パノンをルーラでモンバーバラまで送り届けて、宿屋に帰ったころにはもう日が暮れかけていた。
その日はそこで休息をとり、次の日には東の地、バトランドへ旅立った。
バトランドへ直接船で行くことはできないので、バトランドの北に位置するイムルから洞窟を経由して向かうことにした。
再び船旅。とても天気が良くて、魔物も襲いかかろうとはしない。こんな日はきっと魔物も家族サービスをしているに違いない。
は思った。

数日後、イムルへたどりついた。長い船旅のせいで地上に降り立ったいまでもゆらゆらと揺れてる心地がする。
イムルに一日滞在し、食糧から何から整えてから洞窟を超え、バトランドへ行くことになった。
買い出し係はライアンとトルネコ。ライアンは土地勘があるし、トルネコは買い物の達人。彼のおかげで値切りがうまくいく。
宿屋に入り記帳に名前を記入し宿泊代金を支払いそれぞれ部屋に入り二人の帰りを待った。

やがて彼らが買い出しから戻ってくると、町はある話題で持ちきりだったらしい。
それは、”宿屋に泊まるとふしぎな夢を見る”ということ。
おかげで宿屋の商売はあがったりだという。けれど”不思議な夢がなんだ。”ということになって、結局イムルに泊まることにした。

どんな夢なのだろう、と少しわくわくしながらは眠りに就いた。
やがて眠りの海に身を任せた。




ふしぎな夢




ここはどこなのだろう。
よくわからないが、誰かの部屋だろう。隣には赤に近いピンク色の髪の長い女性がいて、窓辺から外を眺めている。
よく見ると彼女は耳がとがっていた。外には髪の長い銀髪の美青年がこちらを見上げていて、女性と視線がかち合ったのか、
ふんわりと笑顔を浮かべた。二人は手を振りあった。そして彼はおもむろに笛の音を奏で、奏で終わると、男が立っていた灰色の
タイルが沈んで、男の姿がフェードアウトした。それから暫くすると扉が開く音がしてそちらを見ると、同じく髪の長い銀髪の美青年がやってきた。
彼も同様に耳がとがっていた。

「いい子にしていたか?ロザリー。」
「ピサロ様……。」

ピサロ様……?
自分たちが追っているのはデスピサロ。彼とはまた別なのだろうか。
ピサロ、と呼ばれた男はロザリーのもとへ歩み寄り、彼女の艶のある美しい髪を一束すくい、
その質感を確かめるように指を滑らした。

「ロザリー、私は人間を滅ぼすことに決めた。」
「!ピサロ様、そんな……っ!」
「まもなく世界は最後の炎にやかれるだろう。私の最後に仕事が終わるまで、お前はここに隠れているのだよ。」

彼は髪から手を離すと、踵を返し部屋を去ろうとする。

「お待ちくださいピサロ様!私はそんなことを望んでません……!」

ロザリ―の悲痛な叫びを背中に受けながらもピサロは振り返らずにそのまま部屋を出て行った。
取り残されたロザリーは手で顔を覆い、すすり泣く。その手の隙間から、涙が固体になったようなものが落ちてくる。
それはルビーで、彼女の涙はルビーに変質するらしかった。

「誰か、誰かピサロ様を止めて……このままでは世界は滅んでしまう…お願い、誰かわたしの願いを受け止めて……!」



が瞬くと、次の瞬間には場面は変わりロザリーは今度はおびえるように窓辺に立ち竦んでいた。
どん、どん、と乱暴にドアを叩く音。ドアの向こうからは怒声や罵声が引っ切り無しに聞こえてくる。
やがてドアが力によって開けられた。複数の男が入ってきて、の目の前でロザリーがひどい暴力を受けている。

『やめてください!!』

しかしはこの世界には存在しない。彼女の必死の制裁は当然効かず、ある男は彼女の艶ある美しい髪を引っ張り
至る所を殴っていて、ある男は手加減もせずロザリーを踏みつけている。

「さあ泣け!泣いてルビーの涙を流すんだ!」

はみていられなくて、顔を手で覆い必死にやめて、と叫び続ける。
彼らはロザリーのルビーがほしいのだ。なんて、人間なのだろう。

「ロザリー!?」

ピサロが現れた。

「きさまら……ロザリーに何を!」

ピサロは地面を一蹴りしロザリーのもとへ飛んでいくと、ロザリーに暴行を行っていた人間の息の根を次々にとめていく。

「ピ……サロ様……、きて、くださったのですね……。」
「もういいロザリー何もしゃべるな……!」

ロザリーを自らの膝に寝かせる。

「わたしのさいごのわがままを、きいてください……どうか、どうか、野望を捨てて……わたしと……っ!!」

一瞬苦しそうに顔をしかめて、気を失った。
涙が一筋流れて、それはやがてルビーに変わった。

「ロザリー!!!!」

ピサロはロザリーを抱き寄せて、ロザリーの温もりを一身に感じる。

「許さん……許さんぞ、人間どもめ!たとえ私がどうなろうとも、一人残らず根絶やしにしてくれん……!!!」