目が覚めたら目じりに涙がたまっていた、ごしごしとこすり、あの夢をもう一度思い出す。
ロザリーとピサロ。ロザリーに対する非倫理的な人間の仕打ち。

……あたし、悲しい夢を見たわ。」

ちら、と隣を見ると、アリーナもいつになく真剣な顔で天井を見上げていた。

「わたしもです……。」

きっとあのピサロが、デスピサロなのだろう。




彼が世界を滅ぼす理由




朝食は重い雰囲気に包まれていた。誰も自ら喋ろうとはせず、食器と食器が当たる音で包まれていた。
その沈黙を破ったのは、だった。

「”デスピサロは、なぜ世界を滅ぼそうとしているのか。”」

フォークを置いて、彼はまるでテストの問題文を読み上げるかのように言った。
その言葉に、みな食べることをやめた。彼は皿の上にあるサラダを見つめながら言葉をつづけた。

「俺はね、デスピサロはただたんに世界を魔物のものにしたいがために、地獄の帝王を蘇らせようとしているのかと思っていた。」

これはきっと皆同じだろう。
とてそう思っていた。―――昨夜の夢を見るまでは。

「けど違う……人間への復讐、なのかもしれない。」

夢がすべてであるとは限らない。けれど、あの夢が全くの事実無根とは言い切れない。
あんな生々しいものを見ては事実である可能性も否めないのだ。
けれど本当のところはデスピサロにしか分からない。

「けど俺たちは、それを止めなくてはいけない。それが俺たちの使命だから。」
「そうですね……。」

再び食堂に沈黙が訪れた。



食事を終えて準備を済ますと、バトランドへ向けて旅立った。イムルの洞窟を抜け、日の暮れる頃にはバトランドにたどりついた。
今日のところは旅の疲れもあるので、宿屋で休むことにした。バトランドが故郷であるライアンは、終始楽しそうであった。
夜ご飯を食べ終えると、昔馴染みに挨拶してくる、といってにこにこしながら宿屋を出て行った。
宿屋の主人もライアンの知り合いらしく、ライアン殿の知り合いなら、といって酒をふるまってくれた。今朝の雰囲気がうそのように
酒の席は盛り上がりを見せた。

「あふー……なんだか顔があついですぅ……。」
「大丈夫?」
「ひゅー!王子様の登場だー!」
「姉さん、もう。」

マーニャの冷やかしを受けながら顔が真っ赤になっているが介抱する。

「あによおー!!!あたしのにさわんじゃないわよお!」
「おっ、おちつきなされ姫!」

すでに出来上がっているアリーナがを引きはがそうとするが、それを、さっきまでトルネコとブライと大人の飲み方で酒を
嗜んでいたブライがアリーナを羽交い絞めにして止めようとする。
は今度はアリーナを落ち着かせようとし、アリーナ、と名前を呼びから離れる。

「これでいい?」
「そーよお、それでいいのよお。ほーらあ、こっちきなさい!」
「はいはい。」
「わしはそろそろ寝ることにするかの。」

ブライは寝室へと向かった。はアリーナに引っ張られて、アリーナの隣に座らされた。
それをみたが、なんだか胸がもやもやしてきて、顔をテーブルに伏せた。見かねたクリフトが今度はの介抱をする。
彼は神につかえている身だけあって、酒を飲んでいないので素面だ。

、気持ち悪いのですか?」
「ちがいますう……」
「ほら、外の風に当りましょう。」

クリフトに連れられては宿の外に出た。ひんやりとした夜風が気持ちよくて、は目を閉じてふう、と息をつくと、
宿の外のウッドデッキに備えてあるベンチに腰かけた。

「大丈夫ですか?」
「だいじょぶです……クリフト……。」

隣に座っているクリフトに寄りかかる。

「わたし……よくわからないんです、うーん。」
「何がよくわからないんですか?」
「じぶんが、よく、んー眠いです……」
「寝ますか?じゃあ部屋まで行きましょう。」
「くー………」

びっくりするぐらいすごい早さでは眠りに就いていた。クリフトはどうしようかと思案するが、寄りかかられるのも
悪い気はしないし、しばらくこのままでいようと思い、の頭を一撫ですると、夜空を見上げた。
一方アリーナに引きはがされたは、クリフトがを外へ連れて行くのを見て、気が気でなかった。

「らいたいれー、あんた、のことどーおもってんのよお。」
「んーどうだろうね」
「ごまかすんじゃないわよお!そんなんじゃ、あの子のことまかせらんないわよお。」
「アリーナ、落ち着いて。」
「クリフトにとられてもしんないわよおー!」
「アリーナ殿、相当酔ってらっしゃるなあ。」

トルネコがライアンにいい、「たしかに、はっはっは!」とライアンも高らかに笑った。
それに気付いたアリーナが「あによおー!」といって今度はトルネコとライアンのところに向かった。
まるで怪獣のようだ。

。」
「ん?」
「クリフトとが外へ出てったけど、追いかけなくていいのかい?王子様。」
「……うん。」
「いいのですか。」
「邪魔しちゃ悪いだろ?」
「けど気になっているのでしょう?いったほうがいいのでは。」

姉妹に言われて心が揺らぐ。本当は今すぐにでも外へ出てに会いたい。けれど、クリフトがいる。
それがどうしてものもとへ行くのを拒ませた。

「いってきなよ。」
「……ありがとう。」

けれどやはり待ってなんていられない。弾かれたようには宿を飛び出した。
は酔っていたからそんな遠くへ入ってないはず。おそらく宿の外のウッドデッキだろうと思った。
そこへいくと、誰もいなかった。

(あれ……いない……?)

宿屋のまわりをぐるりと一周するが、やはりいない。もう部屋に戻ったのだろうか、の部屋へ向かった。
こんこん、とノックをするが、誰も反応しない。もう一度しても返事がない。そろそろと扉をあけると、部屋はもう真っ暗で
扉から入り込んだ光だけで中の様子が確認できた。

?」

扉をすべて開けた時、驚愕の光景が広がっていた。
とクリフトが寄り添うように同じベッドで眠っていた。

「――――ッ!」

は勢いよく扉を閉める。いやに心臓がバクバクする。
いてもたってもいられなくて、は再び食堂へ戻った。

「おかえり、……?」
「……なんでもない、飲もうよ。」

力なくわらったを拒めるわけもなく、マーニャはうなづいて、の分も酒を注いだ。
それをはためらいなく一気に流し込んでいく。のどに苦味が広がる。

「おいおい、悪い飲み方だよ。」
「いいんだ。大丈夫、明日に差し支えないくらいに抑えるからさ。」

お願い、との甘えるような笑顔にマーニャはあらがえず、もう一度酒を注いだ。
結局、何杯か飲んだ後彼も潰れてしまった。