「むむむ、結構遠いですなあ。」

ライアンが棒に手をのせて外を眺めていたのだが、その棒が前に傾いてライアンはバランスを崩して
転びかけるが、さらに地面が揺れて結局ライアンは派手に転んだ。

「うきゃあ!なんですか!!」
「大丈夫か?」
殿、私の心配も……。」

の肩を持って支えてくれた。何が起こっていたのか皆わからなかったが、すぐにわかった。
この魔神像が海を渡り始めたのだ。内部からでは分からないが、どしんどしん、という音から考えると、
恐らく一歩一歩魔神像が歩いているのだろう。奇跡を呼ぶ男、ライアンが魔神像が動き出すレバーを
たまたま押したのだ。さすがライアン、この男は何か持っている。と誰しもが思った。

「これで向こう岸にわたれたわね!」

アリーナがぴょんぴょん跳ねて喜んだ。




最悪のシナリオへ



陸路はるばるデスパレスを目指して再び旅が始まった。魔神像から見えた景色から考察しても、結構な遠さだ。
暫く歩いて、日が暮れる前にはデスパレスがあともう少しの場所までやってきた。

「ようし、そろそろあれの出番ですな。変化の杖!」
「そうだねブライ。お願いするよ。」
「まってください。」

ミネアがブライを制止する。

「実は私、いいものがあるんです。」
「なになにー?」

アリーナが”いいもの”という言葉に目をぎらつかせる。

「本物のモンスターと間違えませんように、バンダナを買ったんです。」
「なるほど、考えましたね。」

クリフトが感心したように言った。

「いいわね!みんなつけましょう!」

アリーナが嬉しそうにバンダナを受け取って、クリフトに手首に巻かせた。
各々ミネアから受け取ったバンダナを手首に巻きあった。

「さえぎってしまってすみません、どうぞお願いします。」
「うむ、いくぞい。えい!」

一同は様々な種類のモンスターになった。どこからどう見てもモンスターだ。
だが、みな手首に色とりどりのバンダナを巻いているので判別できる。
は緑、は黄色、アリーナはオレンジ、クリフトは紺、マーニャは赤、ミネアは紫、ライアンはピンク
トルネコは黒、ブライは白だ。

「そこまで目立ちませんし、名案ですね!さすがミネアさんです!」
「ふふふ、ありがとうございます。」
「よーし、じゃあデスパレスに行こう。」

一同はデスパレスへと潜入を開始した。
さすが魔物の城。あたりは魔物だらけで、思わず身構えるが、自身たちも魔物であるため
周りも疑ってこない。

「なんか、人間の匂いがしないか?」
「んー夕食用に地下に捕えた人間の匂いじゃないか?」

という魔物たちの会話にはしばしば冷や汗をかいたものだ。
けれどこんな会話を聞き流すような集団ではなく、人間たちを助けに行こうと地下へ急ごうとしたのだが、
さまようよろいのような魔物に呼び止められる。

「おい、どこいくんだ。会議に遅れてしまうぞ。」
「会議?あ、そうだね、いまからいくよ。」
「二階へつながる階段はあっちにあるぞ。」
「ありがとよ。」

マーニャがうまいこと合わせてその場から離れる。恐らくあの魔物は見張り兵のようなもので、会議にも
参加せず見張りを続けると踏んだので、おとなしく魔物の会議とやらに参加することにした。
会議にデスピサロが参加していれば、場合によっては戦闘開始だ。導かれしものたちの間に緊張感が奔る。
階段を上り会議場に入り込むと、長いテーブルと、それを囲うように椅子が置いてある。すでに椅子は
埋まっていて、座れない魔物たちはその周りに立っていた。たくさんの魔物から情報を収集すべく、固まらず
散り散りになって適当な場所に立つ。はアリーナと一緒に情報を収集することになった。

「魔物も椅子に座るのね。」

アリーナがにだけ聞こえる声で面白そうに言った。

「ずっと留守だったデスピサロさまが突然戻ってくるとは、いったい何があったのだろう。」
「ついに進化の秘法が完成したのかもしれないぞ。」
「まさかとは思うが、殺したはずの勇者が生きてたとかもあるかもな。」
「まさか。」
「静粛に!まもなくデスピサロさまが到着するころだ!!」

魔物たちの会話を盗み聞きしてたのだが、この声に会場は一気に静寂に包まれた。
暫くして、会議室の扉があいて、デスピサロが現れた。これがデスピサロ……。
は姿を生で見たことがないため、初めて見た宿敵の姿に心臓が早鐘を打つ。
夢で見たとおりの姿だ。

「諸君。たった今、鉱山の町アッテムトで大変な事態が起こった。」

これが、ロザリーの愛した魔族の長。

「地獄の帝王、エスタークが蘇ったのだ。どうやら人間どもは地獄の世界を掘り当ててしまったらしいのだ。
 とにかくアッテムトだ、エスターク帝王を我が城にお迎えするのだ!行け!!」

魔物たちが歓声を上げて、翼のあるものは窓から飛び立ち、ないものはルーラを唱えてアッテムトへ
向かっていった。デスピサロもルーラを唱えて消えた。
ここデスパレスで決着をつけることはできなかったが、デスピサロの向かったところはわかっている。
それよりも心配なのはエスタークが蘇ったということ。デスピサロの野望が叶ってしまったのだ。
残った導かれしものたちは集合し、デスパレスからいったん出て作戦を練ることにした。
デスパレスを出ると、変化の杖の効力が切れて人間の姿に戻った。

「アッテムト、って誰か知っている人いる?」
「あたしたち、知ってるよ。あいつの言ってたとおり鉱山の町さ。」
「じゃあ行くことできるね。しかし……デスピサロの野望を止めることはできなかった。」
、弱気にならないでください。わたしたち、導かれしものがいます。」

がこぶしを握って、口角を上げた。そうだ、俺が弱気になっちゃいけない。は我に返る。
俺は勇者、俺はどんな邪悪も倒せる、勇者なんだ。俺がしっかりしなきゃダメじゃないか。

「そうだね……まだ天空の武器がすべてそろってないのが心もとないけど、大丈夫だ。俺たちならできる。
 俺たちにしかエスタークを倒せないんじゃなくて、俺たちならエスタークを倒せるんだ。」
「それでこそだよ、。男が上がったね。」

マーニャがウインクをした。

「それじゃあみんな、準備はいいかい?」

ルーラを唱えてアッテムトに向かった。