故郷の大地




予定通り午前中にはサントハイム大陸へ到着した。久々に踏みしめた大地はなんだか不思議な感じがする。
もう水上ではないのにまだゆらゆらと揺られている心地がするのだ。

「変な感じです。」
「ゆらゆらしますな。」

ライアンを見ると、ふらふらと足取りがおぼつかない。なんだか面白い映像で、は笑ってしまった。
彼は酔っ払いかのようだった。と、そこで、ブライの姿が目にはいる。

「……ブライさん、なんだか顔色が悪いですね。」
「なんだか海の上だと思うと眠れなくてな……昨晩は一睡もできなかったわい。」
「やだブライ。小心者なのね。どうせ沈没したらどうしようとか考えてたんでしょ?」

アリーナがにまにま笑いながら言うと、ブライはむっと眉を寄せた。ああくる、反論だ。
久々にアリーナVSブライの対決になりそうだ。仲裁仲間のクリフトを探すと、クリフトも顔色が随分と悪かった。

「わしが小心者!?ありえませんなっ!ただわしは、もしものときを考えて……!…!?………!」
「小心者がよくいう言い訳よ!ブライは泳げないものね、怖くなるのも当然だわ!……、………?………!?」

二人の口げんかを聞き流しつつ、一人だけ明らかに雰囲気が暗いクリフトのもとへ駆け寄る。

「まさか……クリフトも?」
「ははは……さすが。大正解です。」
「もう、クリフトって本当によわよわですね。わたしは安眠でしたよ?」
が図太いだけです。うう……サントハイム城へ行くと言うのに、情けない。」
「最初の方の言葉は流しておきます。今日はブライさんとともに馬車にいてはいかがですか。」
「しかし皆さんに迷惑が、」
「フラフラしながら戦っているほうが迷惑ですよ。回復ならミネアさんがいますから、安心してください。
 へはわたしから言っておきますから。」
「……ありがとうございます。って、優しいんですね。」
「今頃気付きました?」

イタズラっぽく笑えば、クリフトも「ええ、今頃。」とイタズラっぽく笑った。さて、は、と探すと、アリーナとブライの
仲裁をしようと頑張っていたが、どうもうまくいかない様子。一瞬、彼のもとへ行くのを躊躇ったが、ここがと自然と
触れ合う第一歩だ、と思い勇気を振り絞り近寄る。

「アリーナ、ブライ、もうやめよう……」
「大体、サントハイムの姫ともあろう方がなんですその筋肉!!」
「なによお姫さまは筋肉があっちゃいけないわけ!?」

の声はどうやら二人に全く届いていないようだった。はひょこりと隣にたつと、「よく見ててください。」といい
もはや玄人といってもいいくらいの仲裁捌きを見せる。

「アリーナさま、アリーナさま、そんなことよりサントハイムはもう少しですよ。ブライさんも、久々の故郷じゃないですか。
 仲良く行きましょう。ね、」

二人の間にはいってそれぞれに話しかける。すると、

「あ、そうだったわ。サントハイム城はもう少しよ!気合いれていきましょう!」
、護衛をしっかり頼むぞ。」

仲裁完了。どんなもんだ、とにウインクをする。は小さく拍手をして「さすがだ。」と笑った。
しかし、自分の仲裁捌きよりも、思いのほか自然に接することができていることのほうが、なんだか嬉しく感じた。

「ようし!!いざサントハイム!!」
「ラ、ライアンさん!そちらは別方向です!」

全然違うほうへ走り出したライアンをクリフトがとめると、導かれし者たちに笑いが起こった。
(ライアンさんって……ちょっと抜けてるんですよね。)

「サントハイムまでの道案内はあたしたちに任せて。いくわよ、!クリフトにブライは馬車で待機してなさい。」

クリフトの体調も思わしくないことを、アリーナは気付いていたみたいだ。さすが姫さま、とはひそかに感心しつつ
「はい!」と大きく返事をした。


とアリーナとミネアとライアンというパーティメンバーでサントハイム大陸を行く。
故郷の風は、大地は、なんだかとても懐かしく感じる。基本的にお城の周りしかしらないではあるが、
アリーナとの旅で大陸を歩き回ったし、ここがサントハイム大陸だ、と思うと、懐かしいという思いがこみ上げてくるのだ。
目に見える土や草花は、ただの土やただの草花でなくなる。
しかし一つ、気になる点がある。

「アリーナさま、気のせいかもしれませんが……なんだか魔物が強くなっているような。」
も感じてた?となると気のせいじゃないわね……。やっぱりサントハイム城が根城にされてるのかもしれないわ。」
「しかしなぜサントハイムの人々はさらわれてしまったのでしょうか。何か魔物たちにとって不都合なことがあったのでしょうか。」

サントハイム大陸を占拠するのに、まず押さえておきたかったからか。
しかし基本的に地方自治であるサントハイム地方では城を押さえたところであまり意味のないように思える。と、なると。

「……アリーナさまが強いこと、しか思いつきません。」
殿はアリーナバカってやつですな。」
「な、なにおう!」

なんだかライアンに言われるのは癪に障る。ピンクの鎧だからだろうか、ちょび髭だからだろうか、実は彼は天然だからだろうか。
ちょび髭を引っこ抜いてやりたい、と思ったが、さすがにやめた。人道的にもよくないし、何よりちょび髭のないライアンはちょっとおかしい。

+++

「見えてきたわ!」

暫く歩き続けると、サントハイム城が姿を現す。懐かしいその城の外観になんだか目頭が熱くなるのを感じた。
久々に見るサントハイム城は感慨深い。
あそこにはミネアやマーニャの仇、バルザックがいる。仇を討ち、尚且つサントハイム城を奪還しなくては。
今度はキングレオのときのように誰一人傷つくことなく終わればいい。もう二度と、大切な人を目の前で傷つけられたくない。

「目的地は見えてきたから、パーティを交換しよう。休憩を取って戦いに備えて。」

がひょこっと馬車から顔を出して言った。どうしようか、と迷ったのだが、アリーナが「そうね。」と同意したので
も同意した。アリーナがYesといえばYes。Noと言えばNoなのだ。
というわけでパーティは、マーニャ、クリフト、トルネコにチェンジした。

「……ブライさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃ…。」

馬車の中では、ブライが未だに体調が悪そうに角で体操座りをしていた。回復がクリフトよりも遅いあたり、やはり年らしい。