「ヘンリー、心して聞いて?」
「んー愛の告白?」

 へら、と笑った緑色の髪をきれいに切りそろえているのはの夫であるヘンリー。こうみえてラインハットの王のお兄さん。

「愛の告白じゃなくてね、」
「俺のことスキじゃないの?」
「な、なんでそんなこと聞くの?」
「……俺は大好き大好きで仕方ないのに、は好きじゃなかったら悲しいじゃないか」

 しゅん、と眉を下げて捨てられた子犬のような瞳でを見る。ヘンリーと言う男はちいさいころからが大好きで大好きでしかたのない男だった。奴隷だった時代もが大好きで、光教団の神殿建設現場から抜け出し、ラインハットでの一件を終わらせ、兄であるリュカと一緒に旅を続けるところを、ヘンリーがプロポーズをして見事結婚が決まり、はラインハットに残ることになったのだ。

「もちろん、好きだよ……」

 消え入るような声で言ったのことをすかさず抱きしめて、「ありがとう」と本当に嬉しそうにつぶやいた。

「あの、それでね、ヘンリー聞いてくれる?」
「うん? なあに?」

 話を切り出したものの、もじもじとしてなかなか本題に入れない

「びっくりすると思う」
「と、いうと」
「あのね、わたし……」

 意を決したように隣に座るヘンリーの瞳をまっすぐ見つめる。

「赤ちゃん、できたみたい」
「……え?」
「だ、だから、赤ちゃんができたみたいなのっ」
「え……っと、俺と、の?」
「それ以外ないでしょっ!」
「ほんとうに??」
「ほんとうにっ!」
「赤ちゃん……赤ちゃん……赤ちゃん!」

 とんでもない間抜け面がみるみるうちに喜びの色にそまっていくのがにもわかった。その様子を見てはほっとする。正直不安だったのだ。ヘンリーからの絶対の愛情を受け取っていながらも、赤ちゃんができたことでその愛情が揺らいでしまわないかと。

「よくやりましたちゃん!!! 俺との愛の結晶がついに!!!」
「あ、愛の結晶……まあ、そうだよね」
「まああんだけやってればできるのも当然か! はっはっは!」
「し、しーっ。そんなでっかい声でいわないの!」

 結婚してから毎夜のように愛し合っていることはいともたやすく想像できるだろう。

「いやあとうとうできたか……」
「ヘンリーもお父さんだね」
「……俺、のこと、それから生まれてくるこどものことも守るから」

 やさしく目を細めて、のくちびるを奪った。

「しあわせにするからさ」

 はにかみ笑顔のヘンリーの言葉に、の胸がきゅんと締め付けられた。(ああ、あなたとならしあわせになれる気がする)

「さっそくデールに報告をしよう!」
「そうだね!」

 ヘンリーはの手をさっととって急ぎ足で部屋から出た。てのひらから伝わってくるヘンリーのぬくもりがあたたかくて、心地よくて、安心できて、そわそわとはやあるきの夫の後姿を見て笑みを浮かべた。