牢屋に連れ込まれてからどれくらい経っただろうか。誰かが何かを喋ってもその話題は続かずにすぐ終わってしまう。
そんな空気のなか女兵が三人やってきて、錠をあける。

「出なさい。女王様がお呼びです。」

三人は全員に手枷をつけてから、牢屋から出した。罪を犯していないのになんだか罪人の気分だ。
地下から地上に出て、とぼとぼと謁見の間への道を歩く。周りからの視線がとてつもなく痛い。
まるで汚いものを見るかのような目でこちらをみて、ひそひそと会話を交わす。
そんな人たちを見たくなくて、は自分のつま先を見つめて歩く。今すぐ消え去りたかった。

(わたしたち、やってないんです……。)

ぐっと下唇をかみしめる。




犯人を探せ!




「先ほどの旅の者ではないか。」

女王の冷涼な視線がに突き刺さった。その視線は”やはり外のものは信じられない”といっているかのようだ。
だがは負けじと反論する。

「俺たちはやっていません!!」
「シスターのブロンドの十字架を盗み出したと聞きました。この申し立てに間違いはありませんか?」
「ですから、違います……!」
「しかしシスターはそなたたちが盗んでいるところを見たと言っていますが。それでも違うと?」
「違います。」
「だとしたらブロンズの十字架を盗み出したのは誰なのでしょうか?もし、濡れ衣であるのならばそなたたちに本当の
 犯人を見つける機会を与えましょう。ただし、それまで仲間の一人を預からせてもらいます。いいですね?」
「……では私を。」
!」
「マーニャ、いいんだ。みんな、頼んだよ。」

が微笑んで、彼は牢屋へと連れて行かれた。
残されたたちは手枷を外され、自由の身になった。

「さあ、おゆきなさい。」
「………。」

は思わず走り出した。

!?」

アリーナの声を背中に受けて、階段を駆け下り、地下牢へと向かう。
その途中でと、を連れている女兵士を見つける。

!」
「ッ!?」

弾かれたように振り返った

「人質はわたしがなります。は、犯人を探してください。」
「いや、俺が、」
「いいえ。がいなくてはいけません。、あなたが必要です。わたしと変わってください。お姉さん、手枷を。」

手を差し出すと、女兵士は困ったようにを交互に見やるが、が催促するように「お願いします。」と
言うので、女兵士はに手枷をかけた。

……本当にいいの?」
「ええ。早く犯人を捕まえてくださいね。待ってますから。」

人質なんて誰もなりたくないに決まっているのに、が自ら志願している。
そのの気持ちにこたえるためにも、一秒でも早く犯人を捕まえなくては、とは強く誓った。

「わかった……、待ってて。すぐに迎えに来るからね。……あ、そうだ。」

右耳につけていたスライムのピアスを外して、の服のポケットに忍ばせる。

「すぐに戻るからね。」

抱きしめたくて一瞬腕を開きかけるが、ぐっととどまる。が望んでいないことをしてはいけない。

「はい。」

にっこりほほ笑んだの笑顔はを信じきった笑顔だが、やはりどこか不安そうだった。
女兵士に牢屋に連れてかれるを見えなくなるまで見送り、は導かれし者たちと合流し、自分が戻ってきたいきさつを説明した。

「そういうわけだから、一刻も早くを迎えに行こう。」

のためならあたし……すっごい頑張るわ!」と、アリーナ。
「いつも助けられてばかりですからね、今度は私の番です。」と、クリフト。
そんなわけで、新犯人捜索大作戦が始まった。

……待ってて、必ず俺が真犯人を捕まえるから。)


うす暗くじめじめした地下牢で一人ぽつんと何をするわけでもなく座ってぼんやりとする。
真犯人が見つかるまでこの牢屋で独りぼっちだ。正直、さみしい。
でも、最近、自分の気持ちがよくわからないから、気持ちの整理をするのにいい機会かもしれない、とも思っている。

(わたしは、が好きなのでしょうか。)

マーニャと一緒に寝ている姿にショックを受けた。涙も出た。名前のわからない感情がぐしゃぐしゃと心をかき乱した。
あれは、嫉妬、というものなのだろうか。だとしたらやはり、自分は。……わからない。

今頃は、何をしているんだろう。
マーニャやアリーナやミネアと楽しそうにしているのだろうか。
と、そこまで考えて、はっと先ほどの出来事を思いだす。
ポケットに手を突っ込めば、確かな感触。それを出して見つめる。が預けてくれたスライムのピアス。
今までのとの思い出がたくさん蘇ってくる。


『俺は。よろしく…。』

『おれ、は…世界、を、救う、勇者、なの、に…!自分、が、生まれ育った…村……すら、救え、なかった!!』

『馬鹿だなあ。ほんとうに、嘘をついてないよ。』

『ごめん、迷惑だったよな。……忘れてくれていいよ。』

『どれもいいところがあって、俺には選べない。』


――― 『一緒に居たくて、一緒に居るだけで幸せで、誰よりも近くにいたくて、その人を想うと胸が苦しくて…』

と一緒に居たい
と一緒にいると幸せ
の一番近くにいたい
を想うと……胸が苦しい。

なんだ、好きなんじゃないか。

(………でもは、いま、誰を好きなのでしょうか。)

マーニャ?アリーナ?ミネア?みなそれぞれ魅力的な女性で、可愛くて、同性のから見ても羨ましい女性たち。
が一瞬でも自分のことを好きだったのが不思議なくらいだ。なぜ、他の女性ではなく、自分を。

、早く帰ってきてください、迎えに来てください、お願い。)

スライムピアスを両手でぎゅっと握りしめて祈るように目を閉じた。
のそばにいないと、彼が何をしているかなんてわからない、それがどれほど不安か、気付かなかった。
いつも一緒にいるから気付かなかった。


…………会いたいです。)