天を突き刺さんほどの大きさの世界樹であるが、樹であることには間違いない。足元に気を付けながら登りつめなければあっという間に転げ落ちてしまうだろう。更に、世界樹に蔓延る魔物はなかなか強く、三人は気を引き締めながら探索をしていく。

がいるとなんとなく安心ですな。だが騎士という職業、くんは、彼氏としては多少心配だろう」
「そうだね。何度も身を挺して守ってもらったことがあるから、とても心配だよ」
「う〜ん、そういわれましても……ずっと騎士として育ってきましたのであたりまえ――っと、危ない」

 魔物が現れ、さっ、と自然の流れでの前に躍り出て槍を構える。これはもう、遺伝子レベルで刻まれた行動なのでどうしようもない。

「まあ、勇者を守るのが我々導かれし者の役目だと思っています! ので、大人しく守られてください」

 ささっと魔物を倒して振り返れば、は、むーっと顔をしかめていた。

「やだ」
「へ!?」

 まさか拒絶されると思わず、素っ頓狂な声を上げる。トルネコがはっはっは、と声を上げて笑った。

「トルネコさん〜〜」
「まあ、くんの気持ちもよーくわかるし、の気持ちもよーくわかる」
「うう……しかし、騎士とはそういうものなのです……」

 勿論、の言うこともわかるが、なんだか自分を否定されたようで寂しくもある。

「まあ、それがなんだもんね。ちゃんとわかってますよ」
「よかったじゃないか
「は……はい!」
「でもあまり無理はしないように」

 嬉しい。受け入れてくれていた。なんだか心が温かくなるし、足取りまで軽くなった気がする。それに、なんだか力も漲ってくる。

「おりゃー!!!」
「なんだかの攻撃力が上がったような気がしますな」

 の ことばで の こうげきりょくが あがった!



天空への道のり



 
 世界樹を上り詰めていくと、女性の叫び声が聞こえてきた。急いで駆け付ければ、女性が魔物から逃げ回っていた。魔物を倒すと、女性は礼を述べた。よく見ると女性の背中には翼が生えていた。

「お助けいただきありがとうございました。私はルーシア、天空より世界樹の葉を摘みに舞い降りたのですが、魔物に襲われて翼を折られてしまいました。助けていただいた身分でで大変厚かましいお願いなのですが、私を天空のお城まで連れ戻してくれませんか?」
「て、天空のお城!! 王の見た夢のとおりではありませんか!! やはり言い伝え通り、本当にあるのですね……ではルーシア様は天空人なのですね」

 ルーシアはこくりと頷いた。
 サランの町に書き記した、サントハイム王が小さいころに見た夢の内容が脳裏に浮かぶ。
――“空のずっと上には天空のお城があって、竜の神さまが住んでるんだって。竜の神様はとても強くて大昔、地獄の帝王を闇に封じ込めたくらいなんだ。”
 しかし、天空のお城にいくには天空の武器をすべて集める必要があるはずだ。まだ天空のつるぎを見つけられていない。

「しかしルーシアさん、おれたちはまだ天空のつるぎを手に入れてないんです。どこにあるかご存知でしょうか」
「天空のつるぎはこの樹のどこかに眠っています。私にはわかるのです。さあ、参りましょう。私についてきてください」

 ルーシアに導かれるまま世界樹を上り詰めて行けば、ついに天空のつるぎを発見した。眠るように樹の刺さっていた。これですべてが揃ったのだ。
 天まで続くかと思われるくらい高い世界樹ではあったが、ここから天空の城へはいけないらしい。天空の塔からしかいけないとのことなので、ひとまずは地上に戻り、皆と合流し、天空のつるぎを手に入れた報告と、天空城へ行くことになった事情を説明する。

「天空城へはすべての天空の装備を身に着けたものだけがいけるのです。そして天空の装備って、天空人にしか装備できないんですよ。もしかしてさんは、私たちの仲間なんでしょうか」
「そうなんでしょうか」

 ルーシアが首をかしげたのにつられても首をかしげる。

「いやいや、俺は地上で生まれました」
「昔、下界に降りた天空人が地上の人と夫婦になったという話を聞いたことがありますよ。もしかしたらその夫婦の子供だったりして」

 と、言う訳で、ルーシアの案内で天空の塔へと向かうことになった。

「天空の装備を身に着けたものだけがいけるって言ってたけど、あたしたちはいけないってこと?」

「うーん、どうなんでしょう。お城をのぼってみればわかりますよ!」

 マーニャの問いに対してのルーシアの返事に、導かれしものたちの顔が強張ったのは言うまでもない。
 天空の塔はその名の通り、天空へと続くほど高い塔だった。ちらっとクリフトを見れば、絶望に満ちた顔で塔を見上げていた。

「これでのぼった挙句、さん以外天空城にいけなかったあかつきには、私は神を恨むかもしれません……」
「滅多なことを言わないでください……」
「よーし、頑張ってのぼるわよ!」

 アリーナの号令で、天空の塔へ足を踏み入れた。

「ま、まだかの……」

 どれくらいのぼったのだろうか。暫くのぼったが、一向に頂上へは辿り着かない。ブライが誰に言う訳でもなくぽつりとつぶやく。すると、

「まだまだですよ!」

 ルーシアがきっぱりと言い放つ。その時のブライの表情は、筆舌に尽くしがたい。
 天空の塔は、人間では作り得ないような面白い絡繰りが仕掛けられていた。人が乗ると浮遊するタイルがあり、高所恐怖症のクリフトは地表からタイルが浮いた途端、情けない悲鳴を上げながら尻もちをついたのだった。皆、疲れがすでにピークを達していたが、これには思わず笑い合った。(クリフト以外)
 そして天空の塔の頂上に辿り着くと、雲のようなふわふわとしたものが安置してあった。

「これに乗ると、天空城へ行けます!」

 にわかには信じがたいが、ルーシアが言うのだから本当なのだろう。が恐る恐る雲に足を載せると、本当に載ることが出来た。もう片方の足も載せれば、は雲の上に完全に載ることが出来た。
 さて、このあとは導かれしものたち。いっちばーん! と、はしゃぎながらアリーナが雲に足をかけると、なんとアリーナも載れるではないか。アリーナに続いて皆載ると、雲はふわふわと垂直に浮いていく。すぐに天空の塔は眼下から見えなくなり、視界は上も下も右も左も雲でいっぱいだった。そして気が付けば浮遊感はなくなり、少し先に城が現れたのだった。雲の上を暫く歩けば、お城へ入れそうだ。

「わー! 帰ってきました! ここが天空城です! 行きましょう!!」

 ルーシアが雲に降り立ち、ぱたぱたと城へ向かって小走りに向かう。

「も、もう駄目です!! 歩くたびに雲に足が埋もれ、もしこのまま落ちたら!!」

 恐怖が限界に達したがクリフトが、の腕にがっちり抱き付いている。

「大丈夫ですよ! みんなを見てください、ちゃーんと歩いている……」

 ちらっと後ろを振り返ったと目が合う。とっても不機嫌そうだった。
 当然、の心中は勿論穏やかではなかった。ライバル視しているクリフトが、恐怖故とはいえに抱き付いている。仕方ないのだ、と自分を納得させようとするが、どうにも自分は嫉妬深いらしい。落ち着け落ち着け、と深呼吸をし、歩み寄る。

「ほらクリフト、俺にも掴まって」
「す、すみませんさん……!」

 クリフトが真っ青な顔での肩に手をのせて、三人で天空城への雲の道を歩き出した。

「クリフト殿は本当に高いところがダメなんだなあ」

 ライアンが少し先で快活に笑った。