エスタークを倒したその日はアッテムトにて、皆張りつめていた緊張が解けて泥のように眠った。は目が覚めると、宿についてから寝るまで何をしていたか全く覚えていなかった。それくらい疲れていたのだろう。
 朝食を食べた後に談話室にて今後のことについて話し合った。

「地獄の帝王を倒した今、今後はデスピサロを倒して野望を打ち砕く、そのためにまだ集められてない天空の武器を集めて、天空の竜に謁見をする。こんなところかな」

 残る天空の武器はただ一つ、天空のつるぎ。
 天空の盾はライアンの故郷であるバドランドに、天空の兜はスタンシアラに、天空の鎧は海鳴りの祠に。それぞれ既に手に入れているが、不思議なもので天空の防具は勇者である以外が装備しようとすると重くて持ち上げることも叶わない。
 は重くて持ち上げるのもやっとだったのに、はそれらをまるで落ちたリンゴでも拾い上げるくらいの軽快さで持ち上げるのだから、暫く呆けてしまったのを思い出す。

「天空のつるぎは一体どこにあるんだろうね。言い伝えとか、今まで何も聞いてないよね?」
「ああ、聞いてないと思う」

 マーニャの言う通り、天空のつるぎに関しては特に何もヒントを得ていない。隣に座るミネアが頷く。

「気球にでも乗って空から探してみたいわね」

 アリーナが何気なく言った言葉にが、何か閃いたように、あ。と呟いた。

「リバーサイドにいた学者さん、気球は完成したのかな」
「なんだか、あとはガスがどうとか言ってましたよね」

 の言葉にがリバーサイドの学者のことを思い出す。自称マッドサイエンティストの研究が進んでいれば空も飛べるだろう。

「空からつるぎが探せるわけないですぞ、アリーナ様。空から見たらつるぎなんぞ小さな米粒くらいに見えますからな」
「何よブライ、ちょっとしたアリーナジョークじゃない」
「でも姫様、天空のつるぎと言う名の通り、もしかしたら空高いところにあるかもしれません」

 クリフトがアリーナを擁護する。

「ねえねえちょっと、学者の話を聞きに行ってみない?」

 アリーナが目を輝かせながら言うので、手がかりもない一行はひとまずルーラでリバーサイドの向かうことにした。




空を行く




 リバーサイドでは相変わらず学者が気球の研究をしていた。まだ残念ながら完成はしていないようだったが、探していたガスを、あの混乱の中アッテムトで見つけたらしくもう一歩のところまで来ているらしい。助手がアッテムトでのたちの活躍を耳にしたようで、気球が完成した暁にはその気球を使わせてくれると言ってくれた。
 たち一行はリバーサイドに暫し滞在することにし、その間に世界地図を広げて今まで行ったことのない町や村をピックアップしていた。当然、気球に乗って大陸全土を見渡したからって天空のつるぎがすぐに見つかるとは思っていない。だから今まで行けなかった所に行ってみて情報収集をすることになっていたのだった。


「あのガス……炭鉱から出てたやつよね? いかにも身体に悪そうだったけど、よくあんなもの使おうと思ったわよね」と、アリーナ。
「確かに……。さすが、マッドサイエンティストは考えることが違いますね」と、
「ねえねえクリフト、あのガスをお腹いっぱいに吸い込んでみて?」と、アリーナ。
「ひ、姫様、それはご勘弁を……」と、クリフト。とアリーナは盛大に笑った。

 数日後、宿屋に気球が完成したとの報せが入った。丸く膨らんだ風船のようなものの下部からはアッテムトのガスが噴き出されている。学者の説明によると、このガスが空を飛ぶために必要な大事な装置らしい。詳しいことは分からないが、つまりは空が飛べる。
 一同は早速気球に乗って大空に浮かび上がった。手を振るリバーサイドの人々がどんどん小さくなっていって、やがて見えなくなった。高所恐怖症のクリフトは表情ががちがちに固まっていて、ぎゅっと目をつぶっている。その怯え方と言ったら、今突然が大きな声を出して脅かしたら間違いなく心臓が止まって死ぬだろう、というくらいであった。流石にクリフトをこんなところで死なせるわけにはいかないので、はそっとしておくことにした。

「すごい高い……」

 ぽつりと大地を見下ろしながらが呟く。確かにこんなに高いところにいるのは初めてだった。大陸の形がなぞれるほどの高さで、まるで地図の上を遊泳しているかのようだった。

「こんな高かったら、つるぎは米粒どころか見えそうにもないね」
「ほんとですね。早く探さないといけませんね……」

 旅はもう大詰めを迎えている。この大陸を守るため、との未来を守るため、早く天空のつるぎを探さなければ。