着した。
「守りたい人がいる限り、守りたいものがある限り、俺は死なない。」
「ほん、とうですか?」
「うん。俺を信じて?」
再びは言った。
「じゃあ…今夜は一緒にいたいです。」
きっとこんな気持ちになるのは、夜のせい。
だからそんな夜くらいは、そばにいさせて。
ふつうの恋でいい
(けれども運命で出会えた二人だから、)