某日、殺生丸の御母堂の屋敷にて。
暇を持て余していた御母堂はいつものようにをからかうことにした。
「。」
「はい?」
すぐ近くでつったっているを呼ぶ。
(つったっているというのは御母堂目線で、実際は見張りをしている。)
「隣においで」
「え、しかし見張りを」
「いいからいいから。」
すぐ隣を手でたたくと、はおずおずと五人ほど入れるくらいの間を空けて隣に座った。
「この隙間は一体?」
「あまり近くでも、と思いまして。」
それにしては空けすぎであろう。
差し詰め、恥ずかしいのだろう。彼は女性の近くというのが苦手なのだ。
綺麗な顔をしていながらにくい男だ。
「……わらわのことが嫌いなのだな。」
知っていて、わざと言う。
しゅんと暗い顔をすれば、は慌てて否定する。
「違います!本当に、あまりお近くにいては邪魔だと……。」
「はやさしいね。いいんだ、もうお帰り。」
我ながら素晴らしい演技だ、と自画自賛する。
「わ、わかりました……。」
は観念して詰め寄った。その距離拳一個分。
「よ、わかってないね。」
御母堂はすっと立ち上がり、の隣にぴったり密着した。
足が、腕が、着物越しに触れ合う。
「近くっていうのは、これくらい。」
耳元に囁きかけると、は真っ赤な顔を瞬時に下げた。だがしかし、耳も赤い。
「照れておるのか?」
「い、え……暑くって」
「嘘をおっしゃい。わらわを意識しているんだろう?」
すっかり怯えているの様子を見ているとぞくぞくっと電流が流れる。
彼に対してはいじめっこ精神が存分に発揮されてしまう。
「御母堂、からかわないでください…」
「ん?」
「お戯れもそのあたりで…!」
「いや。面白いのだもの。」
「む、むごいですよぉ…」
自分のからかいを真っ向から受けてくれるは、自分にとっては起爆剤以外なんでもない。
自分が悪いのではない、彼が悪いのだ。
こうして今日も退屈な御母堂はをいじめていく。