皆はサントハイム大陸に上陸するまでしばしの休息をとることにした。
そんななかどうしてもには気になることがあった。――を庇い傷を負ったのことだった。
回復魔法で傷は消え去ったが、どうしても自分のために誰かが傷ついたということがショックでならなかった。
自分の身も護れないで、クリフトも護れず、騎士の恥だと思った。沈み行く夕日を見つめながら自己嫌悪に陥る。

「なんだ、こんなところにいたんだ。」

振り返ると、夕焼けを受けオレンジ色の染まったがこちらへ向かってきていた。
は何も言わずに会釈をした。は隣に立ち、「あーもうすぐ夕日が沈む。」と嬉しそうに呟く。
夕日が沈みきり、あたりが黒く染められた頃、が口を切った。

「やっぱりサントハイムが心配?」
「んー…そうですね。」
「俺なんかじゃ役不足かもしれないけど、俺がついてるから。辛かったら言ってね。」
「……今日、に怪我をさせてしまいましたね。本当にすみませんでした。」

は目を伏せて今にも泣き出しそうだった。が落ち込んで居る本当の理由を悟った。

「そんなこと気にしてたのか。」
「そんなことって!わたしにとっては大問題です…。」
「俺が勝手にね、を何が何でも守るって決めたから、それはの気にすることじゃないよ。」
「騎士でありながら自分の身も護れず、後衛さんたちも護れない始末。こんなのもう騎士である資格もありません。」
はトルネコを護って、結果後衛のところへ行くのが遅れただけだろう?が後衛を護っていたら、
 トルネコを護ることができなかっただろう?がやったことは是非を問えないよ。」

ぽん、との頭に手を置く。するとは嗚咽を漏らし、静かに涙を流す。
女の子の涙と言うものに慣れていないは慌てふためき、どうすればいいかと思考を巡らせる。

「優しいん、ですね…。」

あのとき――コーミズの村の宿屋に泊まった次の日の朝、に対して抱いた不思議な感情がの胸に再び蘇る。
きゅっ、と胸を締め付けられるあの感じ。

「また、変な気持ちになりました。」
「変な気持ち?」
「ええ。胸がこう、きゅっとなるんです。」

にはよくわからない感情は、も確かに感じた感情。わからないふりをしていたがついに認めた感情。
…だとしたらどれほどいいのだろう。

「ちなみには、人を好きになったことがある?」
「わたし基本的にみなさん好きですよ。」
「…そうじゃなくて、恋愛の方面でさ。」
「それがわたし、お恥ずかしながらまだ人を好きになったことがないんです。幼い頃から騎士の修行ばかりしていたので。」
「そうなんだ。」
「はい。ですから好きと言うのがどんな感情なのかもわからないんですよね。」
「俺が教えてあげるよ。」

自分は何を言おうとしているんだ。考えていることとは正反対に口が勝手に言葉をつむいでいく。

「一緒に居たくて、一緒に居るだけで幸せで、誰よりも近くにいたくて、その人を想うと胸が苦しくて…」

君と出会ってどれくらい経ったんだろう。そんなに経っていないことは確かだけど、でもなぜだろう
独りよがりかもしれないけれど運命を感じる。君との出会いは必然であるように、君を好きになることも
必然だと思った。俺は確かに、勇者になる運命で、君を好きになる運命だ。
思えば出会ったとき、クリフトのために涙を流す彼女の姿が不謹慎ながら美しいと思た。
これほど想われているクリフトをうらやましいとも思った。
その日の夜に誰も気付かなかった(いや、もしかしたら気付いて居ない振りをして触れなかっただけかもしれない。)
心の弱さに触れ、包み込んでくれた。すべてを与えてくれた。そのときから確実に心がを求めていた。
船上で無邪気にかもめにえさをあげる姿はあまりに可愛かったし、を護りたいとも思った。
対キングレオ戦ではを襲いかけた脅威を前に迷わずこの身を差し出し、何が何でもだけは護ろうとした。
君だけは護れ、と心が、身体が思っているんだ。正直ここだけの話、他の誰がどうなっても、だ。


の片手を取って、二人は向き合った。

「俺はが好きだよ。」

告げてしまった自分の想い。
の表情が戸惑いを訴える。今まで自分と仲良くしていた人が実は自分のことを好きだったのだから無理もない。
は手を離し、「聞いてくれてありがとう」と礼を述べた。意志とは関係なく口から突いて出た言葉だが
想いを告げたことに後悔はなかった。ただ知っていてほしかった。



その壁を突き破れ

(悠遠の彼方、天空までも届くかもしれない。でも俺は、君に届けばそれでいい。)