翌日、結局導かれし者全員で王様を笑わせようと頑張ったのだが、王様は愛想笑いもしなかった。
「それでおしまいか?」と確認し、「はい」と答えるとただ一言、表情を変えずに「出直してまいれ。」と言うだけであった。

「どうしよう……」

城を船で外に出てから、が心底困ったように言った。

「ずうっと無表情でしたね。わたし、あそこまで無表情でいられると泣いちゃいそうです。」
「慣れれば案外いけるものですよ。」

トルネコがさらっといった。そうか、彼はどうやら滑るのに慣れてしまったらしい。

「でもこのままじゃ兜を手に入れることができないわね。どうしようかしら……」
「ひとつ、提案があるんだけどいいかい?」
「なあにマーニャ?」
「パノンっていう、とんでもなく面白い芸人をあたし知ってるんだ。そいつならもしかしたら。」
「パノン……その人はいったい今どこに?」

の問いにマーニャは肩をすくめる。

「わからない。」
「でも姉さん、もしかしたら座長さんなら居場所を知っているかもしれないわ。」
「ああ、確かに!じゃあ、これからミネアと二人でモンバーバラまでルーラでいってくるから
 少し待っててもらってもいいかい?」
「構わないよ。じゃあ、休憩にしよう。二時間後に宿屋に集合、いいかい?」

皆うなづいて、ひとまず休憩となった。各々好きなところへと散っていき、もどこかへ行こうとあてもなく
歩き出したそのときだった、、と呼びとめられたので振り向くと、がもう一度、、と呼んだ。

「なんでしょうか。」
「ええと、はどこへいくの?」
「とくにあてはないです。は?」
「あ、いや、そのえーと……ああ!武器、みたいな、と思って、もしよかったら、一緒に来てくれないかな?」

別に武器屋に行きたいわけではなかった。防具屋でもよかった。
ただ、とどこかにいきたいだけだった。そんなの意図には気付かずに、は快諾した。
(意図に気付いたとしても快諾をしたであろうが。)

「では、武器屋へ行きましょう。」
「うん。」

はやる気持ちを抑えきれず、満面の笑みでうなづいた。



君という人間



「うーんでもこっちの剣だと握り具合はいいんだけど重いから振り遅れちゃう可能性があるんだよなあ。でもこっちの剣は―――」

がいることはもちろん頭にあるのだが、やはり小さいころから剣術とともに育ってきただけあって、
剣に関することになると目の色が変わってしまう。真剣な表情で独り言をぶつぶついいながらある時は手にとって
ある時は振りかぶって、ある時は斬る真似をしたりしながら何本かの剣を比べている。

……ものすごい真剣です。わたしのことなんてすっかり忘れちゃってますね。)

少し脱力しながらもそんなの様子がなんだかいとおしくて、自然と口角があがる。
何かに一生懸命な姿、というのはまるで少年のようで、母性本能をくすぐられる。

「お嬢さんは何かお探しかい?一緒に来たお兄さんはずいぶん夢中になってるけど……」

店の主人がに話しかける。

「わたしは結構です。付き添いなので。」
「そうかい。お嬢さん、お兄さんのコレかい?」

といって主人は小指を立てて意味深に笑った。
小指――つまり、彼女。
『俺はが好きだよ』
フラッシュバックするの告白にの胸がドキドキと高鳴った。

「ちっちがいます!」

自分でもびっくりするくらい大きな声で否定をした。

「そうなのか。しかし、あの人はいい人だよ。」
「なぜそう思うんですか?」
「この職業を何年もやってるとね、武器を選ぶ姿で人柄がわかるんだよ。」

言われてをみると、いまだにあーでもないこーでもないと独り言を言いながら熱心に剣を選んでいる。

「彼は、いい人間だ。」
「……ええ、その通りです。」

うなづいた時だった、がくるりと振り返り「だめだあ、」といった。

「どれもいいところがあって、俺には選べない。」

がはにかんだ。その笑顔にの胸が深く脈打った。

「……あっごめん!随分待たせちゃったね!」
「いえいえ、こちらはこちらで楽しかったですよ。」
「楽しかった?そっか、それならよかった。いこうか。ご主人、ありがとうございました。」
「いやいや、またきてくださいよ。」

主人に見守られながら、二人は武器屋を出た。

「本当にごめん。待ったよね?そのうえ買わないなんてその」
「いえいえ本当に大丈夫ですよ。」

店を出てすぐに申し訳なさそうに眉を下げて謝るがなんだかいとおしくて、思わず微笑む。
するとの顔が少し晴れた。

「よかった。」

命拾いしたかのような顔でふう、と息をついた。

「お詫びといっちゃなんだけど、まだ時間もあるし何か食べない?俺がおごるよ。」
「そんな、大丈夫ですよ。」
「いや、俺の気が済まないよ。ね、お願いっ!」

なぜか奢ることをせがまれるという奇妙さに多少面白みを感じつつ、「そこまで仰るなら、」
は提案を受け入れた。近くにあった喫茶店に入り、コーヒーとカフェオレを注文した。