アッテムトには死が漂っていた。辺りに漂うガスは長い間吸い込んでいれば死が身体を蝕みそうだ。
マーニャとミネアはこの様子に首をかしげた。前に訪れた時はこんな様子ではない、と。
そのころはただの鉱山の町だったようだ。

「旅人かい?命が惜しかったら、あんたたちも早くお逃げ!変なのを掘り当てて、魔物と変なガスが出てるんだ。」

女性が一人、身を案じて声をかけてくれた。

「おばさんも早く逃げないと。」
「あたしはまだ残るよ。旦那がまだあそこで頑張ってるんだから―――。あたしが待たないで誰が待つんだい?」

あそこ――つまり、アッテムト鉱山。ガスのもとはおそらくあの鉱山だろうというのは誰が見ても分かる。
エスタークを掘り当てたのもおそらくあそこだろう。
おばさんのことも気になるが、早くエスタークをどうにかしなければ世界が危ない。

「気を付けてね、俺たち行くよ。」

たちはアッテムト鉱山へ向かった。




死の漂う街




鉱山の中にはまだまだ掘り続けている人が何人もいた。たちは鼻と口の前に手をかざして
なるたけガスを吸わないようにしているのだが、鉱夫たちはガスを気に留めることもなくただただ掘っていた。
歌を唄いながら、あるいは自分を奮い立たせるような言葉を叫びながら。
それが仕事だから投げ出すわけにもいかないのだろう。生活が懸かっているのだから。

奥へ奥へと進み続けると、やがて、デスピサロの言っていた地獄の世界への入り口へとやってきた。
その入り口付近には、この世界を掘り当てたと思われる鉱夫が倒れていた。

「大丈夫ですか?」

が駆け寄り安否を確かめると、彼はうわごとのように

「やった……ついに掘り当てたんだ……宝の山を………。」

とつぶやいて、それきり喋らなくなり、息を引き取った。
クリフトが跪いて、祈りの言葉をつぶやいた。神のもとで健やかに旅立てますようにとも祈った。

鉱夫の掘り当てた道を進むと、鉱山と雰囲気が変わり、山肌は見えず、ただ道があった。
その脇は真っ暗で、恐らく落ちたら最後だろう。道の先には建物があった。その建物しか見当たらないので、
きっとエスタークはあの建物にいるのだろう。建物に入ると、祭壇のようなものがあり、そこにはとてつもなく
青色の大きな怪物が目をつぶって椅子に座っていた。その目の前にはそれと比べると小さな、しかし一般的に
は普通のサイズのモンスターが三匹いた。

「なんだ貴様ら!エスターク帝王さまが目覚めるまでしばらくかかりそうなのだ!立ち去れ!!」
「やだね!!」
「なら容赦はせん!」

トラのようなモンスター二匹と、サイのようなモンスター二匹との戦いになった。
しかし三匹はいわゆる雑魚モンスターで、すぐさま片が付いた。
残るはこの巨大な敵、エスターク。地獄の帝王と呼ばれるほどだ、とてつもない強さなのは想像しやすい。

エスタークはまだ眠っている、はこのまま逃げ出したいという気持ちを口にはしないが確かに抱いていた。
こんなに大きくて、デスピサロが復活させようとしていた”地獄の帝王”なんて、強いに決まっているし、
誰もが生きて戦いを終える可能性は未知数だ。
もしかしたらみんな死んでしまうかもしれないし、この中の誰かが死んでしまうかもしれない。
自分が死ぬかもしれない。

―――が、死ぬかもしれない。

この場から逃げ出せれば自分含め九人は皆確実に生きれるのに。
誰かが死ぬかもしれない大戦なんてしなくて済むのに。

けれどその代償はあまりに大きい。
世界中の人が恐怖におびえ、やがて魔物たちによって殺されてしまうだろう。

「みんな、すべてを終わらせる時だ。怖いけど、俺たちがやるんだ。俺たちの手で平和にするんだ。
 誰も死なせない。俺が死なせないから。」

ピリピリと張りつめた空気の中、頼もしい顔でほほ笑んだのは
自分の生まれ育った村すら救えなかった―――そういって泣いていたあの時のから、もう
どれくらい経ったのだろう。彼はこんなに頼もしい顔で笑むことができるのか。とは息をのむ。
彼はもう立派な勇者だ。あの頃の彼から確かに成長し、伝説の天空の勇者になっている。
彼についていきたい。そんな気持ちが、逃げ出したい気持ちをどんどんと喰らっていく。

「サントハイム騎士団の名にかけて、わたし、頑張ります!!」

に跪く。
主君を、そして仲間たちを絶対に守り抜く。
そんな志を誓う。

が騎士らしいことしてるわ。」
「最近じゃなんちゃって騎士かと思ってましたがね。」
「失礼ですよ、アリーナ様!クリフト!!」
「なんかこんな風に見上げられるのもいいね。」
までなんてこというんですか……っ!」
「こんなとこでもいちゃつけるあんたらを尊敬するよ。」
「いちゃついてません、もう、マーニャってば!」

暗く、張りつめた空気から、いつもの導かれし者たちの雰囲気に戻った。
そして自分たちなら勝てる、そんな自信にもつながった。

「よーし、行こうか。」

を先頭に、導かれし者たちはエスタークのもとへと歩き出した。