しばらく進むと小さな島と、その対岸に洞窟が見えた。小さな島に上陸すると、
ちいさなメダルを集めているおじいさん、メダル王に出会った。
対岸の洞窟は海鳴りのほこらといわれていて、その名の通り海鳴りのやまない洞窟であった。
メダル王いわく、そのほこらのなかにはなにやらお宝が眠っているらしい。
船で海鳴りのほこらに近付くにつれて轟々と音が聞こえてきた。

「海鳴りのほこら……ちょっと怖いですね。」

甲板から前方を眺めていたがぽつりとつぶやくと、隣のクリフトが乾いた笑い声をあげた。

「こ、ここここわいなんて、だらしないですっよ!」
「……ちょっと、大丈夫ですかクリフト。」

自分よりも何倍も怖がっているクリフトを見て、ちょっと落ち着く。
彼は最後の最後まで海鳴りのほこらへ行くことを拒んだ。

いってもきっと何もない!だとか、
こんな轟音を出すほこらだから何かすごい凶悪な魔物が眠ってるに違いない!だとか、つらつらと
理由をたくさんいっていたが、結局入ってみることにした。

ほこらを船でゆらゆらと進んでいくと、最初は怖かった海鳴りもだんだんと慣れてくる。
最深部にたどりつくと船を降りて進むと、宝箱が一つあった。

「……えっ!!!」

宝箱を開けたが驚きに満ち溢れた声を出して一同宝箱の中に視線が向かう。

「……天空の鎧だ。」
「えええええええええええ!?!?!!?」

がこれでもか、というくらい目を見開いて海鳴りに負けないほどの大声で驚いた。
天空の防具、というのは見た目が少しほかの防具とは違う上に、やはり勇者には直感でわかるらしい。
しかし天空の鎧がこんな辺鄙なほこらにあるとは思わなかった。

「クリフトの反対を押し切ってよかった。」

が笑って、が確かに、とつられて笑った。
ちなみに当のクリフトは船室で待機している。




はじまりの場所




しばらく船を進めると、大陸が見えてきた。
入り組んだ土地を進むと、船を下りて森の中を進む。
しばし進むと小さな村が見えた。恐らくここがロザリーヒルの村だろう。
緑豊かな、のふるさとに似た村であった。
この、美しい村を目の前には生まれ故郷を思い出していた。

(シンシア……。)

自分をかばって死んだエルフの友が思い起こされる。
春を思わせる桃色の髪の毛。エルフの証であるとがった耳。ふんわりとした落ち着ける笑顔。
ちくり、罪悪感が胸を刺した。”あの日”から罪悪感が、解けぬ呪縛のようにを時折苦しめる。

(俺がこんなに幸せでいいんだろうか……。)

自分を生かすために犠牲になった人たち。
―――俺はその犠牲の上に成り立ち生きる資格があるのだろうか。

ー?どうしたんですか??」

隣を歩くをみて、急に悲しくなった。
不安定な自分を支えてくれるかけがえのない存在であり、生きる意味をくれた人。
そんな彼女の笑顔でですら、今の自分には少し辛い。

「なんでもないよ。」

すぐに笑顔を取り繕う。
つくり笑顔がばれてしまう前に何か違うことを喋ろうとして、その前に村人から声をかけられた。

「ここはロザリーヒルの村。ホビット族が住む村だよ。旅人かい?もしかして、ルビーの涙を?」
「いいえ、あの、ルビーの涙って?」

どこかで聞いたことのあるような名前だが、ピンとこない。
村人はほっとしたような顔をした。

「この村には昔エルフのロザリーが住んでいてな、彼女の流す涙がルビーになったんだ。」
「ロザリー……なるほど。」

その涙を狙ってやってくる人もいるわけだ。
あの宿屋で見た夢が蘇り胸が張り裂けんばかりの気持ちになった。

「許せないね……そんな汚い人間がいるなんてさ。」

やりきれないといった表情のマーニャ。

「……村人たちに、ロザリーとルビーの涙について聞いてみよう。ある程度時間経ったらここに集合だ。」
「よーし、クリフト、ブライ、いくわよ!」
「「はっ!!」」
「トルネコ殿。一緒に行こうではないか。」
「そーですな、いきましょう。」
「ミネア、酒場で情報収集よ!だから酒場を探しましょう!」
「姉さん!昼間から、もう。」

あっという間に皆はけてしまい、取り残されたは顔を見合わせ、うなづきあった。
ぷらぷらと歩く二人の空気は少しだけ重い。
その原因はいわずもがな、の様子にあった。

「あの、、この村に来てからなんだか元気がないですね。」
「……そうかな。」
「そうですよ、……なにかあったのなら、いってください。いいたくないのならいいですけど。」

いわなくてもいいといわれても、そんなしおらしい表情をされては言わねばならない気になる。
それきり黙りこんだからの無言のプレッシャーに、は焦って、ついに観念した。

「……いうよ。あのね、昔のことを思い出してた。」
「昔のこと……?」
「うん、俺の故郷、ここに似てるんだ。だから少しさ。」

核心を言えなかったが、言ってしまって変に気を使われては申し訳ない。
だからあえて言わなかった。
に少しの隠し事。
けれどそんなことをしらないは、しょぼん、とうなだれていた。

「……すみません聞いてしまって。」
「いいやそんなことないよ。思い出しただけ、ありがとう聞いてくれて。」

頭を撫でつけると、彼女は照れたような笑顔を向けてくれた。
罪悪感は感じる。けれど、罪の意識を感じるからといってを離したくない。

「あっ、村人さんです。」

女性のホビットが小高い丘で花を摘んでいる。
は花を踏まないように気をつけながら近寄って行った。

「こんにちはー。」
「あら、こんにちは旅人さん?」
「はい。ええと、お聞きしたいのですが、ルビーの涙とは一体?それから、ロザリーさんについても。」

ルビーの涙という単語を聞いた瞬間、女性が顔をしかめたが、誤解を解くようには微笑みを浮かべた。

「すみません、別にルビーの涙を狙っているというわけではないのです。」
「それならよかった。……エルフの流すルビーの涙には、涙を流したエルフの強い願いが込められていると
 いいます。だからでしょうか、人間たちにはルビーの涙を手にすることもできません。」
「……なるほど。」
「ロザリーはこの村に住んでいたエルフです。かつてはイムルの村の近くにエルフたちは住んでいたのですが、
 人間によって住むところを奪われたのでロザリーはこの村にやってきました。そのロザリーにルビーの涙を
 流させようとした人間から逃すために、ピサロ様がどこかへ連れて行ったのです。」

だからイムルであの変な夢を見たのか。
辛くて、悲しい、助けを求める夢。

「なるほど……ありがとうございます。」

その助けを求める声に、はたして応えることはできるのだろうか。