「最近、寂しいなあ」

 憂鬱げに呟いたを、双子は同時に見た。午後の昼下がり、平和な世界の片隅、グランバニア城のテラスでのんびりと時を過ごす三人。

「「なにが?」」

 仲良く同時に同じことを喋った(いわゆる、ハモるというやつだ)のだが、双子にとってそれは今更たいして驚くべきことでも、気に留めるようなことではないので、表情一つ変えない。
 それはにとっても同じで、彼女も何事もなかったかのように話し始めた。

「いやあ、あなたたちも大人に近付いちゃっててさ、お姉ちゃんさみしいよ」

 だってあんたたちくらいの年の時にはもうお兄ちゃんとフローラは結婚してて、子どももいたんだもんね。まあわたしはそのころ全然そんなことなかったけど。あ、いまもだけどね。ふふ。でもさそういうことがあってもおかしくない年頃なわけでしょ。あなたたち。そう考えるとさ、ああ、なんだかなあ、わたしも年をとったんだなあ。ってしみじみ感じるのよ。

 ひとりごとのようにぺらぺらと一人で喋った

「あんな小さかったのに、こんなに大きくなっちゃってねえ。はわたしとおんなじくらいだし、なんてわたしよりも大きくなっちゃったし」
「やだちゃん、私の方が5センチくらい大きいよ」
「うるさいな、5センチの差ぐらい、変わらないと一緒だよ」

 が楽しそうに笑った。すると、扉が開く音がした。音の出所を見ると、ピピンがバルコニーに入ってきたらしい。あからさまにいやそうな顔をした双子。これは昔から変わらない。

さまー! 今日も麗しい、実に麗しい! 麗しい限り! このピピン、白米三杯は余裕です!」
「ピピンは、変わらないね」

 苦笑いに近い笑顔を浮かべたが、全然いやそうではない。その表情にが傷ついたような顔をした。

「まあでも少し、老けたかな?」
「そうですねえ。僕も少し、大人の渋みってのがでてきたかな……」

 そう言いながらも自然と開いた席に座りこむ。こうみえて王族の三人なのだが、その三人の中に自然と入り込めるのは多分、ピピンぐらいだろう。

「捉え方次第ね」
「僕はいいように捉えるんです」
「そうですかー。さて、ちょっとおトイレに行ってくるね」

 ささっと席を立ってがお手洗いへ向かう。三人は後姿を見守って、姿が見えなくなると視線を元に戻した。

さまはどうですか、コリンズさまとは」
「どうって、なにもないっていつもいってるじゃない」
「そうなのですか? なんだ……」
「そういうピピンはどうなの、ちゃんのこと諦める気になった?」
「ばかをいっちゃいけません! さまを諦めるだなんて、ありえません。」
「さっさと諦めなよ」

 がぶすっといった。

「おや、さまもさまのことを……? だとしてもこのピピン、譲れませんよ! 相手が王子だろうと、容赦しません!」
「なんだって! 王子命令だ、ちゃんのことを諦めろ!」
「まあまあ、別にちゃんがピピンのものってわけじゃないんだから」

 が諌めるが、は聞く耳を持たない。

ちゃんと年が近いからって、有利だと思わないほうがいいからね」
「それはどうでしょうね。年が近いほうが何かと有利です」
「そんなこと」
「あら、どうしたの二人とも。いがみ合っちゃって」

 が反論しようとした時に、ちょうど良くが帰ってきた。不思議そうな顔をしながらも、元いた席に座る。

さま、ここはドンと聞かせてもらいます。ずばり、さまとこのピピン、どちらが好きでしょうか」
「どちらが? ……うーん、どっちも好きだよ」

 当たり障りのない言葉には納得できてないようだった。

ちゃん、ピピンが好きなら、はっきりいって」

 むっとした顔をされて言われては、もうーん。と唸る。自分の言葉に偽りはない。ピピンもも好きだ。家族のようで、暖かくて、大好きだ。その好きは彼らが期待している好きとは、もちろん違うが。

「ピピンが、じゃなくて、もピピンももみんな好きなんだよ。それじゃ不満?」

の言葉に、は言葉が詰まった。困った顔をされては、それ以上追及するのも阻まれたし、今はそれでもいいかな、と思ってきたからだ。今、は。

「不満じゃないけどさ。……ちゃん、俺、頑張るから」
「うん? 頑張って??」
「僕もがんばります。いつ様がお嫁に来てもいいように!」
「もう結婚なんて無理よ、そういう年じゃないよ」

 ピピンの言うことなんてもはや耳に入っていない。

「そーう? ちゃんの年ならまだいけると思うわよ」
「うーん。でも、もういい年よ。もう諦めてるわ」

 はにこにこと、何の問題もないだろう、といったように言うが、としてはやはり行き遅れ感が否めない。甥っ子と姪っ子がもういい年だ、無理もないだろう。

「あーーー。誰かもらってくれないかなあ。婚活の旅にでも出ようかな」
「俺がいかせない! 俺がちゃんと結婚するから!」
「ではこのピピンと真実の愛を育みに旅に行きましょう!!」