「えっと、みんな」

どきどき。
の胸が緊張で締め付けられる。
とうとうが切り出す。朝食を食べているいま、昨夜のことを報告しようとする。

「俺と、なんだけど」

『俺と一緒になってくれる……?』
昨夜のことを思い出すと、いまにも弾けて消えてしまいそうだ。


「付き合うことになったんだ。」

の言葉に導かれし者たちは目をまん丸とあけて、それぞれ思い思いの言葉を叫んだ。

「おめでとうございます!!」

クリフトの言葉がすっとの耳に入ってきた。はありがとうございます。と微笑んだ。

「ほんっとよかったわー!くっついてくれて!」と、アリーナ。
「水晶のとおりですね。水晶には出会ったときにすでに結びつくと出ていたのですよ。」ふふ、と笑うミネア。
「結婚式のときはわしらが仲人をやりますぞ!」と、トルネコ。
「いいですなあ若いというのは。」しみじみといったライアン。
の父と母も喜ぶであろうなあ……ブライも自分のことのようにうれしいぞ!」と涙目のブライ。
「ほんと、やあっとかい、随分かかったねえ。」とマーニャ。

みんな驚いてはいるが、しかし、やっとか、といった様子でもあった。
導かれし者たちからしたら、二人がくっつくのは時間の問題であり、内心早くくっつかないかと感づいていたからだった。

「ともかくおめでとう。いーい、はあたしのとっておきなんだから、悲しませたらただじゃおかないわよ。」
「もちろん、絶対に悲しませたりしないよ。」
「あっあの、わたしもがんばります!」

心がやさしい人だから、人よりも辛い過去を持った人だから、傷つきやすい人だから。
が悲しい思いをしないようにしっかり支えなければ。と想いが交わった時とき誓った。
絶対に、悲しませたりしない。

「大丈夫!俺はがそばにいるだけで幸せだから。」
「そっ、そうなのですか……っ!」
「なあーにいちゃいちゃしてるんだよ、まったくあんたらは。」

マーニャが呆れたように、だが楽しそうに笑った。



ロザリーヒルへ



ガーデンブルグの女王は導かれし者たちに天空の盾を与えてくれた。
無実の罪で捕らえたことに対しての謝罪の意味を込めてもあるだろうが、一番の理由は地獄の帝王、エスタークを
倒す唯一の希望である勇者がであると、バトランド王からの手紙を読み、知ったからであろう。

女王はたちを謁見の間まで呼び出すと、天空の盾の保管してある宝物庫に連れて行った。
今まで誰も重すぎて持つことのできなかった天空の盾をに持たせてみると、彼は軽々と持ち上げた。
その姿を見て勇者だと確信した女王は

「世界の平和はそなたたちに預けたぞ。」

と微笑んだ。
それからガーデンブルグを南に行ったところにあるロザリーヒルにかつて魔族が住んでいた、という情報を得たので
一行はガーデンブルグを出立し、止めておいた船に乗り込み南へ向かって出発した。

「んー。」
「どうしたんですか?」

船の甲板に備えられている談話スペースでとマーニャが甲板で見張りをしていた。

「ロザリーヒルってどこかで聞いたことがあるんだよね。」
「ああ、それならわたしも少し引っかかるんです。どこかで聞いたような……。」

聞き覚えのある名称なのだが、残念ながら何も思い出せない。
とてつもなくもやもやする。

「んー……。」

マーニャが眉を寄せて脳をフル回転させているようだった。珍しい。
と、そのとき、甲板にモンスターが入ってきて、は反射的に槍を手に取りモンスターの前に出た。
ふと振り返ると、マーニャはモンスターに気づかずまだ考えているようだった。
なんて集中力なのだろうと思いつつもモンスターを一薙ぎ。
す残骸と化したモンスターを海に放り投げて両手をあわせてモンスターの冥福を祈った。

「あ!!!」
「!ど、どうしたんですか?」

突然あげられた大きな声に驚きつつマーニャのもとへ歩み寄った。
するとマーニャは驚いたように口をあんぐりとあけていて、そのままの顔でのほうを向いた。

「ロザリーよ!夢にでてきたあのエルフの!ピサロの女!!!」

その言葉にの頭の中でもぱっとあの女性が思い浮かんだ。
そうだ、夢で見たあのピサロの恋人の名前はロザリー。
どこかで聞いたことがあるというのは多分それだ。の胸のもやもやがすっと晴れた。

「恐らく、ロザリーさんとなんらかの関係があるのでしょう。」
「だろうね……繋がってきたね。」

ロザリーヒルにはおそらく何かピサロに関する手掛かりが残っているのだろう。
あの美しい女性はあれからどうなったのだろう。ピサロを想って、あるいは人間に虐げられて
まだルビーの涙を流しているのだろうか。それとももう、

ぼんやりしているうちに、見張りの交代の時間が来た。
トルネコとアリーナだった。

「お疲れ様、調子はどう?」
「穏やかな海です。モンスターもそこまで強くはないのでそんな身構える必要もないかと思います。」
「オッケー。じゃあ、交代ね!」

見張りを彼らに任せてが部屋に戻ろうとすると、部屋の前にが扉に背を向けて立っていた。

「?、どうかしたんですか?」
「そろそろ終わるかなーと思って待ち伏せしてた。」

穏やかな笑顔に、まで笑顔になる。

「終わりましたっ。」
「今から暇?」
「はいっ!」
「じゃあいまから俺に付き合ってくれる?」
「もちろんです。」

なんて心地が良いのだろうか。耳触りのよい彼の声が鼓膜をやさしく刺激しての身体に
甘いしびれがほとばしる。

「といっても船の中だからね、特にやることもないんだけどね……うーん、とりあえず俺の部屋いこう。」
「わかりました。」

少し歩いたところにあるの部屋に入り込む。
導かれし者たちの部屋の造りは全部一緒だが、住む人によって雰囲気も変わってくる。
の部屋は綺麗に整頓されているのだが、何がそうさせるのかはわからないが
男の部屋、といった雰囲気が漂っていた。

がくるから少し片付けたんだ。」
「あっそうなんですか!そんな、わたしごときに気を遣わなくてもよかったのに……」
「わたしごときって、がじゃなきゃ部屋を片付けないよ。……なんでだとおもう?」
「な、なんでですか?」
「……ふふ、秘密。」
「えええ!い、意地悪……。」

自然と眉を下がったは情けない顔になった。
そんな顔がとても愛らしくて、は抱きしめたい衝動に駆られて、そして躊躇した。
だがその躊躇はもはや意味をなさないことに気づく。
躊躇する意味がないのだから。

「あっ……。」

が小さく声を洩らした。
に抱きしめられての脳は思考を停止した。
どきどき、どきどき、ただ心臓だけがひたすら動き続ける。

が好きだからだよ。」

が頭をそっとなでる。

「わ、たしもです……。」

おずおずと両手をの腰に回す。
今この瞬間が永遠に続く気がした。
そう考えたらなんだか切なくなった。
なぜならこの瞬間は永遠ではないとわかっていたから。
それでも二人は抱き合った。