次の日の朝方には船はキングレオ国のハバリアにたどり着いた。港町ということもあって、朝なのに人が大勢いた。漁に出たりするのだろう。一行はハバリアを通り抜けて、キングレオに向けて早々に旅立った。ハバリアからキングレオはそんなに離れていないので、すぐたどり着いた。

「相変わらず重苦しいところね……」

 キングレオに着いてからの第一声は、マーニャのそんな一言だった。確かに、とは思った。どんよりとした空気が纏わりついてきて、こちらまで陰鬱になってしまいそうだ。だが、そんな陰鬱な空間に不釣り合いな、金髪の青年がいることに気づいた。

「なにしてるんでしょう?」
「さあ……でもなんだか、普通とは違ったような感じがします。まあ、とりあえずあの門番のところまでいきましょうか」

 既に移動し始めている一行の流れに沿いながら、いかにも堅物そうな門番のところへ
とクリフトも移動した。近くで見てもやはり彼は堅物そうに見えた。えらの張って、眉が常に寄っていて、険しい顔をしている。

「あの……」
「ここは偉大なるお城キングレオだ! 怪しまれたくなかったら早々に立ち去るがいい!」

 の声虚しく、門番はまるではじめから用意されていた台詞かのように、すらすらと叫んで門前払いを決め込んだ。



糸の縺れ合い



さん、この門番には何を言っても無駄でしょう。一度引き下がりましょう」

 トルネコの耳打ちにはうなづいて、一度引き下がることにした。何を言ったところで彼はキングレオ城へいれてはくれないということは、も思っていた。

「一回、ハバリアに戻らない?」
「それもそうだね」

 アリーナの提案で、ハバリアに引き上げることにした。キングレオ城敷地内から立ち去ろうとしたとき、先ほどの金髪の青年がこちらへ駆け寄ってきた。

「待ってください! 僕はホイミンという旅のものです。どうか、お城の中のライアン様をお助けください!」
「……すみません、詳しく聞かせてくれませんか?」

 最後尾を歩いていたは、整った顔に焦燥を滲ませている青年にゆっくりと聞き返した。ライアンという名は、ミントスの宿屋で詩人がのことを探していた戦士の名前。これは聞く価値があると判断した。金髪の青年は、ゆっくりと口を開いた。

「ライアン様が……キングレオ城にいるという、世界を破滅する邪悪の手のもの倒すためたった一人で乗り込んでしまったのです。先ほどわざと怪しげに振舞って捕まえられ城内に入り込んだので、そのうち大臣に尋問を受けるはずです。それまで数日の猶予はあるでしょう。ライアン様が王の前に差し出されればもしかしたら死罪になるかもしれません。今のキングレオの王はとても凶暴と聞くので……」

 ホイミンはその美しい顔に悲しみを浮かべて、目を伏せる。

「どうか、そうなる前にライアン様と合流してください! キングレオ城には魔法の鍵があれば侵入することができるはずです」
「魔法の鍵……それさえあれば、この城のなかに入れるというのですね?」
「はい。どうか、お願いします……」

 深々とお辞儀をしたホイミンに、思わずもお辞儀し返す。

「魔法の鍵っていうのは、どこにあるのよ?」
「僕の聞いた話では、魔法の鍵というものは、錬金術師なら簡単に作れるらしいのです。ですから、錬金術師がいたというコーミズ村になら何かあるのかもしれません」
「ちょっと、錬金術師!? それに、コーミズ村……?」

 マーニャが急に切羽詰ったような顔で話題に食いつく。その様子を見て、ミネアは少し不安げな顔でたちに説明をした。

「私たちの父は錬金術師で、コーミズ村に住んでいたのです……」

 ずいぶんと複雑なことになっている。とは思った。たくさんの糸が絡み合い、縺れ合っている。そしてその糸は、世界も巻き込んで入り組んでいく。それをほどいた先には、いったい何が待っているのか。