横に並んで、夜のミントスの町をゆっくりとした足取りで歩いていく。の歩調に合わせてくれて、
単純ながらはいい人なんだな。と思った。

。」
「はい?」

見上げれば、は照れたように微笑んで頬を掻いている。

「なんか、照れるな。」
「そ、そんなこと、ありませんって。」

言われて、まるで伝染したようにも急に体温が上昇した。



夜空のセレナーデ



「あのさ、は、クリフトさんと付き合ってるの?」
「ええ!?付き合ってませんよ。ただの幼馴染です。生まれたときからずっと一緒みたいな感じですから。」
「なんだ。…俺にも幼馴染がいたよ。シンシアっていうんだけどね、エルフの女の子なんだけど…すごい、いい子だった。」

遠い昔を思い出すように目を細めて、夜空を見上げるの横顔を見て、胸が痛んだ。
きっとシンシアという女の子は、死んでしまったのだろう。

「死んじゃったんだけど、ね。」

を見て、例の悲しげな笑顔を浮かべてそういった。その笑顔に、また胸が痛む。
無理しているのだと気づいた。彼は、必死に自分を守っているのだ。強がって、頑張って、自分を保っていようと必死なのだ。
そうしなければならない立場だから。勇者と言う、立場だから。

「……。」
「ん?」

悲しさを取り払って、目を丸くして首をかしげる。

「すごい悲しそうな笑顔をしますね。」
「そう、かな?」

自覚がなかったらしく、心底不思議そうな顔をした。

「そんな、強がらなくたっていいんですよ。弱さを出してくれてかまわないんですよ。わたしたち、仲間じゃないですか。」

足を止めて、強い意志をともしてを見れば、は暫く口をぽかんと開けて立ち尽くした。
言葉を言った後、今日知り合った女に、そんなことを言われて、もしかしたらはいらだったかもしれない。と後悔した。

…。」
「あの、でしゃばった事をすみま、せ…!?」

素直に謝ろうとしたそのとき、きつく抱きしめられた。かぎなれない匂いが鼻腔をくすぐる。これが、のにおい。
心臓がどきどきと高鳴る。突然の事に何も出来ずに呆然としていると、震えを感じた。自分が震えているのではない。
だとしたら、大地が揺れているか、それとも、

「うっ…ふっ……」

が、泣いている。震えているのは他でもない、だった。を抱きしめながら、泣いているのだ。
ぐす、という鼻をすする音が耳に届く。は手を、おそるおそる背中に回して、一定のリズムでやさしく叩いた。

「おれ、は…世界、を、救う、勇者、なの、に…!」
「はい。」
「自分、が、生まれ育った…村……すら、救え、なかった!!」

まだよく知らない同士だからこそすらすらと自分のことを喋れることがある。
けれど―――それ以上の理由がある気もがした。

「…はい。」
「俺は…俺は……!勇者なんかじゃな――――」
。世界を、救いましょう?失ったものは取り返せないかもしれない…でも、二度と同じような思いを誰かに
 させないためにも。それに、村の人たちも、が世界を救うことを何より望んでいるはずです。」

という存在がいたから、世界を救う理由も、戦う理由も、生きる理由も、すべてわからなかった勇者が、すべてを手にした。
そのことを感じながら、は頷いた。

…ありがとう。」
「いいえ。わたしたち、仲間ですし、ニンゲンですから、助け合って行きましょうね。悩みならなんでも聞きますよ。」

から離れ、微笑んだ。彼の顔からは悲しさを感じない。どうやら、彼の陰は多かれ少なかれ取り除かれようだ。

「ありがとう。…。じゃあ、散歩続行しようか。」
「はい。」

そうして二人は再び歩き出した。その間、の手を取ろうとしたが、結局直前でやめたことを、は知らない。
彼らが恋に落ちるのはそう遠い未来ではない。

そのころ、宿屋のロビーでは。

「まあ…!」
「どうしたの、ミネア?」

ミネアが水晶玉を覗きながら、嬉しそうな声を上げた。その声に少し離れた場所でアリーナやクリフト、トルネコたちとトランプを
楽しんでいたマーニャが反応する。ミネアの顔は実に楽しそうな表情を浮かべていた。

「興味深い結果がでたわ…。」
「なによ?どうしたの??」
「あえて、黙秘します。」
「ええ!?なんでよ!」

ミネアにしかわからない、水晶玉の中身は、こう示していた。
近いうち、勇者と導かれし者のは結ばれるだろう、と。このことを知っているのは、ミネアのみ。
ミネアは意味深な微笑みを浮かべて、窓辺へと歩いて行き、夜のミントスを見る。

(確か、お二人とも散歩に出かけたわよね…?)

今起きている出来事を想像し、うっすらと口角を上げた。
名前