「あー?」

 こんこん、とノックのあとにヘンリーが顔をのぞかせた。彼はいつも通りへらっとした笑顔を浮かべているがどことなくそわそわした感じがうかがえる。

「どうしたの?」

 しかし無理もないかもしれない。ラインハットが変わった日なのだから。かくいう自分も寝れない。その理由にはラインハットが変わった、ということももちろん含まれているのだが大部分の理由は、これからのことを考えていたからだった。
 ヘンリーはこれからどうするのだろう、旅を一緒につづけるのだろうか? それともここに残るのだろうか。聞きたかったが、そう簡単には聞けなかった。それを簡単に聞けるほど、ヘンリーとの付き合い、ヘンリーへの想いは軽くはなかった。なので心の準備が出来たら、ヘンリーの部屋を訪ねようと思っていたのでヘンリーの来訪はにとって好都合だった。

「ちょっと話さない? なんてさーベッドに入って三秒で寝ちゃったんだぜ」
「そうなんだ、うん、わたしもヘンリーと話がしたかった」
「出ようぜ、いい場所がある」

 部屋を出てヘンリーについていくと、城下を見下ろせるテラスのようなところへとやってきた。家や店の光や、城を囲う水の堀が家々の明かりを受けてぼんやりと輝いている様子が綺麗だった。

「いい景色だろ」
「うん、すごい綺麗……」

 何もかもを忘れてしばらくその景色に夢中になる。時が止まればいいのに、と心の底から願った。

「俺、さ」

 隣に立ってヘンリーが話を切り出す。

「ここに残るよ」

 放たれた言葉がずしり、と心に重しがのしかかった。夜景からヘンリーの顔に視線をずらせば、彼は悲しそうな笑顔でを見ていた。いやだよ、わたしもっとヘンリーと一緒にいたいよ、好きだから、大好きだから。
何も言えないでいるの肩にヘンリーはそっと手をのせた。

「やっぱりラインハットの復興に俺は全力を尽くしたい。それが俺の義務であると思うんだ。」

 彼の表情はもう立派な青年の見せるものだった。もう神殿建設現場でともに働いたあの頃のヘンリーではない。守るべきもの、すべきことを見出した男の人だ。

「でもね俺、どうしてもと一緒にいたいんだ。」
「………え?」
「俺、が好き」

 真剣ながらも少し照れたような顔でヘンリーは言った。

「好きだから、離れたくない、好きだから、一緒にいたい」
「ほ、んと……?」
「ほんと、でも俺、旅についていくことはできない。だからね、もしもさ、も俺のこと好きで、なおかつ俺のそばにいてくれるならさ、俺と一緒になってくれませんか?」

 夢でも見ているみたいだ。

「わたしでいいの……?」
じゃなきゃいやなんだよ俺」

 は感極まってヘンリーに抱きついた。

「わたしも……! わたしもヘンリーが好き、ヘンリーといたい、ヘンリーじゃなきゃいや」
「ほんとか……?」
「うん、うん」

 ためらいがちに手が回され、強く抱きしめられた。夢じゃない、この感触が何よりの証拠。

「絶対に幸せにするからな」
「うん!」
「絶対に俺から離れるなよ」
「うん!」