「なんか、歩くの疲れてきちゃった」 ぽつりと愚痴を零せば、がそっと肩に手を添えて、歩くの頬にキスをした。(はキス魔だった)暑苦しい、とは言わずには前を見たまま手馴れた様子で彼の肩を押し返した。 「馬車の中で休んでるといいよ」 「ほんとに? ありがとう」 は嬉しそうに馬車の中に駆け込んでいった。 現在馬車の待機メンバーはスラリン(スライム)とラッキー(ドラキー)とクックルー(ピーコ)だ。普通に、彼らが会話でもして楽しんでいる様子を想像して馬車に入ると、そこには驚愕の景色が広がっていた。 「あ、ちゃん。見てヨ! ボクたちなんか、ニンゲンなったみたいなの!」 スライムの陽気な声。だが、そこにいるのはスライムじゃない。紛れもない人間だった。水色の髪色のかわいらしい男の子。その隣には、黒髪の男。多分、ドラキーだろう。そしてその横にはクリーム色の髪の毛の男、たぶんピーコがいた。合計三人の男が馬車にはいた。 「ちゃーん!」 朗らかな笑顔を浮かべたまま、水色の髪の毛の男、元スライムが両手を広げて突進してくる。は硬直したままで、間も無くスライムに抱きしめられた。 「ワーイ! ボクもマスターみたいなことできる!!」 「あ、ずるいぞスラリン。俺もー!!」 次いで、ピーコも抱きついてきた。だが、ラッキーだけは馬車の隅でもそもそとまごついている。 「あれ、ラッキーはこないんか?」 ピーコの問いに、ラッキーはふるふると力なく首を横に振る。そういえばラッキーは、人見知りが激しかった、とは思い出す。と、そのとき、どたどたとにぎやかな馬車の中を不思議に思ったが馬車の中にやってきた。 「、どうし……」 の目に広がる景色はもはや目を疑うほどの信じがたい光景。は二人の男に抱きしめられているのだ。は目を擦って再び見るが、その光景は変わらない。 「あーマスター!」 陽気な、少し抜けてる声のスラリンが、今度はに向かって走って行き、抱きついた。 「な、にこれ……え、、どういうこと? なんの魔法?」 「わたしじゃないよ! なんか馬車に入ったらみんなが人間になってて……」 「あああ、あの!」 ここにきてはじめて馬車のすみでおどおどしていたラッキーが声を上げた。いっせいに静まり、みんなラッキーの方をみた。 「さんっ」 「は、はいっ!」 「ぼく、さんがすきなんです……!」 透き通るような白い肌をリンゴのように赤く染めてドラキーが愛の告白をした。 「わたしもラッキーのこと好きだよ?」 「ほ、ほんとですか!? ぼく、しあわせです……」 「ボクだってのことスキダヨ!」 「俺の方が好きだぜ!!!」 「いいや俺が一番のことを愛しているね」 「「「マスター!?」」」 がの元へ歩み寄る。から離れたスラリンとピーコは黙ってその様子を見守る。 「、愛してるよ……」 ふわり、柔和ながらも、きりり、男らしい笑顔を浮かべてはのくちびるにそっとキスをした。ものいつもと違う表情に圧されてキスを拒むことなく受け入れた。それどころかとてもどきどきしている。 「ウワー! やっぱりマスターはオトナだなぁっ! かなわないやっ」 「だなっ。ちぇー、ちゃんの一番になりたいぜ」 「……やっぱりますたーとがいちばんおにあいですね」 |