(はれ……いつの間に寝ちゃったんでしょう。)

ごしごしと目をこすって改めて目をあけると、男の人が隣に寝ていて一気に目が覚めた。

「っっ!!……クリフト?」

なぜクリフトと同じベッドで寝ているのだろう。と考え、昨夜の記憶を呼び起こそうとするが、どれだけ頑張っても
ここに至った経緯について何一つ思いだせなかった。

(昨日はお酒を飲んでまして……それで、あれ。)

一瞬悪い予感がよぎったが、彼も自分も着衣しているし、自分たちに限ってそんなわけがない、と思い、ほっとした。

「クリフト朝です、起きてください。」
「ん……あ、おはようございます。」

クリフトを揺すると、彼はすぐに目を覚ました。

「……あ、そうだ。」

最初は彼もこの状況に驚きを隠しきれないようだったが、やがて記憶を取り戻したのか、ほっとしたように微笑んだ。

「昨日が寝ちゃったもので、あなたを送り届けて、そのまま私も寝てしまったようです。」
「なるほど……申し訳ないです。」

酒は飲んでも呑まれるな、とはよくいうがまさか自分が呑まれてしまうとは思わなかった。
改めて自分の愚かさを恥じた。

「はー……なんてことでしょう。ちょっとの所に行ってきます。」
「わたしも自分の部屋に戻ります。」

ふあー、と大きなあくびをしてまだ眠そうなクリフトとともに部屋を出て、の部屋に謝りに向かった。
確かの部屋は自分の目の前の部屋だった気がする。
ドアをノックをするが、返事がない。まだ寝ているのだろうか。好奇心からドアノブに手をかけてゆっくりと扉を開く。
こっそりと部屋の中を覗きこむ。

「!!あ、れ」

ベッドにはとマーニャが寝ていた。どきどきといやに心臓が早くなる。
はあわてて扉を閉めて、自分の部屋に逃げるように入り込んだ。扉に背を預け、目を閉じる。

と、マーニャさんが……一緒に寝ていました。)

なんだろうこの感情は、もやもやとしたものが胸をじりじりと焦がす。
頭が全力で先ほどの映像を拒否しようとしている。

(自分には関係ないことです……ですが、なんでこんなに悲しいのでしょう。)

もしかして、これは、嫉妬なのだろうか。自分に問いかける。
自然と流れてくる涙をぬぐうこともなく、じっと考える。

(わたし、が好き……?)

しばらくして身支度をして食堂へ向かおうとすると、偶然も扉から出てきたところだった。
マーニャと一緒ではない。

「おはよう。」

いつもと変わらない笑顔、変わらない態度。
けれどはそんなにいつもと変わらない対応ができそうもなかった。

「……おはようございます。」

無理やり笑顔を張り付ける。作り笑顔がこんなに難しいなんて知らなかった。
うまく笑えていたかもわからない。




女の都ガーデンブルグ




バトランド城で王に謁見すると、天空の盾は実はおじいさんの代のときに、ガーデンブルグの女王に
あげてしまったらしい。というわけで一行はバトランド王からの手紙を携えて東の山奥にひそやかにある女だけの城へ向かうことになった。
火山の噴火で道が断たれているらしいのだが、サントハイム城の宝物庫にあるマグマの杖でなんとかなるらしい。
バルザックを倒した際ブライが持ち出していたので事なきを得た。



「これを、この杖一つで道ができるのだろうかの……」

ブライがいぶかしげにマグマの杖を見つめ、呟く。道をふさぐ溶岩や岩は、導かれし者たち全員で協力したところで
気が遠くなるほどの月日がかかるだろう。それを、この杖一つで解決できるとは思えない。

「どれ。」

杖を振り上げると、地鳴りが聞こえ始め、破裂音とともに地面が割れて、マグマが噴き上げて溶岩や岩石を溶かしていく。
灼熱のマグマに溶かされたそれらが形を保てなくなりどんどんと横へ広がっていった。
平たくなったマグマは急速に冷えていき、灰色の地面ができてトンネルへの道が開けた。

「……なんて力なんでしょう。」

目と口をあけたまんま止まっているの隣でクリフトが呆然とつぶやいた。まるで、この世の終わりのような景色だった。
そんなこんなで新しく開けたトンネルのなかに入り込み、ガーデンブルグへ向かう。ガーデンブルグは山の奥にあるため
トンネルは傾斜がかっていた。足元をとられないように気をつけながら進む。
しばらく経つと光が見えてきて、ガーデンブルグへたどりついた。

「綺麗なところですね。」
「そうね、緑でいっぱいで空気がおいしいわ。」

緑で溢れたガーデンブルグは花のにおいがした。町中を通って行くと、やはり町中には女性しかいなくて
なんだか変な感じがした。

「女の子だけって聞いたから、どんだけか弱そうな町なのかしらって思ったけど、たくましそうなのも結構いるわね。」

女性だけで生活していくということは、女性の中で男性の役割をこなす人もいるわけで。
町を守っているのであろう剣を携えた女性、重たそうな荷物を運ぶ女性、さまざまいた。
この中にアリーナがいたらさぞかし頼られるだろうに。

城の庭は手入れの行き届いたとても美しい庭園が広がっていた。
やはり女性が治める女性だけの国には美しさが漂っているな。とは思った。
目の前ではとマーニャが一緒に歩いていて、胸がチクリと傷んだ。それを見ないようにして
ふとクリフトを見ると彼の表情はどことなく浮かれている。

「あら、クリフト、まさか姫様以外の女性に目移りを?」

冗談っぽく言えば、クリフトは顔を真っ赤にして「え!?」と素っ頓狂な声を上げた。

「まっまさか!なにをいいますか、!わた、私がアリーナ様以外の女性にめっ目移りなど!」
「まあまあクリフト殿。男である以上仕方ない。わっはっは!」
「ライアンさん!ほ、ほほほ本当に違いますから!!」

クリフトの慌てっぷりには思わず笑い声をもらした。



「何者だ。」

門の前で門番にとめられる。門番ももちろん女性だ。

「私たちは天空の防具を求めて旅をしています。この手紙をお読みください。」

バトランド王の手紙を渡すと、さっと目を通した門番がに手紙を返して敬礼をした。

「話はわかりました。どうぞお通りください!」
「ありがとうございます。」

城の中に入ることができた。
すると別の兵に謁見の間まで案内されてガーデンブルグの女王の前へやってきた。

「旅の者ですね。」
「はい、と申します。」
「この国がこうしてあるのは外からのいざこざをあえて断ち切ったからこそ……。早々に出て行ってください。」
「ですが、しかし、」
「出て行ってください。」

女王はかたくなにとの会話を拒んだ。は困り果てた結果バトランド王からの手紙を渡そうかとしたが
大臣がやってきて、「すみませんが、立ち去ってください。手紙なら私が受け取ります。」というものだから大臣に
手紙を渡してひとまず立ち去ることにした。
謁見の間を出るなり、アリーナが不機嫌さをあらわに「なによ。」とぽつり呟いた。

「あの女王、外との交流がないから世界がどうなってるかわからないのかしら。」
「まあまあアリーナ。」

がなだめるが、アリーナはたいそうご立腹なようだった。
とりあえず町に戻ろうと思い来た道を順繰りに戻ろうとするが、行きの道を案内の兵に任せっぱなしにしていたため
何分道を覚えていない。せっかくなのでガーデンブルグの城を見学して、それから町へ戻り、
次の日にでもまた女王に謁見をしようという結論に至った。

「あら、旅のお方ですか。」

見学をしていると、やたらとそわそわしている綺麗なシスターが話しかけてくれた。

「聞いてください。私は、すべてを神にささげ教えを説いてきました。それを女王様に認められて、
 ブロンズの十字架をいただいたのです……。はあ。」

熱に浮かれた視線を斜め上にやり、うっとりとため息をついたシスター。
どうやらうれしさのあまり見ず知らずのたちにすら話しかけてしまったらしい。

「よかったですね。」

はにっこり微笑んで、会釈をすると、いまだにうっとりしているシスターを通りすがった。

「すべてを神に……素晴らしいお方ですね。」
「あらクリフト、今度はあのお方に目移りですか?」
「ち、ちが!」

角を曲がると扉があいている部屋があった。先頭を歩くが何気なく視線をやると、さわやかな笑顔を浮かべた
男の吟遊詩人と目が合って手招きをされた。この城にも男がいた、なんだか不思議だ。

「このタンスの中を見てください。面白いものがありますよ。」

それだけいうと、吟遊詩人は部屋から出て行った。「面白いもの?」食いついたアリーナがタンスをあけるが、
中にはなにもなかった。

「なにもないじゃない……。いきましょ。」

そういって部屋から出たその時だった。

「あなたたち……いったい私の部屋で何を!」

先ほどのシスターがひきつった顔でこちらを見ている。
何が何だかよくわからない。シスターは部屋に入り込んでタンスの中を見て、「きゃああ!」と悲鳴を上げて
その場にへたりこんだ。

「泥棒!泥棒です!誰か!!」

あっという間に兵がやってきて、たちは全員捕まった。
そこでようやくわかった。自分たちは何か盗んだと勘違いされている。そしておそらく犯人は、あの吟遊詩人。

「間違いです!わたしたちは何もしてません……!」
「うるさい、くるのだ。」

の声は届かず、体格のいい女性にずんずんとどこかへ連れてかれる。地下へ続く階段をくだり、地下にやってきた。
どうやら牢屋らしい。一同はみんな牢屋にいれこまれた。

「出してください、俺たちは何もしてない!」

の声に耳を貸さずに、自分たちを捕えた兵たちはどんどんと地上へ戻って行った。