コーミズの村はキングレオを南下したところにあった。ホイミンの話を聞いた後、すぐさま歩き出した。
大陸が違うとやはり魔物も違い、今まで相手にしてきた魔物よりも少し強い気がした。導かれ者たちだからなのか、はたまたもとから相性がいいのか、八人のチームワークはとてもすばらしかった。クリフト、ブライ、マーニャ、ミネアは後方で支援を行い、、アリーナ、、トルネコは前衛を勤めた。

「やっぱり八人もいれば魔物も瞬殺ね!」

 今まで四人で、しかもその半分は後衛(しかも男)というパーティで旅をしてきたアリーナは、八人パーティにとても感動を覚えた。アリーナが感動すると言うことは、が、そしてクリフトが感動する。

「ですよね姫! わたしもそう思います!」

 が満面の笑みで、自身の武器である槍を振り回しながら同意した。

「あ、危ないですよ! ひ、姫!私もそう思いますよ!!」

 クリフトが後衛組の中から保護者めいた発言をし、次の瞬間にはアリーナへの同意を叫んだときには
一同は思わず笑ってしまった。



錬金術師の住むところ



 日が暮れる頃にはコーミズの村にたどり着いた。マーニャの出身地とは思えないほど閑静で、のどかな田舎だった。カジノだとか、賑やかで派手なものが好きなマーニャは「とっととこの村をでたかったのよね」と顔をしかめていた。家へと帰っていく人たちがマーニャやミネアの顔を見ると、顔を輝かせて「やぁマーニャちゃんにミネアちゃん! 久しぶり!」と嬉しそうに声をかけては、手に持っていた今日の収穫物などを渡していった。誰かと会うたびにお土産が増えていくマーニャとミネアを、目を細めて見つめる。

「ステキなところですね」
「うん、そうだね。俺が住んでいたところもこういうところだったなぁ」

 に言わせちゃいけないことを言わせてしまったと思い、顔を見れば、彼は村の風景に視線を馳せながら
懐かしそうに顔を緩めていた。その横顔に、不覚にもの胸に切ない痛みが走った。

「……、そんなに見ないでよ」

 の視線に気付いたが照れ笑いを浮かべて頬をかいた。

「! あっ、す、すみません」
「いや、いいんだけどね、ただ、……に見つめられると心臓が痛くなっちゃうんだよ。」
「わたしの視線が、を痛めつけてるんでしょうか……?」
「どうなんだろう……だとしたら、はきっと、訓練すれば視線で魔物を殺せるんじゃない?」
「視殺ってやつですか」
「ですね」

◇◇◇

「ここが私たちの家で、亡き父、エドガンの住んでいた家でもあります」

 家はいると、結構のあいだ人が住んでいないせいか、埃っぽかった。

「私たちは父の研究室を見てきますので、皆さんは適当にくつろいでいてください」
「えっ、あたしも?」
「当たり前でしょう? ほら、いきましょう。」

 渋るマーニャを引き連れて、ミネアは奥の部屋へ向かった。残されたたちは適当ないすに腰掛けて暇をつぶす。

「ところで、錬金術師ってなんなの?」

 素朴な疑問をアリーナが誰にというわけでなく、ぶつける。その疑問に答えたのが、意外にもトルネコだった。

「卑金属から貴金属にしてしまおう、という試みをしている人たちのことですな。」
「ヒキンゾク? キキンゾク?」

 一般教養は、ほぼゼロに近いアリーナに、そんな言葉を知っているわけもなく、首をかしげる。そこへクリフトが、アリーナへのアピールがてら、口を開いた。

「卑金属と言うのは、空気中で熱されると簡単に酸化されしまう金属の事を指します。その対義語が貴金属で、金などを指しますね。つまり錬金術師と言うのは、金を作り上げようと、試みている方々のことです。実際まだ、金が作れたと言う報告は受けておりませんがね」

 人差し指を立てて得意げに説明をするクリフトに、アリーナが「へぇ」とあまり心の篭っていない声で相槌を打った。たぶん、あまり興味がないのだろう。せっかく自分の知識を披露し、アリーナの感心を高めようとしたのだが、そのたくらみは露に消えた。

「まぁ、卑金属と貴金属と言うのは、もともとのつくりが違うので、たぶん成功することはないと、言われていますけどね」
、賢いんだねぇ」
「サントハイム騎士団の入団する際に、一般教養を身に付けてなきゃいけなかったので」

 アリーナの言葉にでれっと表情を緩める。クリフトの嫉妬のまなざし。

「俺ちっともしらなかったよ。すごいな、は」
「えっへん」

 はたくらんでいたわけではないのだが、からの感心が高まったようだった。


◇◇◇


「どうやら父の研究室には魔法の鍵はないようです。もしかしたら、西の洞窟にあるもう一つの研究所にあるかもしれません。そちらへ行ってみませんか?」
「洞窟に研究所があるのですか?」
「ええ。もし失敗して多大な被害がでてはいけない、と父は実験を西の洞窟で行っていましたので。」
「なるほど……。じゃあ、西の洞窟に行ってみようか。でも、明日にしたほうがいいかもしれないな。あたりはもう暗いし」

 そういってチラリと窓の外へ視線をやったも視線をやると、もうすでに日は暮れていて、真っ暗だった。夜道は危険だし、魔物に奇襲される可能性も高くなる。それに、ただでさえ洞窟へ行くというのだから、明るいほうがいいだろう。

「それじゃあ今夜はうちへ泊まってください。ちょっと埃っぽいですが……」
「でも、ちょっと多すぎない? 私たちのベッドと父さんのベッドと、お客さま用の布団二組しかなかったんじゃなかったっけ?」
「ということは、五人しかここに泊まれないというわけね」

 ちょっと悩むように顎に手を添えて、アリーナは虚空を見上げた。

「それなら、私とクリフトはこの村の宿屋へ行きますよ」

 すぐ隣のいすに座っていたクリフトの手をつかんで、は手を上げた。最初は何事かと驚いたクリフトだが、の言葉の意味を呑み込んで、「そうですね」と頷いた。

「それじゃああたしも行くわ!」
「いえ、姫のお手を煩わせるわけにはいきません!」

 が腕でバツマークをつくり、断固拒否を示す。

「ちょっと宿屋まで歩くだけじゃない」
「そのちょっとの距離だって、姫には歩かせたくないのです。わたしたちの気持ちも汲み取ってください!」

 過保護な気もするの発言だが、は意外と頑固なので、言い出したら聞かない。アリーナは渋々ながら唇を尖らせ、「わかったわよ」と了承した。

「それじゃあ、あとは俺が行くよ」
「いいんですか?」
「うん、勿論」
を襲っちゃダメよ?」
「!! マ、マーニャ!」

 顔を真っ赤にして咎めるが、マーニャは笑うだけだった。は顔を赤らめて黙り込んだ。