無事にキングレオにたどり着いた一行は、正門を守る門番に怪しまれつつも、正門から少しはなれた場所にある
右側の門へ急いだ。キングレオ城へ入るための門は正門とそこしかないため、たぶん魔法の鍵で開かれる門は
ここであろう。は落ち着いて鍵穴に魔法の鍵を差し込むと、鍵とは思えない形をしていた魔法の鍵はいとも
簡単に門を開けてしまった。鍵を引き抜くと、やはり鍵とは思えない不思議な形をしており、
”錬金術ってすごいんだな”と感動した。

、先頭はあたしたちに任せな。この城のことなら多少はわかるからさ。」

そういったマーニャの顔には静かな怒りがこめられている。
たぶん、父の仇であるバルザックのことを思いだしているのであろう。もう少しのところでしとめられず
キングレオに大敗を喫したと聞いた。は何も言わずに頷いた。

先頭のマーニャとミネアに従って城内を進んで行く。左に曲がり、
「ここが大臣の部屋だよ。ここの大臣は臆病者でさ、前きたときはいじめさせてもらったよ。」
といかにも愉快そうにマーニャは教えてくれた。
その大臣の部屋にはいかずに、また左に曲がって長い廊下を歩いていく。幸い見張りの兵はいないようだ。

「ライアン殿はどこにいるんだろうね。」

にたずねる。ホイミンが言うには怪しい行動をして捕まって、いまは城内にいるといっていた。
城の中にそういった者たちを捕えておく場所があるのだろう。しかしそこがどこなのかはさっぱりわからない。

「サントハイム城では捕えられた人たちは地下にいれられていましたよ。」
「だとしたら地下へつづく階段を探さないな。」

と、が言ったそのときだった。ちょうど突き当たりに差し掛かり、左へ曲がろうとしたときでもあった。
ピンク色の鎧をまとったひげをはやした男性が兵に両脇を固められいるのを見た。
兵に見つかった、と思い、武器に手をかけたそのときだった。ピンクの鎧の男性が「おおお!」と叫び声をあげた。

「貴殿は…まさしくお告げ通りの勇者殿!」
「こら、おとなしくしろ…!」
「ぬおおお!」

男性はなんと手錠を自らの力で破壊して、すかさず剣を抜き取り兵をなぎ払った。
その間手錠の破片がからん、との目の前に落ちてきた。
破片とピンクの鎧の男とを両方見比べて、口をぽかんと開ける。呆気にとられているのは他のみんなも一緒だった。

「私はライアンと申すもの。十年程前に旅に出てからずっと勇者殿を探しておった。」
「十年も、探してくれていたんですか。僕たちもライアン殿を探していたのです。」

途方もない年月にはさらに呆気にとられる。自分が旅に出たのは数ヶ月前。年月の違いに唖然とした。
そんなにも前から自分を探してくれた人が居るということに驚き、勇者と言うのはなんとすごい存在なんだろうと感じた。

「しかしいまは巡り会えたことを喜んでいる時間はないのだ。実はこの壁の向こうに世界を邪悪に貶めようとしている
 者がおるのだ。それを退治してから喜び合おうではないか!」

そういうが否や、ライアンは壁に手を這わせて少し違った色の壁を押した。
すると壁の一部が開いて、中に入れるようになった。どうやら隠し部屋らしい。
そこに入ろうとしたとき、騒ぎを聞きつけた兵が左右からたくさんやってきた。

「ここは私が引き受けた!勇者殿ははやく中へ!!」
「しかし一人では…」
「何をしておる!はやく!!」
「わかりました、いこうみんな!」

後ろ髪引かれる思いをしながらも隠し部屋に切り込む。薄暗い部屋の中には王座が見えた。そしてそこに
座っている巨大な獣の姿も見える。キングレオであろう。もはや国王の姿ではなく、本当の姿をさらしている。
まるでライオンのような風体で、青い毛を生やしており、禍々しい顔をしていた。黄色い瞳の眼光するどく、
恐ろしく太い犬歯がその口から垣間見える。何本も手や足が生えていて、どっしりとした身体を支えている。
キングレオの低い笑い声が響き渡った。

「キングレオ!!」

マーニャの叫び声が笑い声をかき消す。

「そこの娘は確かバルザックを仇としてやってきた娘だな。残念ながらバルザックはサントハイムに
 いっていていないのだよ。」

その言葉にアリーナ、、クリフト、ブライの顔から血の気が引く。

「殺してやる!覚悟しろ!!」
「何が殺すだ。あれほどの大敗をしておいて…笑わせる。まあ退屈しのぎに丁度いい。今度こそ殺してやろう。」

キングレオは咆哮をあげて立ち上がった。




キングレオ征討




前衛がキングレオの攻撃をよけつつ、一箇所にかたまったミネア、クリフト、ブライが補助呪文をかけていく。
ミネアがルカニを唱えキングレオの守備力を大幅に下げ、クリフトがスクルトを唱えてみなの守備力をあげる。
ブライはバイキルトを唱えてアリーナ、、トルネコと攻撃力をあげていく。
補助呪文の準備が整ったところで前衛が攻撃を仕掛ける。

まずアリーナがご自慢の拳をキングレオの眉間にぶち込む。怯んだところをマーニャがメラミで攻撃。
負けじとキングレオの鋭い爪がトルネコ襲いかかる。そこをが間一髪、槍でキングレオの手を一突きし阻止する。
トルネコがそこに武器であるそろばんを振りかぶり、思い切りたたきつけた。
その間がキングレオの腹に斬りかかる。人数も多く、小回りがきくのでやはりこちらが優勢だ。

だがキングレオがトルネコを襲った違う手で後衛を襲い掛かる。は後衛を守っていたのだが、
トルネコを助けたためいま後衛を守る者は誰も居ない。しまった、と思ったが矢先、クリフトが餌食になった。

「クリフト!!」

がすかさずクリフトを襲った手に槍を突き刺し、動きを止めたところですぐに抜いて、斬りつける。
クリフトが襲われたと言うことで怒りが漲っているの力はバイキルトのせいもあり、幾分も高く、
懇親の力を混めて斬りつけたその手は切り落とされた。鈍い悲鳴が上がった。

「ベホイミ!」

ミネアが回復魔法を唱えると、クリフトの胸元をえぐっている三本の鋭い痕はたちまち癒えていった。
そのことにほっとたそのとき、今度は一瞬の隙を狙ってめがけて手が襲い掛かる。

「危ない!」

振り返った瞬間目にはいった光景は、が身代わりになっている姿だった。

「!!!」
「ベホイミ!」

力なくに倒れ掛かったところにクリフトがベホイミを唱えた。

は俺が護るから。」

ショックのあまり何も言えず、この戦場にふさわしくない穏やかな笑顔を浮かべ、やがて前衛の方へ戻っていった
をただ見つめる。自分のために誰かが傷ついたと言う事実に強い衝撃を受けたのだった。

が持ち場で奮闘し、呆然としている間にも、前衛組も徐々にキングレオを追い詰めていっている。
アリーナの拳が、蹴りが、キングレオの腹に高速で打ち込まれていき、うまい具合にアリーナを避けて
マーニャはメラミを、ブライはヒャダルコを喰らわす。キングレオの反撃はトルネコとが撃退する。

「今よ!」

アリーナの合図で、は飛び、キングレオの隙を突いて懇親の力で喉元に剣を突き刺した。
後ろに倒れこんだキングレオは悲鳴ともつかぬ叫びをあげた。剣を抜き取ると、血が噴水のようにあふれ出てきた。

「マーニャ、ミネア、とどめを。」

はキングレオの前をどいて、彼女達にとって仇とも言える存在へのとどめをお願いした。
二人は視線をあわせ頷き、同時に攻撃魔法を唱えた。こちらの勝ちが確定した瞬間だった。

「こ、この私がやられるとは…お前たち一体……」

喉元をやられたためヒューヒューと喉を鳴らしながら自らの敗北に驚愕しているキングレオは
の姿を認め、驚いたように目を見開いた。

「まさか、おまえは……デスピサロさまがすでに殺したはずの……ゆう、しゃ………ぐっ」

やがてキングレオは力尽きた。
彼の言葉にシンシアのことを思い出して少し胸がいたかった。

「皆さんお見事でしたぞ!どうやら城の者も正気を取り戻したようで。」

ライアンがやってきて、隠し部屋に訪れた静寂がかき消された。
この言葉にみなお互いにお疲れさま、と声を掛け合った。

「…ねえみんな、勝手なこと言ってるのはわかるけど、あたしサントハイムにいきたい。」

アリーナが深刻な表情でお願いした。先ほどキングレオが言っていた言葉が気にかかったのだろう。
それはもクリフトもブライも同じ意見だった。愛する故郷にキングレオの手先がいる。赦しがたいことだった。

「あたしもそれは賛成。バルザックのやつがいるらしいからね…今度こそ奴を殺してやる。」と、マーニャ。
「しかしサントハイムで何をしているのでしょうか。」と、クリフト。
「大方、サントハイム城を占拠して魔物の城とでもしているのでしょうな。なんと恐れ多い!」と、ブライ。
「ということは、このままじゃ他の村や町を襲うのは時間の問題ですね…。」と、クリフト。

考えれば考えるほど、サントハイム城へ向かうのは得策のように思えたし、何しろ自分たちにはデスピサロの
計画を阻止するための具体策があるわけではない。ここはしらみつぶしだとしても、デスピサロの手先を倒して行くのが
先決だろう。

「急いでサントハイムに行こう。ハバリアからはえっと…北北西かな。」
「でもとブライがサントハイムの場所わかるからルーラでいけるから大丈夫!さあ、外へ出ましょう!」

外に出て、急いでブライがルーラを唱える。が、ルーラ特有の変な感覚にはならず、いつまで経ってもキングレオに居る。
悪い予感がしつつも、次いでが唱えるが、やはりどこへもいけない。

「…あの時と一緒だわ。」

ぽつりアリーナが呟く。あのときというのは、今でも忘れられないサントハイム城の皆が忽然と
消えてしまった時のことだろう。

「仕方ない、船でいきましょう。」

トルネコの船で向かうことになった。はたしてサントハイム城は、サランの村は大丈夫だろうか。
父がいない今、サントハイムを守るのは娘であるアリーナの役目。何が何でも追い出してやる、とアリーナは心に誓った。