(アリーナ様、お怪我はないでしょうか。心配です。)
(クリフト……姫さまに迷惑をかけてないといいですけど。)
(ブライさん、腰は大丈夫でしょうか。むしろブライさんに待っててもらったほうがよかったかもしれませんね。)
(ミネアさんもお怪我をしていないといいんですけど。)
(トルネコさん、さむーいギャグをいってるんでしょうか。)
(ライアンさん、堂々とみんなと違う方向に進んでないといいですけど。)
(マーニャさんと……はあ。)
「!」
どれだけ時間が経っただろうか。うとうとと舟を漕いでいたら遠くから名前を呼ばれて現実に引き戻される。
その声は、待ち焦がれた彼の声だった。はたまらず立ち上がり「!」と名前を呼び返す。
彼が帰ってきた。犯人は捕まったのだろうか、それともわざわざ会いにきてくれたのだろうか。
「!!」
雪崩れるように扉の前に駆けこんだ彼の手にはカギがあって、その鍵で牢の錠を解除し、
牢屋の中にがやってきた。かとおもったら、間髪いれずに抱きしめられた。
「お待たせ……!迎えに来たよ。」
抱きしめる力が強くて苦しい。けれどそれすら心地よかった。
「……待ってました、ありがとうございます。」
も彼の存在を確かめるように抱きしめかえす。
待ちわびたがいる。大好きながいる。
「ちょっとちょっとーあんたに抱きついてるんじゃないわよ!」
「うお」
「ー!さみしかった?うんうん、ごめんね!待たせちゃったわね!」
はアリーナの腕力で引っぺがされ、今度はアリーナに抱きしめられる。
「アリーナさまあ……さびじがっだでずう……!」
かぎなれたアリーナの匂いになんだか安心してしまって、涙腺が緩んでどっと涙が出てきた。
「ずるいですよ、アリーナ様を独り占めして。」
「ぐりふどぉ……」
アリーナの肩越しにクリフトの姿を確かめる。クリフトだけでない、導かれし者がみんないて、
あふれる涙はいよいよ止まらなった。
「疑いも晴れたし、天空の盾もいただけた。それにいろいろ情報も手に入れたんだ。」
「そうなのですか、よかったです。みなさん犯人探しお疲れ様でした、なにも手伝えずすみません。」
「何言ってるのよ!こそ、一人で人質なんて本当によくやったわ。さみしかったでしょ。」
ようやくアリーナが離れ、つらそうな表情で言った。
「そうだよ。時間がかかっちゃってごめんね。」
「いえ、ほんとうにすぐでしたよ。みなさんほんとうにありがとうございました。」
「よーし!今日は休んで、明日には南へ出発だ。解散!」
の言葉で地下牢から地上へ戻り、用意された客間へと移動する。
彼の後ろについて歩いていく。なんだかドキドキする。
どうしよう、自分の気持ちを伝えたい、今すぐに好きだと言いたい。
けれど緊張して切り出せない。
「あ、あの、……」
「ん?」
振り向いたがの隣に移動した。
「あの、ちょっと、お話が……。」
「えっ?あ、うん、どうしたの?」
「あの、その……耳を貸してください。」
「うん?」
二人は立ち止った。その二人を導かれし者が通り、「先にいってますぞ。」とトルネコの声。
改めては息をついて、の耳の横に手をたてて、自分の気持ちを言葉にしてみる。
「のこと、好きです。」
「ええ!?」
が素っ頓狂な声を出してを見た。湯気でも出てきそうなくらい顔の赤い。
「ちょ、ちょっときて!」
に手首をつかまれてどこかへ連れてかれる。どうやら城の庭らしかった。外はもう真っ暗で静まり返っている。
久々に建物から外に出た気がしたが、いまはそんなことはどうでもよかった。
庭の隅っこにやってきて、あたりに誰もいないこと確認する。いない。
「えっと、その、、俺の聞き間違えじゃなかったら、その、は俺のことを……すき、って?」
期待と不安の入り混じった顔で首をかしげたの顔も赤かった。
は黙ってうなづいた。
「わたし……どうしようもないくらい、のことが好きって、気付いたんです……。」
込み上げてくる強い感情に涙が出てくる。それを乱暴にぬぐいながらは言葉を続ける。
「マーニャさんと、い、一緒に寝てたのも嫌でした、わたしのいな、いところでわたしの知らないがいるのも嫌でし、た。
隙間、ないくらいと一緒にいたいですう……!と一緒にいると幸せなんです!の一番近くにいたいです!!」
溢れてくる感情を言葉にしていたら抱きしめられた。
本日二度目の抱擁。
「ほんとう……?」
「ほんとうです……っ。わたし、のことが大好きです……!」
「俺も、俺ものこと大好きだよ。うれしい、すごいうれしい……!」
「い、いたいですよ……」
「ごっごめん!」
ぱっと離れての顔をうかがうと、彼女は泣きながらうれしそうな顔で笑っていた。
この彼女が自分のことを好きだと、しかも大好きだと、いっていた。今日ほど幸せな日はないだろう。
「。」
「は、はい。」
少し照れながらも真剣な表情で名前を呼ぶ。にやにやしてしまいそうな顔を無理やり引き締める。
「俺と一緒になってくれる……?」
「は、はい!よろしくおねがいします!」
今度はやさしい抱擁。
本日三度目の抱擁は愛で溢れていた。なんだか緊張する、どきどきが伝わってしまったらどうしよう。
「……、どきどきしてるね。」
「へっ?あ、あ……」
「俺も緊張してるよ。胸に耳当ててごらん。」
「は、はい……」
言われた通り耳をあてると確かに彼の心音も早かった。と、そこで気付いた。
とのかつてない距離感。
「あっ!あの、ち、……ちか……ちかちか……」
「チカチカ?」
「近いですね……」
消え入りそうな声でいった。反射的に離れようとした、だが思いとどまる。
「離れないよ。」
いたずらっぽく言う。ならば、とが離れようとするが、が抱きしめる力を強くしたので離れられない。
それどころか先ほどより密着している。
「うう、恥ずかしい……!」
「幸せにするからね。ずっとそばにいてね。」
「はい……。あ。」
「ん?」
「ねえ、なんであのときマーニャさんと一緒に寝てたんですか?」
が記憶をたどり思い返す。一度だけ起きたらマーニャがいたときがあった。あれはたしかの宴会のあと。
「……ああ。宴会のあとだよね?マーニャが酔い潰れてしまったから部屋まで送ろうと思ったんだけど、マーニャの部屋が
一番奥にあったから面倒くさいから自分の部屋にマーニャを寝かせて俺がマーニャの部屋で寝ようと思ったんだけど
マーニャが離してくれなくてそのまま寝たのんだ。心配させてごめん。けどもクリフトと寝てたよね?」
どちらともなく離れて地面に座った。芝生がチクチクしてすこし痛い。
「わたしが潰れてしまって、クリフトが運んでくれたみたいです。同じような感じですね。」
「俺、やきもちやいてたんだよ。ていうか、俺、クリフトにやきもちやいてばっかなんだ。ごめん、心せまいかな?」
「そ、そんな!わたしもやきもちをやいてしまいますよ……一緒ですね。」
「もっと大人の男になるからね。」
「でも、やきもちをやいていただけるなんて、うれしいです。」
「ほんと?なら、やいちゃうからね。」
いたずらっぽく笑ったに胸がきゅん、と縮こまった。はじめての感情。
とははじめてのことばかりで戸惑うが、どこかうれしい。これからもいっぱいといろんなことを知りたい。
「はい。」
そして訪れた沈黙。緊張して、いっぱいいっぱいのは自分のつま先を見つめて、必死で話題を探しだす。
そんなを愛おしそうに見つめる。この幸せな時がずっと続けばいいのに、と願わずにはいられなかった。
しかしそう思うと同時にシンシアや、村のみんなへの罪悪感で心がちくちくと苛む。自分だけこんなに幸せでいいのだろうか。
みんなは自分を守って死んでしまったのに。と考えたところで、と視線が合う。
「?」
「……そろそろ戻ろうか、明日、みんなに報告しよう。」
立ち上がり、お尻についた芝を払う。も立ち上がり、はい、とうなづいた。
つながる想い
「あ、ピアス、お返しします。」
「ん、ああ、いや、もっててよ。はピアスの穴開いてる?」
「一応あいてますが。」
「じゃあ、つけてよ。おそろいでなんかよくない?」
「あ、う、はい……!」
また胸がきゅん、と縮こまった。