しばらく村の中を散策していると、教会の前でミネアとマーニャの姿が見えた。二人はたちに気づくと名前を呼んで自分たちのほうへと呼んだ。つかの間のデートもどきはすぐに終わってしまい、二人は少し寂しい思いに駆られながらも彼女たちのもとへ向かった。

「なにかわかった?」
「聞いてくれよ、あのさ、夢で見た場所とすごい似ていると思わないか? ほら、ピサロが笛の音を奏でていたところ……」

 といってマーニャが褐色の足で、とん、と自分の足元を指した。確かに夢で見た場所と光景が似ているような気がしてきた。見上げれば、建物の二階に大きな窓。あそこで夢の中ではロザリーがピサロに手を振っていた。そしてその横で自分が二人の様子を見ていた。

「もしかしたらあの中にロザリーがいるかもしれません。いってみませんか?」
「そうだね、いってみようか」

 建物の中に入ってみることにした。扉をあけると美しいステンドグラスが目に入った。そしてその下には大きな十字架とシスターの姿。どうやらここは教会らしい。

「……妙ですね、上へ続く階段が見当たりません」

 教会には下へと続く階段は見当たったのだが、二階へ続く階段がなかった。それに驚いたことに、教会に参拝してるものの殆どが動物であった。馬や犬、猫などが人の言葉を喋っている。は犬のもとへと向かった。

「こんにちは、人の言葉がわかるのですか?」
「わんわん! ピサロさまの進化の秘宝のおかげで、人の言葉を喋れるんだわん!」
「ひょえーすごいですね、進化の秘宝……すごいものです」
「あなたたち、人間ですね」

 が感心と、少しの恐れを抱いたときに、シスターから声がかかった。

「ええ」
「ここは動物とホビットの教会です。人間のいる場所ではありません、立ち去ってください。……といいたいところですが、見たところ悪い人間のようには見えませんね。何の用があってこの村へ?」
「あの、ロザリーと、ルビーの涙と、そしてピサロについて、情報を探しているんです」

 シスターの顔が、ロザリーなどの単語に驚きを見せたが、すぐに元通りの表情になった。

「かつて、この村にピサロという魔族のものが住んでおりました。世界を支配する、といい出て行きましたが、そのピサロもロザリーだけにはやさしい笑顔を見せていたものです」
「そうだったんですか……。ありがとうございます。あと、すみません、二階へ行くにはどうすればいいのでしょうか?」
「それは私もわかりません、この塔はピサロが造ったものなのですが、戦に備えて隠し部屋を作ったと聞きます。それがおそらく二階なのでしょう。……あなたたちのご武運をお祈りしております」

 シスターは祈るように両手を組み合わせ、目をつぶった。はお辞儀をして皆のもとへと戻った。教会を出て、シスターから聞いたことを告げると、みな一様にうなった。

「どうやって二階へいけばいいんだろう……」
「夢の内容を思い出しましょう、えーと確か、ピサロはタイルの上に載って……」
「「「「笛の音を奏でてた!」」」」

 四人はぱあっと明るい顔で叫ぶように言った。

「もしかして、ピサロがそうしていたように、あのタイルの上に笛の音を奏でると二階へと続く道へ出るんじゃないかな」
「でもあたしらの中で笛を持ってる奴なんて一人もいやしないよ? トルネコあたりが道楽でやってるかもしれないけどね」

 マーニャの言葉に思わず想像を膨らませる。確かにやっていそうだ。思わず笑いそうになる。

「んー……ひとまず一度、集合場所に戻ろうか」

 一同は不本意ながら教会を後にした。集合場所には皆集まっていて、集めた情報は皆似たり寄ったりであった。そこでマーニャが先ほどのことを伝え、もう一度その場所に行ってみることになった。

「ここがあのタイルで、見上げたあの窓が、恐らくロザリーのいたところだと思います」

 ミネアがすっと窓を指差した。

「あのときピサロは笛を吹いていただろう? だからここで笛を吹けばいいんじゃないかと思うんだけど」
「おお! ならサントハイムに代々伝わるこの”あやかしの笛”で吹いてみるといい。こんなこともあろうかと、サントハイムに帰ってバルザックを倒したときに宝物庫からとっておいてよかったぞい」

 マグマの杖に引き続き、なんと用意周到なのだろう。さっそくタイルの上に立ち、ブライが笛の音を奏でてみることになった。どきどきと緊張感が漂うが、それを包み込むような穏やかな音色が、張り詰めた緊張感を程良いものにさせる。
 笛を奏で終わると、がくん、と地面が大きく沈み込んだ。

「ビンゴですね!」
「そのようです!」

 とクリフトがにこにこと微笑み合った。タイルは静かに地下へと沈み込むと、10Mほどで止まった。全員がタイルから降りるとタイルは再び地上へと戻って行った。道なりに進んでいくと、階段が見つかった。それは上へと続く階段だった。階段を上がり、再び道なりに進むと、一匹の騎士の姿をした魔物の姿が見えた。

「むむ! 貴様ら人間だな、ここは通すわけにはいかぬ!!」

 魔物がこちらへ襲いかかろうとし、こちらも迎え撃とうとしたその時、

「やめてください!」

 と、女性の声が聞こえてきた。それに反応して魔物も止まり、おずおずと後ろを振り返る。

「あなたがた、人間ですね? 中へお入りください」
「しかしロザリー様……!」
「大丈夫です、この方々はほかの人間とは違う、そんな気がします」

 不本意そうにその場から退いた。女性がたちを部屋の中へ手招くので、それに従い中へとはいった。近くにいるスライムが、ふるふると震えながらも、いざとなれば自分が! といわんばかりの表情でたちを警戒しているがそれとは対照的にロザリーは微笑んでいた。少しばかりシンシアに似た女性だった。

「こんにちは。私はロザリーです」
「俺はです」

 これが、ロザリー。ピサロが愛したエルフ。

さん、あなたはご存じでしょう。世界が、魔物たちによって滅ぼされようとしているのです。そしてその魔物たちを束ねるものの名は、ピサロ。今はデスピサロと名乗り、進化の秘宝でさらに恐ろしい存在になろうとしています」

 彼女の顔から微笑みは消えて、至って真剣な表情だった。

「お願いです、ピサロ様の……いいえ、デスピサロの野望を打ち砕いてください! 私は、あの方にこれ以上の罪を重ねさせたくないのです……。たとえ、それがあの人の命を奪うことになろうとも」

 なんて美しい愛なのだろう。彼女は人間からひどい虐げを受けていたはず、それなのにロザリーのため、と人間を滅ぼそうとするピサロを間違っているとし、正しいほうへ導こうとするなんて。は彼女の愛の形にひどく感銘を受けた。
 ロザリーの瞳から涙がこぼれたと思いきや、それは固形になった。これがルビーの涙だろう。は落ちたルビーの涙を拾い上げると、砕け散った。やはり人間には触れられぬものらしい。

「必ず、僕たちが止めてみせます」
「エンドールの南西の岬の王家の墓には、へんげの杖があるんだって! その杖があれば、魔物の城に入り込めるんじゃない??」

 いつの間にか警戒を解いてそばにいたスライムが、突如会話に入り込む。

「エンドールの南西には、サントハイムの王家の墓があるはずです。ですのでその話、信憑性がありますね」

 クリフトの言葉にが心の中で「へえーそのようなものがあるのですね」と反応した。サントハイムの人間であるが、王家の墓の場所など知りもしなかった。だいたい王家の墓の存在自体知らなかった。さすが神学校をトップの成績で卒業しただけある、と感心した。

「どうか、お願いします」

 ロザリーが深々と頭を下げた。



とある愛のかたち