「アレク……」

 懐かしい面影が、私の頭に蘇る。不器用で、でも一途なアレクサンドル。最後にあなたを見たのは、いつだろう。仏頂面で蛍姫様に仕えていたあの頃がとても懐かしい。

「いまは宝石泥棒サンドラとして、珠魅の核を根こそぎ奪っているよ」

 自嘲気味に口元を吊り上げた。風のうわさで耳にした。宝石泥棒サンドラが、核を狙っていると。すでにルーベンスやディアナ、エメロードはみな手中に落ちて、生き残っている珠魅は本当に僅からしい。なんでも千の核が必要なんだとか。
 目的は、なんなのだろうか。私もそのうち死んでしまうのか。かつての騎士は無事なのか。疑問が毎日のように浮かんでは消えていった。

「あなたが、みんなを殺したの?」

 悪意も、殺意も、軽蔑も、悲哀も、なにも心に浮かんでこなかった。ただ、疑問を口にする。仲間を殺したのは、仲間であるあなたかどうか。

「そうだよ」

 ただ一言。簡潔な回答。

「どうして?」
「……蛍姫様のために」
「私のことも、殺すの?」

 一瞬の、戸惑いの表情。今宵の月がアレクを照らし、そして私を照らす。バルコニーに降り注ぐ冷たい月明かりが二人の影を細長く落とす。

「……ああ」
「それが、あなたのためになるなら」

 私は喜んでこの身を差し出すよ。アレクが驚いたように私の目を見た。何十年ぶりに視線が絡んだアレクの瞳はどこか病んでいるようで、とても痛ましくみえた。そしてアレクは迷っているように見えた。私を、恋人を殺すのを。

(もう彼の中ではかつての恋人になっているかもしれないが)

「躊躇うなら殺して」
「……っは、いいのか?」

 そりゃ死にたいわけではないし、だからといって生きながらえたいわけではない。あなたが煌きの都市から去ってから、私は生きながら死んでいるようなものだった。だから、別に生きることに対しての執着は薄い。生きる意味が、ないから。

「生きる意味は、あなた。でもそのあなたに死ねといわれたら、迷わずこの核を差し出すわ」

 それがあなたのためだというなら。

「ねえ、だから」




君の手で葬って?

愛するあなたに、人生の幕引きをお願いしたいの。