さん、さん」
「はい? なんですか!」

 飼い主に名前を呼ばれて駆け寄る忠犬のごとく、ひょこひょことアレックスのもとへ駆け寄る。

「少し、目をつぶってもらえますか?」
「はい。こう……ですか?」

 言われたとおり目を瞑り、首をかしげると、上出来です。とアレックスに耳元で囁かれて身体の芯が甘くしびれる。彼の声は、の鼓膜をジャックする威力が備わっている。

「私がいい、というまで目を開けてはいけませんよ?」
「は、はい」

 自分の目の前で顔を赤くして目を瞑るを見て、アレックスは彼女を押し倒したい衝動に駆られたが、ぐっとこらえて本来の目的を達成する事に努める。
 の手を取ると、彼女は眉を寄せて一瞬小さく震えた。それがとても官能的に見えたのだがアレックスは必死に自制する。そしてどうにかこうにか、任務を完了した。

「あけてもらって構いません」
「はあーい……!?」

 が目をあけると、左手薬指には小粒のアレキサンドライトと思われる宝石の載った指輪がはめられていた。これは一体どういうことだろう。頭が混乱し始めて、よく理解できなかった。

「……これは?」
「指輪です。さん今日、誕生日ですよね?」
「!! ……な、なんでそれを!?」
「秘密です」

 誕生日を知っていることも、指のサイズを知っていることも、不思議でならない。だが、それ以上に不思議なことがひとつ、あった。

「では、なぜ左手薬指なのですか?」

 期待しても……いいんでしょうか? と心の中でつけたして、アレックスを見る。彼はいつもどおり穏やかな笑顔を浮かべていた。

「決まっているでしょう?」

 そういうなり、アレックスはを抱き寄せた。突然の事に硬直していると、耳元で聞きなれた、でもどこか新鮮な英語が聞こえてきた。

「HAPPY BIRTHDAY、

 どきどき、どきどき、胸の鼓動はとても早くて、きっとアレックスに筒抜けなんだと思う。恥ずかしい、でも恥ずかしい以上に嬉しい。彼に誕生日を祝ってくれることが何よりも嬉しかった。

「生まれてきてくれてありがとう。きっとあなたは、私に愛されるために生まれてきたはずです」
「……アレックス、さ―――」

 なにがなんだかわかんなくて、でもただひとつわかること、それは自分がとてつもなく幸せな状況らしいこと。夢? 夢じゃない?

「この薬指の指輪をいただいてもらえますか?」
「……はい」
「と、言うことはあなたは私の恋人です。後悔しませんか?」
「しませんっ!」

 それは胸を張って言える。アレックスと一緒になれるなら、この先どんなことがあったって後悔なんてしないことを誓える。

「好きです、愛してます」
「はい……」

 人生で一番素敵な誕生日だってことは、間違いなさそうだ。



HappyBirthDay