と付き合ってからどれくらい経ったでしょう。大して経ってないことは確かだけれど、
わたしたちは最近手をつなぐようになった程度です。夜、町に繰り出してお散歩をしながら話をしたりはします。
そしてその途中で、必ずは手をつないでくださります。いつ繋がれるんだろう、いつ繋がれるんだろう、
と毎度毎度、お散歩の途中らへんから胸が締め付けられます。

しかし今日は、会う前から緊張していました。

『なあに、あんたたちまだキスもしてないの?』

きっかけはマーニャの一言でした。女子というのは、色恋沙汰のお話が好きなのです。
わたしとのお話を、がお迎えに来るまで、宿屋のロビーでアリーナ様、マーニャ、
ミネアさんとしていましたら、マーニャが驚いたように言うのです。

『していませんよ。』

けろっと答えると、あちゃー。とマーニャが頭を抱えます。

『とっくにしてると思ったけど、健全なお付き合いをしてるのね。』

アリーナ様が神妙な顔で言いました。
健全……なんですか。比較するような対象もないので、よくわかりませんね。

『キスしたくないの?』
『そりゃあ……できたら、したい、です、けど……。』
『可愛いわよ!それが普通の気持ちよ!!』

アリーナさまにむぎゅっと抱きしめられました。どきっ。

『もうすぐ、誕生日じゃないですか。誕生日プレゼントはキス……なんてどうですか。』
『ミネアにしては、ロマンティックなこと言うね。』
『姉さん、からかわないでよ。』
『でもそれってありだよね、あたしが男だったこう……がっと抱きしめて―――』
『わあああ!もう!!』
『どうしたの?』

ここでがやってきて、わたしたちは夜のお散歩に向かったわけです。

「――そういえば、そろそろの誕生日だよね?」

どき!と、これでもか!というほど心臓が跳ね上がりました。
なんとタイムリーな話題。先ほどのミネアさんの言葉が蘇ります。

『誕生日プレゼントはキス』

悪くないんです、ほしいものなんてありませんし、がこれからも、そばにいてくれればそれで……。
それにわたしだって年頃の女の子です。好きな男性と、その、キス……だってしたいわけで。
ですがそれを言い出すのには、少し、勇気が要ります。

「そうですね。」
「何か、ほしいものとか、したいことはある?」
「うーん……。」

言いよどみます。

「遠慮しないで言って。まあ実現できるかはわからないけど、全力は尽くすし。」
「ええと……その……。」

ぎゅっとこぶしを握って自分を奮い立たせます。

「特に何もないなら、決まったら教えてよ。」

突然聞いたので、まだ全然わたしの中に考えがなかったと思われたのでしょう。
にこっと、綺麗にほほ笑んだ。わたしは慌ててぶんぶんと頭を左右に振ります。

「あっ!いや、その!一つあるんですけど……」
「お、なあに? 教えてほしいな。」

そんなにニコニコとほほ笑まれたら、なんだか言いにくいです。
どきどき、心臓がうるさいです。

「ええと、その―――キスしてください。」
「ん?ごめん、聞き取れなかった、もう一度言ってもらってもいい?」
「や、です。」
「ええ!?今度は絶対に聞き取るから、言ってよ。」

立ち止まり、が耳をわたしの顔の前に持ってきて、髪を耳にかけました。
その仕草がなんというか、俗な言葉でいいますと、セクシーで、わたしはまた心臓がぎゅっと締め付けられました。

「ほら、早く。」

ちらっとこっちを見まして、が言います。
ううう……。もういうしかないようです。

「一回しか言いませんからね?」
「うん、わかった。」

手を添えて、内緒話のようにわたしはに囁きました。

「―――キス、してください。」
「っえ!?」

が勢いよくこちらを見ました。目がまんまるでなんか、面白いです。
言い終えたわたしは、逆になんだかすっきりして、冷静にの様子を観察できています。

「きっ、え、キキ!?」
「お猿さんみたいですよ、。」
「いや、まさか、そうくるとは。」

元の姿勢に戻って、ぽりぽりと頭をかきました。

「キスでいいの?」
「キスがいいんですっ!!」

自分で言っていて、なんだか恥ずかしいです。顔が熱くなりますっっ!

「じゃあ、目をつぶって?」
「ぅ、あ、はい。」

ぎゅっと目をつぶります。
真っ暗闇が広がって、途端に不安になります。の姿が見えません。でも手をつないでますので、
彼がいるのは確かです。数秒後にはと、その、キスをしているのでしょうか?
ああ、早く目を開けたいです!いえ、いっそ開けてみましょうか。ばれないように、薄目で。

「ま、まだですかっ。」

薄目を開けて確認できたことは、がまだ困ったように目を泳がせている様子でした。
思わず目をあけまして、いってしまいました。すると繋がれた手は離されて、ぎゅっと抱きしめられました。
突然のことに目を白黒させます。こんな大胆なこと、がするなんて……!

、好きだ。」
「は、はい!わた、わたしも好きです……。」

はわたしから離れて、肩に手を置きますと、ゆっくりと顔を近づけてきました。
わたしも目を閉じ、祈るように手を組んで、その時を待ちました。(かみさま……。)
刹那、唇に、何かが触れます。確認しなくてもわかります、のくちびるです。
びびっと体中に電気が奔りました。、好きです。大好きです。
のくちびるが離れて、目を開けますと、が穏やかな笑顔を浮かべていました。

「どうでしたか?」
「さ、最高です……。」
「ちょっと早い誕生日プレゼント。でも、当日にあげるもの、どうしよう。」

照れたように頬をかく、

「一緒にいてくれるだけで、いいです。当日も一緒にいて、キスをください。」
「ふふ、お安い御用だよ。」

そういってまたはわたしのことを抱きしめてくれました。
あたたかいのぬくもりを独り占めしたくて、の体に手をまわします。
だいすきな、みんなの勇者は、今はわたしだけのものです。

「大好きだよ、。」

降り注ぐ愛の言葉に、くすぐったい気持ちでいっぱいになりました。






キスしてほしい