が阿笠邸にやってきた時は、ちょうど少年探偵団が阿笠邸でワイワイ賑やかにゲームをしていたときだった。哀はパソコンに向かって何やら打っていたが、新一ことコナンは一緒になってゲームをやっていた。二人対戦のゲームらしく、敗者がコントローラーを明け渡す、と言う方式でゲームをやっていた。歩美は不参加で、ゲームをずっと傍で見ていた。そんな様子を眺めながらは課題をこなしていた。
 は本当は、コナンと夜にご飯でもと思ってきたのだが、彼は思いのほかゲームにのめりこんでいて中々誘うタイミングがなかった。そうはいっても夜になれば小学生たちはお開きになるはずだから、は課題をこなすことにしたのだった。
 しかし、課題をこなしているところに敗者となった者がきて、色々お話をしてくれるので結局もお話に夢中になっていた。今度は光彦が負けたようだ。悔しそうにやってきた光彦に、は「やっぱりコナンくんは強いね」なんて声をかける。今のところずーっとコナンが勝ち続けてる。彼は何でもそつなくこなす、歌以外は。

「ねえねえ光彦君ってさ、好きな人とかいないの?」
「えっ、す、好きな人ですか!? そんな、いないですよ!」

 突拍子のない問いに、光彦はひどく狼狽える。

「ええ〜いないの? 歩美ちゃんとか可愛いと思うんだけど、そこんとこどうなの?」

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら光彦に問いかける。この狼狽えっぷり、絶対に好きな子がいるはず。

「歩美ちゃんも可愛いですが僕は……あ、いや」
「ぼくは? なあに。その続き聞かせて」
さん……容赦ないですね」
「お姉さん追及には容赦ないよ」

 きりっとした顔で言えば、光彦は、うーん……と顔をしかめた。

「……絶対に内緒ですよ?」
「もちろん!! だれだれ―?」

 髪を耳にかけ、耳に手を添えてる。色恋の話は大好物だ。内緒なんだから、うっかり新一に話さないようにしないとな、なんて思いながら光彦の言葉を待つ。

「灰原さんが、大人っぽくて、なんか気になるというか……」
「きゃー光彦くんってそうなんだー! えーー!!」
「わーわーさん! 声が大きいですよ!!」
「あっ、ご、ごめん!」

 慌てて口をふさいだ。思いのほか盛り上がってしまった。ああでもわかるよ光彦君、なんて心の中で同意する。哀は同性のから見てもとても大人っぽくて、魅力的だ。実際中身は本物の大人なのだから醸し出す大人っぽさと言うのは当たり前なのかもしれないが、それでもやはり羨ましい。チラリ、パソコンを打つ後姿を見る。後姿すら大人っぽい。

さん視線!」
「あっ、ごめんごめん」

 光彦が声を潜めて窘める。はへらへら笑いながら視線を目の前の光彦に戻した。

「でもわかるよ……哀ちゃんってとっても魅力的だよね。歩美ちゃんも天真爛漫でいいんだけどさ、でも哀ちゃんのミステリアスな感じ? たまらないよねえ……わたしも少年探偵団の一員だったら、間違いなく哀ちゃん好きになってた」
「……さん、実は中身男なんですか」
「そうかもね」
「光彦、次はおめーの番だ」

 いつの間にやらコナンが敗者の控え場所であるのいるテーブルにやってきていた。

「えっコナンくんが負けたんですか? 珍しいですね、ああさん、よろしくお願いしますね!」
「もっちろん! 頑張って光彦君」
「オイ、なーにはなしてんだ、えらい楽しそうじゃねえか」

 光彦が座ってた席に代わりに座ったコナンが、テレビに向かっていく光彦の後姿を見ながらちょっぴり不機嫌そうに言う。

「秘密」
「はぁ? ……まあ、いいけどよ」

 明らかに納得していない様子のコナンだが、守秘義務がある以上言えない。

「少年少女たちは恋に遊びに忙しいんだね、コナンくん」
「なーにがコナンくん、だ。光彦と恋愛話でもしたのか?」
「まあそんなところ。詳しくは秘密だけどね」
「なんだよ、さんが好きなんですーてな感じで言われたのか?」
「新一……」
「な、なんだよ」

 あなた……。

「やきもちやいてるの?」
「はあ!? そ、そんなんじゃねーよ!!」
「何、可愛い、可愛いよ新一。今すぐ抱きしめたい」
「ばっ、るせーぞ!」

 明らかに照れているコナン。のにやにやが止まらない。

「ゲームだって、ワザと負けたんでしょ」
「なんで俺が」
「楽しそうにしてる愛しの彼女と、お友達がなんだか盛り上がってるから様子をうかがいに来たんでしょ」
「よくもまあ自分のことを愛しの彼女だなんて言えるな」
「あれ? 違うの? 愛しくないの? 彼女じゃないの……?」
、おめーなあ……」

 呆れたようなコナンの表情に、やっぱり小さいころの新一を思い出す。当たり前と言えば当たり前だが、なんだか無性に懐かしい気持ちになる。よくこんな顔をしては、なんだかんだ言いながらも面倒を見てもらった気がする。

「そら、気になるだろ」
「大丈夫。わたし、昔も今も新一しか見えてないよ」
お姉さんコナンくんと恋バナしてるのー? 歩美もしたい!」
さんまさかコナンくんにいってませんよね……!」  
「そんなことよりおれ腹減ったぞ」
「今も昔も新一しか、ね」

 気づけば少年探偵団の面々が近くに寄ってきていた。目を輝かせている歩美に、青ざめた様子の光彦、お腹を摩る元太に、意味深な笑みを浮かべた哀。

「よーし! ちゃんがご飯をおごってあげる! いろいろお話ししましょう」

 ぱん、と一つ手を叩けば小学生たちは歓声を上げる。但し、ファミレスだからね! と、主に元太への牽制を込めて付け足す。おれうな重! なんていわれたらたまったものじゃない。
 当初の計画とはずれが生じたが、これはこれで面白い。新一へのノロケを皆にしながらコナンの反応を見るのもまたおつだろう。



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