「ピピンがまたちゃんと結婚したいって言ってたよ」

 午後の昼下がり。おやつでも食べよう、と言ってサンチョのつくったケーキを食べていたときだった。が眉を寄せて言った。するとも賛同するように頷く。

「それ私も聞いたよ。訓練所ででしょ?」
「そうそう」
「訓練所で……? なんでまた」

 ピピンはに片思い中なのだった。しかもこれはお城の誰もが知っている事実で、それは勿論の耳にも届いていた。が、冗談としてしか捉えていなくて、ピピンに告白されるたびに笑って流すのだった。

「気合入れるみたいな感じでさま結婚してくださいーーー!!! って」
「……恥ずかしいな」

 恥ずかしげもなくそんなことをいっているなんて、逆にこちらが恥ずかしい。すっかりケーキを食べる気をなくしてしまった。するとが急に立ち上がって、ちゃん。と真面目な顔をしてを見た。

「ん?」
「ピピンと結婚しないでね?」
「するわけがないよ」
「僕と結婚して!」

 顔を真っ赤にして、だがいたって真剣な顔でプロポーズする姿がなんとまあ愛しいことか。 には悪いが、は顔の筋肉が緩むのを感じた。(可愛すぎ!)

「待ってよ、私もちゃんと結婚したい!」
も? は女の子だよ?」
「でもちゃんと結婚したい!」
ちゃんは僕と結婚するんだ!!」
「私よ!!」

 これはいわゆる、幼稚園児が幼稚園の先生に結婚してっていうのと同じ現象なんだろうか。
(……お兄ちゃんのこども可愛すぎるよ)

「じゃあわたし、ふたりと結婚しようかな?」
「「ほんとに!?」」

 そのとき、ガシャンと後方で音がした。三人が反射的に音のした方を見ると、なんとティーセットを載せていたトレーごと落としたピピンがひどく青ざめた顔でたっていた。

「ちょ、ちょっとピピンどうしたの?」
「……どうしたもこうしたも、さま! さまとさまと結婚するんですか!?」
「そうだよ」
「僕もさまと結婚したいです!!」

 今にも泣きそうな顔で叫び散らすピピン。落としたティーポットから零れ出ている紅茶が彼の靴を濡らし続けているのだが、そんなことは気付きもしない。そこが気になって仕方ないは立ち上がってピピンのもとに跪いて急いでティーポットとティーカップをトレーの上にのせ、テーブルの上に置く。

「あああすみません!」
「あーこんなに濡れちゃったよ。……もう、世話が焼けるなぁ。ほら、浴場いって洗おう?」
「きょッ、恐縮です!!」
、ちょっとまっててね」

 そういい残しの部屋を出て行った。

「ピピンにちゃんとられちゃったね……」
「うん……」

 残されたティーセットをちら、と見て二人は同時にため息をついた。

+++

「ピピンはおっちょこちょいだね」
「は、ははは……だってさまがさまとさまと結婚するって言ってたから……」
「現実的に考えなさい。わたし、年上すぎでしょ」
「でも僕は! 年上でもかまいません!!」

 真摯な表情でに言うが、は両手で”声のボリューム下げて”とジェスチャーする。あわてて両手で口を塞いで、たしかに声がでかかったな、とピピンは反省する。

「で、でも僕は本当に年上とかそういうの関係ないです。ほんとたださんと結婚して、さまとのこども作って……」
「わたしとピピンのこども……」

 ピピンのこどもというワードに反応する。のおかげでこどもが可愛くて可愛くて仕方のないなのだが、自分のこどもというものは考えたこともなかった。

「僕の子を産んでくれるんですか!?」
「いいなこども……の遊び相手にもなるし……もしかしたら将来どっちかと結婚するかも………」

 いまにはピピンの声は聞こえておらず、自分の世界で勝手に話が盛り上がっていた。どこの馬の骨かもわからないやつよりも、と結婚するほうが親としても安心できる。

「あ、だめだ」
「ななななぜ!?」
「こどもの前に結婚しなきゃいけないんだった」
「ですから、僕と結婚を……」
「はいはい」

 ふふ、とが笑って、「さあ浴場ついたからあとは一人でできるよね?」と尋ねる。ピピンは首を横に振って「どうでしょう」というが、「じゃあねー」といって手を振って元きた道を戻っていく。

「……手ごわいなあ」

 でもそういうところがいいんだけどねっ、と心の中でつぶやいて、るんるん気分で浴場へ入っていった。