あたしは女で、も女。その事実は一生変わらないけれど、でも、水をかぶれば途端に男になってしまうは、女ということは事実だけど、男にもなるということも事実。この二つの事実が、いつもあたしを悩ませる。

「恋でもしてるの?」

 あたしのベッドに寝そべって漫画を読んでいるが、に背を向けて机に向かい宿題をやっていたあたしに聞いた。どきっと心臓が飛び跳ねた。男の姿であたしの部屋にいるだけでどきどきして集中なんてできないのに、そんなこと聞かれたんじゃもう、何も手がつかない。せっかく宿題やってたのに……のバカ。ていうか、なんで女の子に戻らないのよ。

「なんで?」

 平静を装ってそっけなく返す。に背を向けているから、はあたしの表情がわからない。だからよかった。いまあたし、たぶん、変な顔してる。

「なんとなく」
「ふうん……」
「否定しないってことは、そういうことか。はは!」
「違うわよ! いないってば! ていうか、早く元の姿に戻りなさいよ」
「んー、お風呂入ったら自動的に元に戻るからそれまではいいかなって」

 ちらっと振り返ってを見ると、仰向けになって漫画に集中している。かっこいい……なあ。って! やばい! 視線に気づかれた!! 慌ててそらしたけどもう遅かった。それまで漫画に向けられていた真剣なまなざしが、急にあたしに向けられて、あたしは机に向き直った途端、石になってしまったかのように動けなくなってしまった。

「ん? どうかした??」
「な、んでもないわ」
「やっぱり」
「やっぱりって?」
「あかね、綺麗になったよね」

 突然何を言い出すの? どうしてそんなこと言うの? あたしは……どんな顔をしてるの?
 くるりと、もう一度振り返る。相変わらずの目線は、あたしに向けられていた。

「恋をすると綺麗になるっていうじゃない? それだと思ったんだ。あかねは最近、本当に綺麗だ」

 ニヤリ、美しい顔の男が口角を上げた。その男性はもはや、“”が変身したではなかった。あたしの目には、彼はひとりの美しい男として映った。胸がざわついて、ドキドキと心臓が急速に動き始めた。もう誤魔化せない。あたしは彼を好きだ。

「恋なんて……してないわよ」

 けれども認めるわけにはいかないの。だって彼はだから。

「ふう〜〜ん? まあ、いいんだけどね」

 悪戯っぽく微笑んだが再びその視線を漫画に戻した。

「でも本当に、あかねは綺麗になった」

 視線をそのままにが言った。

(ばか、ばか、もう、のばか)

 どうすればいいのよ。こんな気持ち。





愛せばいいのに
どこかで誰かが囁きかけた気がした。