ロザリーヒルを出てさっそく王家の墓へ出港した。いまから墓荒らしまがいのことをすると思うと少し気が重いが、これも世界平和のためだ。それにサントハイムの姫さまがいるのだから、きっと大丈夫だろう。

「いーい、王家の墓っていうのはあたしですらあんまり行ったことがない、オゴソカなところなんだからね。失礼のないようにね! なんかあったとき怒られるのはあたしなんだからね!!」

 王家の墓がひっそりとたたずむ島の姿が見え始めてから、口癖のようにアリーナは言い続けた。それもあってか、はアリーナとブライに、サントハイム王家と密接に関わりのある二人に行ってもらえないかと提案すると、ブライが快諾したので島にたどり着いてから、二人に任せた。
 待っている間に今後の針路について残りのメンバーで考えていた。

「魔物の城にいって、デスピサロを止めに行く。これで合っているよね」
「ええ。それでオッケーです」
「そうなれば天空の城に住む竜に地獄の帝王の復活の阻止を頼まずとも大丈夫なわけだね」
「変化の杖がここにあればの話ですがなあ」

 トルネコが困ったように眉を下げる。確かにここで杖がなかったら、また天空の武器を探す旅の始まりだ。もう手がかりが一つもないが。残りは天空の剣……。どこにあるのだろうか。

「ただいまー!」
「お待たせしましたな!」

 船に戻ってきたのは、二匹のモンスター。反射的に槍を構えるが、声に聞きおぼえがある。それはみんな同じで、武器を構えつつも戸惑っている。

「アリーナさまと、ブライさん……?」
「そ! さっすが、よーくわかってるわね。変化の杖、あったわよ」

 アリーナの手には何の変哲のない杖。どうやら本当に変化の杖はあったようだ。これで魔物の城へ行ける。




魔物の住む城へ




 しかし問題は、魔物の城がどこにあるのかわからない。だが迷っている暇はない。迷ってるぐらいならぐるぐる彷徨ってみよう!と いうアリーナの、実にアリーナらしい提案に、ブライは反対した。ただ彷徨うだけではいつまでもたどり着かないのは目に見えているためだ。
 そこでブライの出した提案は、世界地図を見て、まだいったことのない町を尋ねてみよう、ということ。リバーサイド、という村がそれに当ったので、舵はリバーサイドへ向けてとられている。
 船の甲板に出ると、見渡す限り深いブルーの海が広がっている。その甲板の先に一人佇むのは、勇者の心にちいさないたずら心が宿る。そろーり、そろーり、気配を消して距離を縮めていく。

!」
「ぅわっ! ……? なんだ、かびっくりしたな」
「ふふふふ……はっはっはっは! ひいーっおかしいです!」

 がほっとしたような顔をしたので、はおかしくなり大爆笑する。

「なんだよ、笑いすぎ」
「えへへーってわああやめて! ひゃははは!!!」

 が反撃に出る。くすぐり攻撃だ。くすぐりにはめっぽう弱いは、涙を流しながら抵抗するが相手はやはり男だ、腕力ではかなわない。

「ひゃははははっ!!! ギブ! ぎぶうう!!!」

 ぱしぱしとの腕を叩き続けて、ようやくくすぐり攻撃は終わり、そのまま二人は手すりの前に並んだ。

「旅もいよいよ終盤ですね」
「うん……。どうなるんだろう、正直、わからないや」
「そうですね。色々な人の、色々な思いが混ざり合って、ごちゃごちゃです」
「ね」

 ふと横を見れば、太陽の光が反射した海を、目を細めてみている。そのきれいな横顔に、は吸い込まれるような錯覚に陥る。

「今から魔物の城に乗り込むんだから、今以上に気をつけて行こうね。の傷つく姿見たくない」
「……あ、はい、気をつけます。こそ気をつけてください、無茶はなさらないように」

 慌てて視線を海へ戻して、平静を装う。

「俺は大丈夫。俺が死ぬときは、と素敵な老後を送って、微笑みあいながら眠るようにだから」
「えええ、そんなこと考えてるんですか?」
「うん。だから俺は死にません」

 隣のを見れば、にこっと端正な顔に微笑みが浮かんでいた。けれどなんだか、その笑顔に違和感を感じた。この間のロザリーヒルで、昔のことを思い出したと言っていた時と同じだ。

「……、なんだか、どうかしましたか?」
「なにが??」
「なんだか、違和感を感じて……悩み事とかありませんか?」

 言うならば、何かに一人で耐えているような、そんな感じがした。

「なんでもないよ。隊長、海は異常なしですか?」

これ以上の追及はやめろ、そういわれているようだ。がその気ならも引き下がる。

「右よーし、左よーし、異常なしであります!」

 きっといつか、言ってくれる、そう思うから。



 なんだかすごい大きな像が見えて、もしかしたらあれが魔物の城かもしれない、と思いみな気を引き締めたのだが、進んだところにはリバーサイド……その名の通り川沿いにある小さな小さな村があった。

「なんだ、魔物の城かと思ったよ」
「ほんとですなマーニャ殿。あの大きな像、てっきり魔物の城の象徴かと」

 ライアンはすでにフル装備で、いつでもかかってこいやモンスター! 状態だったのだが、平和そうな村に、拍子抜けしたようだ。唇をとがらせているが全く可愛くない。
 そんなこんなで上陸し、色々補給を済ませながらも魔物の城について話を伺うと、どうやらここを北東に行ったところにそれらしき城があるらしい。リバーサイド自体はいたって普通の川沿いの村であったが、変わった点と言えば、空を飛ぶため気球の研究をしているという、マッドサイエンティストがいたことくらいだろう。
 情報も得たので、その日は船舶をした。



「えい!」

 談話室にて、アリーナが杖を振ると、クリフトが魔物の姿に変身した。

「きゃあああ! こわあああこわいーっ!」

 が笑いながら悲鳴を上げる。

「ぶっつぶすぞ人間ー!」
「わあークリフトがなりきってますー!! 喋りが不自然ですうーー!!」
「こらあ! クリフト! 姫え!!王家の秘宝を使って遊ばない!!」

明日は重要な日だというのに、何があったか遊びだしたとアリーナとクリフト。
そしてそれを咎めるブライ。夜は、更けていく。