その日の夜、夕食を食べながらいろいろと話すことにした。アリーナ、ブライ、、クリフトと並んで、その向かい側にマーニャ、ミネア、、トルネコと並んだ。サラダをフォークでつつきながら、アリーナは今までの旅を語りだす。
　旅に出る事になった経緯、若い女の子をさらって村を脅かす魔物の退治、武術大会

「で、帰ってきたらサントハイム城の人がみーんな消えちゃったの！　それでね、その謎を突き止めるために旅してるの。」

　口の周りにドレッシングをつけながら、眉根を寄せて神妙そうに話すアリーナの姿がどうにもマーニャのつぼだったらしく、不謹慎ながら話し終えた後大爆笑をした。ミネアがたしなめる姿は、どちらかと言うと姉のように見えた。

「なんで笑うのー！！」

　フォークをつきあげて怒るアリーナの姿を見て、マーニャが再び笑い出す。マーニャはとても賑やかな人物で、これからの旅が楽しくなりそうだ、と思った。だが、彼女とミネアは実は悲しい過去を抱えている。
　錬金術師をやっていた父を、弟子のバルザックが殺してしまった。そのバルザックを追って旅に出たのだが、とうとうキングレオでバルザックを見つけた。そこでバルザックは、”父が進化の秘宝を見つけたにもかかわらず闇に葬ろうとしたので、父を殺したのだ”と言った。マーニャとミネアはもうすぐでバルザックを倒せる、というところまでいったのだが、そこにキングレオの王が現れ、無残にも敗れてしまったという。そのとき聞いた、デスピサロという真の黒幕の存在。
　それからどうにかこうにかキングレオを脱出し、ミネアの水晶にうつった自分たちを助けてくれる小さな光を捜すために新たな旅が始まったのだ。ちなみにその小さな光、というのがというわけなのだ。
　トルネコは、実に彼らしい旅の目的で、勇者がどうとか関係なく、伝説の武器や、防具、宝物を捜すために妻や子供を置いて旅に出てきたらしい。
　ちらり、 の姿を見ると、彼はやはり悲しそうな顔で笑っていた。の視線に気づいたがを見ると、穏やかな笑顔を浮かべて首を傾げて「どうしたの？」とにしか聞こえないくらいの声でたずねるが、は首を振ってなんでもない、とアピールする。

（……いつか、彼の”陰”が取り払えたら、いいのですが。）



ユカイな晩餐会



「ところでアリーナさん、さん、クリフトさん、ブライさん。勇者であるさんの旅の目的はわかりますか？」
「デスピサロを倒すってことでしょう？」
「そのデスピサロ、なんですけど、彼はじつは、地獄の帝王を蘇らせようとしているらしいのです。それを食い止めるのが、さんの役割なんです。ですが、彼だけではデスピサロを食い止める事はできないのです。それをサポートする仲間……。それがいるのです。それが、”導かれし者”と呼ばれる八人なのです。私たちはその導かれし者なのですが、もしやと思って水晶で占ってみたところ、どうやらアリーナさんたち全員が導かれし者だったのです。」

　しかし具体的にどのようにデスピサロの地獄の帝王を蘇らせる作戦を阻止するかはまだわからないらしい。手探り状態の中、いまは導かれし者の集結を急いでいた。

「えええ！？！？　てことは……あたしたち、世界を救っちゃうわけ！？」
「そういうことです。」

　あまりに突然で、少し現実味のない話に、は何も言えずに目をぱちくりした。自分たちが、世界を救う勇者のサポート？　しかも、選ばれた八人とのこと。こんな平凡で、なんの取りえもない自分がそんな大層な役を担っているなんて、何かの間違いだと思った。

「あのう……」

　遠慮がちに手をあげると、全員の視線がにささる。そのことに多少戸惑いながらもぽつぽつと喋りだす。

「たぶん、わたしは、違うと思います……。そんなすごい人なわけがありません。」
「そんなこといったら私だって違います。」

　横のクリフトもおずおずとに同乗した。それをみて、マーニャは呆れたように肩をすくめた。

「そんなこといったって、ミネアの水晶にそうやってでたんだから間違いないよ。」
「ですが……。」
「さん、さんは絶対に導かれし者ですよ。俺、なんとなくわかるんですよ……そういうの。」

　にこりと口角を上げてが言った。勇者であるがそういうと、なんだか信憑性がある。ここは信じるしかないみたいだ。は「わかりました。」とひとつ頷いた。

「はいはい、どうやらあんたたち世界を救うすごい人みたいだからねぇ。おまけしとくよ。」
「わあああ！！　おいしそう！！　ありがとうおばさん！！！」

　持ち運ばれてきた肉料理を見て、アリーナが感激の声を上げて、誰よりも先にナイフとフォークを手に取った。それに続いて次々と料理を食べ始める。

「おばさーん、お酒あるー？」
「あるよー。いるかい？」
「よろしくう！」
「こ、こら姉さん！　駄目ですよ。」
「いいじゃないの！」

　マーニャとミネアのやりとりは見ていてなんだか心が温かくなる面白さだ。がくす、と小さく笑うと、マーニャが眉を寄せて「笑うんじゃないわよ！」と怒った。
　賑やかな食事は終わり、各自部屋に戻ったり、風呂にいったり、町の散策などをした。は、クリフトの一件で町をぜんぜん見ていなかったので、改めてミントスの町を見てみようと思い、散策に出かけた。玄関を出ると、が宿屋の前にあるたいまつの近くに立っているのが見えた。扉が開く音が聞こえたのか、は
緩慢な動きでこちらを見て、存在を認めると表情を緩めた。

「どうも。」
「どうも。町の散策ですか？」
「ええ。さんは……？」
「俺は、夜空でも眺めようと思って。……もしよかったら、俺も一緒に散策つきあってもいいですか？」
「はい、よろこんで。あ、あの、敬語使わなくて結構ですよ。」
「本当に？　じゃあ、普通にいくよ。も楽にして？」
「あ、わたし敬語使かっちゃうんですよ。気にしないでください。これが、わたしです。」

　二人は歩き出した。