「おお、。」
「おひさしゅうございます御母堂さま。」

麗しく艶やかな女性――殺生丸の母に跪き頭を下げた。

「どれほどお前を待ちわびたことか。」
「闘牙王さまが亡き今、私のような者が出入るのも気が引ける次第でございまして。」
「わらわはならばいつでも歓迎するよ。」

ほほ笑むと更に、麗しい。
亡き闘牙王も麗人であったが、御母堂も麗しい。息子である殺生丸が麗しいのは当然の摂理であろう。

「殺生丸は元気か?」
「ええ。とても素直に育っております。」
「あやつが素直なのはの前だけなのだ。可愛げがないやつよ。」
「照れているだけですよ。殺生丸は本当はやさしい子です。」
「まあ殺生丸のことはどうでもよい。近くへおいで。」

ど、どうでもいい……。
相変わらずの母らしからぬ発言にたじろぎつつも言われたとおり近くへ参る。

「ああ、は本当に麗しい。」

ほおに手をそえ、御母堂は立ち上がる。近くなる距離には少し後退りする。

「滅相もございません。」
「わらわと夫婦にならぬか?」

の目が大きく見開かれ、瞳孔が開いて黄色い目に黒が広がっていく。
さらに顔が真っ赤になり、髪が徐々に逆立っていく。(ここらへんは猫らしい。)
彼が照れているときは必ずこうなる。それを知っている御母堂だから、その反応を見て密かにうれしがる。

「い、いけ、いけません!」

目を逸らし、恥じらいながらも叫ぶ。

「何がだ。」
「わ、わた、私をからかわないでください!」
「からかってない。わらわは本気だ。それともなにか、他に細がいるのか?」
「細などありません。お戯れが過ぎますっ」

の表情がたまらなく御母堂を煽る。
唇を奪ってしまおうか、と思ったその時、急にが御母堂から離れた。

「母上……いい加減、をからかうのをやめろ。」
「殺生丸、相変わらずが大好きなようだな。」

殺生丸が引っ張り、引き離したのだった。

「ぬかせ。」

殺生丸は無表情のままを連れて帰った。

「全くは楽しいな。」

座りこみ、ふっと口角をあげた。


「助かりました。何分女性の色仕掛けは苦手でして…」
「気を付けろ。は女に好かれやすい。」
「好かれているのでしょうか…」

あの御方は苦手だ、と小さく苦笑いした。



憂いの色仕掛け