ブライが世界地図と、今まで尋ねたことのある場所とを照らし合わせて地道に印をつけていった結果、なんとなく場所が絞れてきた。さすが導かれし者たちのブレーン。なんてマーニャが言えば、ブライは満更でもない顔で笑みを浮かべた。
 候補地はミントスの東の岩山に囲まれた場所だった。ミントスと言えば、たちとたちが出会った場所。それから、クリフトが高熱を出して死にかけた場所。そんなミントスを眼下に見下ろしながら、はこれまでの旅を思い返していた。

「私はミンストでアリーナ様とに命を救われたのでしたね」

 どうやらクリフトも同じようなことを考えていたようだ。は深くうなづく。高所恐怖症なクリフトはちらっとミントスを見て、すぐに気球の炎に視線を戻した。

「あの時はどうなるかと思いました。でもあの時クリフトが熱を出さなければ、たちと出会うこともなく、今ここで気球に乗ってることもなかったわけですからね」
「それもそうですね。熱を出したかいがあります」
「もう二度と御免ですからね。本当に寿命が何年縮まったことか。でも、そんな昔ではないのですが、ずいぶん昔のことのように感じます」
「てっきりクリフトとが結婚すると思ったが。人生は何が起こるかわからんのう」

 ひょい、と会話に入ってきたブライが感慨深げに言った。クリフトとが結婚。物心がついたころからすでに何回言われてきたか分からない言葉を久々に投げかけられて、は改めてクリフトとこれまで辿ってきた道を思う。

とはずっと一緒でしたからね」
「本当に。昔はそんなまさか、なんて思ってましたけど、あのままずっとサントハイムにいたら、もしかしたらそうなってたかもしれませんね」

 そんな、あったかもしれないもしもの世界。

「ところで、ずっと引っかかっていたのですが……私たちがエスタークを倒したのち、デスピサロがやってきましたよね。その時、手下の魔物が“ロザリー様が人間の手に”と言っていたと思うんです。文脈から推察するに、ロザリーさんは、人間の手によって、殺されてしまったのかもしれませんね……」

 クリフトに言われて、その時の光景がふと蘇った。確かに、その言葉でデスピサロは引き返していったのだ。さっと血の気が引くのを感じた。慈愛に満ちたロザリーが、悲しそうな顔でデスピサロのことを話し、美しい涙を流していたのを思い出すと、胸が痛んだ。

「そんなまさか……だとしたら、ロザリーさんの願いだったデスピサロを止める。というのは、難しいかもしれませんね……」

 彼女の悲願であった、デスピサロを止めるということ。もしも、彼女が人間に殺されていたら、おそらくそれはもう無理だ。だってそんな人間許せないと思うのだから、デスピサロが怒り、悲しみ、憎み、人間を滅ぼそうと思うのは当然だし、それは人間が受けるべき贖罪なのかもしれない。なんて一瞬頭をよぎる。でもそれは自分たちの存在を否定することだ。

「一瞬、人間を憎むのは当然で、それは受けるべき罰なのかもしれないと思ってしまいました。導かれし者失格です」

 が白状すれば、クリフトは肩を竦めた。

「大丈夫です。私も一瞬思いました。それどころか、神よなんと酷いことをする、あんまりではないか。なんて思いました。導かれし者どころか、神官も失格です」

 二人は小さく笑いあった。

「では、ここだけの話にしましょう。神様には内緒です」
「神はいつでも私たちを見守っていますが、今だけよそ見していてくださると信じています」

 そんな二人の様子を、少し離れた場所で見ていたが、面白くなさそうな顔で見ていたとか、いなかったとか。



世界樹のふもと



 とても陸路では超えられない険しい山岳地帯を抜けると、砂漠地帯の真ん中にぽつんと大樹が生えていた。一体ここに剣があるのだろうか。勿論確信があるわけではないのだが、ここにないとなると、もう地図上のありとあらゆる場所をしらみつぶしに探すしかない。
 大樹のふもとには屋根がいくつか見えたため、人が住んでいるらしかった。地表に降り立ち、大樹のふもとにいくと、そこには平和そうな集落が広がっていた。住んでいるものは人ではなく、エルフ。ロザリーのように耳が尖がっていた。

「もうすぐ天空のつるぎがお目にかかれるのですね……」

 トルネコが生唾を飲んで言う。商人の魂がうずくのだろう。トルネコからすれば、自分が装備出来る出来ないは関係なく、目にすることができ、触ることができるだけで至高らしい。

「これは私の勘ですが、恐らく天空のつるぎは近くにありますよ! そういう匂いを感じました!」
「トルネコさんはそんな特技があったのですね。トルネコさんの嗅覚を信じています!」

 エルフたち曰く、この大樹は世界樹と言って、この樹に生えている葉には生命力が漲っていて不思議な力があるらしい。だが、最近はずっと魔物が住み着いているらしく、エルフたちは誰も世界樹に立ち入っていない。

「世界樹から助けを求める声が聞こえてくるの。旅のお方、こんなところまでくるってことは結構強いんでしょう? 助けに行ってほしいわ。私たちもいってあげたいのですが、いかんせん魔物が強くていけないのです」
「わかりました。様子を見てきます」

 エルフのお願いに、が頷く。

「ああでも、そんな大勢で行っては登っていく途中で枝が折れて落ちてしまうかもしれないわ」

 確かに、全員で行ったら途中で誰か落ちてしまいそうだ。世界樹には選抜メンバーでいくことにした。勇者である、伝説の武器の匂いがわかるというトルネコ、そして

「気を付けて行ってきなさい
「はいっ! アリーナ様」
「天空のつるぎは見たいですが……樹の大きさを見たらなんだか憂鬱になってきました」
「トルネコ殿! 弱音を吐かず、頑張ってきてくだされ!」

 ライアンがトルネコを励まし、いよいよ三人は世界樹を登りはじめた。