もう何度も通った、テンペ・フレノール経由でエンドールへ繋がる旅の扉のある祠まで歩いていった。最初のころは手ごわいと感じていた敵ももはや雑魚同然で、戦闘の時間が短縮されることによって旅路も回を重ねるごとに日数が減っていった。最初の旅路よりも数日短縮して、祠までたどり着く。
 祠へ繋がる扉の前に立っていた警備の兵士はアリーナ一行の姿を見ると敬礼をして横に数歩移動した。

「王より言付け承っています。どうぞお通りください。」

 祠に入りさらに進むと、もう一人の兵士がいたが、彼もまた先ほどの兵士と同じように敬礼をして数歩横に移動した。
 そしてやはり、先の兵士と同じ言葉を言った。アリーナたちは兵士の横を通り抜け旅の扉の目の前までやってきた。
 初めてみるそれは、青白い光を放つ渦のようなもので、”旅の扉”というほどのものだから、扉だと考えていた はなんだか裏切られたような気分になった。

「さあ、未踏の地にいざ!!」

 アリーナの言葉を皮切りに、一行は旅の扉に飛び込んでいった。



待ち焦がれのエンドール



 今まで味わった事のない奇妙な感覚に襲われながら、三秒後には違う景色が広がっていた。先ほどまでいたところにはもっと広いところだったが、やってきたところは出口へと繋がる階段を下りればすぐに外へ繋がるらしかった。扉を開けて外へ出れば、太陽の光と、青々と茂る草木。
 無事にエンドール領へやってきたらしい。

「ひゃっほー! エンドールよ! はあ……まだ見ぬつわものたち。待ってなさいよね!」
「アリーナ様! 張り切って行きましょう!」

 アリーナの高いテンションにつられて、もテンションを上げて道のりを歩き出した。

+++

 暫く歩くと、大きな城が見えてきた。サントハイム城とは違うそれに、大きな感動を覚えた。生まれてこの方、サントハイム大陸からでたことのないは、気持ちが高揚しっぱなしであった。さすが世界の中心地といわれるだけあって、城下町も遠目だが栄えているし、城の外観も威厳が漂っていた。
 心なしか饒舌なが、いつもどおり隣を歩くクリフトに興奮気味に話しかける。

「クリフト、世界は広いですね……。わたしはなんだか感動しっぱなしです。改めて、アリーナ様と一緒にきてよかったと感じます。」
「そうですね。私もも城の周りの世界すら疎かったですし、まして他の大陸なんていったことありませんしね。」

 生まれたときからサントハイム城にいたとクリフトは、小さいころから城内でずっとそれぞれ修行を積んできた。たまにサランに行くぐらいで、他の町などいったことのない二人にとってはこの冒険は発見と興奮と勉強の連続だった。世界は広い、うわさでは聞いていたが、身をもって体感した。
 そうしてエンドール城下町に無事たどり着いた。町は活気付いていて、そこら中に笑顔があふれている。武器屋、防具屋、道具屋、宿屋、教会と言った一般的な店や施設の他に、なんとこの町にはカジノもある。この町には武術大会の参加者の他に、ギャンブラーたちも集っているのだろう。

「なんか、城のほうからにぎやかな声が聞こえてきますね。」

 クリフトに言われ耳を澄ましてみると、確かに城のほうから歓声やらが聞こえてくる。武術大会が行われているのだろうか。するとアリーナがすたすたとまっすぐ歩き出した。

「あそこに掲示板があるわ。きっとあそこに何かかいてあるはずよ。」

 アリーナの言う通り、掲示板には武術大会のお知らせが張られてあった。どうやら城の裏の闘技場で行われているらしい。アリーナはそれを見るなり歩いていこうとするが、ブライに止められる。

「姫、そのまえに王に謁見せねばなりませぬ。姫はサントハイム王国の姫にあります。挨拶くらいするのが礼儀と言うもの。」
「………わかったわよ。全く。挨拶すればいいんでしょ。」

 心底うんざりしたように言い、とぼとぼと城へと向かう。城門には兵士がいて、警備をしているが、アリーナの姿を見るとすっと左右へどいて扉を開ける。どうやらアリーナの正体を知っているらしい。敬礼をして、「ご苦労様です!」とご丁寧に声を揃えて言う。
 軽く礼をして城内に入り、中央の階段を上がっていく。すると、王座へつづく階段を警備していた兵士が
一行を止める。

「サントハイム王国のアリーナ姫様ご一行ですね?」

 長身で細身以外これといって特徴のない男が確認すると、ブライが頷く。

「王から承っております。どうぞこちらへついてきてください。」

 そう言って男は階段を上がり、一行を誘導した。すべて登りきると王座にたどり着いた。
 そこにはエンドール王と姫と上座に座っていた。誘導した兵士はアリーナに一礼し、王に一礼をしたのちにもときた階段を下りていった。

「アリーナ姫じゃな? よくぞ来た! サントハイムの王より聞いているぞ。世界の行く末を案じて力試しの旅とは感心なり!」
「身にあまるお言葉でございます。」

 一応(と言っては失礼だろうが)姫であるアリーナは、小さいころから姫としての立ち振舞いはそれなりに教えてもらっていた。
 それが生かされているようで、ぺこりと頭を下げたアリーナを見てブライは思わず涙しそうになったが、ぐっと堪えた。

「アリーナ姫よ。わしはそちにお願いがあるのじゃ……。どうか、武術大会で優勝してくれないか?」
「勿論そのつもりでございますが、何ゆえそのような頼みを?」
「実は……わしが軽はずみに、”武術大会優勝したものとモニカを結婚させる。”と言ってしまったのじゃ。」

 つまり、女であるアリーナが優勝すればモニカは結婚しなくても済む。ということなのだろう。(エンドール王にはもう少し発言には気をつけていただきたいものです。彼の発言で国はどうにでもなってしまうというのに。)と、は思ったが、そんなことは言わずに黙って話を聞いている。

「わかりました。なんとしてでも優勝してみせます。」
「頼んだぞ。デスピサロ……といった男が現在トップじゃ。あやつはなんとなく危険な香りがする男じゃ……。気をつけてくれ。」

 名前からしてとても不吉な男だ。だが、天下のアリーナ姫に敵うやつなんて、いるわけない。確証のない自信だが、だけでなくクリフトやブライもそう思っている。

「アリーナ姫。城を一旦でると両脇に扉がある。そこへ入れば城の裏のコロシアムにいけるぞ。」
「わかりました。いってまいります。」
「うむ。健闘を祈る。」

 ペコリとお辞儀をして、それに続いて、クリフト、ブライも頭を下げて、アリーナの後について王座をあとにした。門をでて少し歩くと、アリーナがぐっと伸びをして「あー疲れた!」と眉根を寄せた。

「お疲れ様でした。」

  のねぎらいにアリーナは歩く足を止めてはあ、とため息をついた。

「いやもう、慣れないことはしないことよね。」
「わしはもう、ヒヤヒヤでしたぞ。やはり姫はきちんと姫でしたな。」
「当たり前よ。ブライってば小さいころからずっと姫としての教育をうざいほどしてきたじゃない。」
「う、うざいですと!?わしはですな、サントハイム王国の姫としての自覚をですな…」
「ああ、もう、やめましょう!」

 クリフトが慣れたように二人の口げんかを止めて、その場を収めた。この二人といったら、口を開けば喧嘩ばかり。困りものである。(といっても、もう慣れたが。)

「とりあえず、受付にいきましょう。」

  の提案で、とりあえずコロシアムにいって受付をする事にした。甲冑が両脇に置いてある扉を通って細長い通路を歩いていくと、間も無く兵士たちが門番をしている様子が目に入る。

「受付ですか?」
「ええ。ここでいいのかしら?」
「はい。ではこちらからどうぞ。」

 門番が扉を開ける。中をくぐると、選手の待機室のようなところにやってきた。たくさんの参加者がたむろしている。入って真向かいに受付らしいところがあったので、そこへ向かう。

「武術大会の参加エントリーをしにきたの。受付はここであってるかしら?」
「はい。お名前をここに記載お願いします。」

 出された名簿表の一番下にアリーナは名前かき、受付に手渡すと、受付は説明を始めた。

「では、ルールについてご説明します。まず、ご存知かと思いますが、参加は一名でのご参加になります。そちら様のようにお連れ様がいらっしゃっても、四人で戦闘は出来ませんのでご了承ください。ですが、コロシアム内で観戦は可能です。その際お連れ様が回復魔法をかけたり補助魔法をかけたり、また敵に攻撃魔法をかけたりなどとにかく部外者が戦闘に介入する事は認められていません。休憩の合間もまた然りです。勿論道具の使用も認めません。あくまでお連れ様は試合観戦のみとなっていますので、ご理解のほうお願いします。大会はトーナメント形式となっておりますので、負けたらその場で退場です。説明は以上ですが、何かご不明な点はございますか?」
「ないわ。」
「では、試合開始まで暫くお待ちください。入り口近くにある道具屋で薬草を購入しておく事をおすすめしますよ。」

 受付に言われた通り道具屋で持てる分だけ薬草を買った。今までクリフトのホイミやベホイミに頼っていたので初めての薬草購入だった。買い物終えた一行は近くの空いているベンチに腰掛けた。

「アリーナ様、頑張ってください……! 回復魔法、かけたいの必死に我慢します。」

 本当に辛そうに

「私も……歯がゆいですが、姫様のためにも封じときますので、ご安心ください。頑張ってください!!」

 本当に悔しそうにクリフト。

「ああ、汗臭い。この待機室、なんと汗臭いのか。姫、さっさと勝ってさっさとここをでましょう。」

 相変わらずの毒舌で言いたい放題のブライ。三者三様の言葉を受け止め、アリーナはにっと笑った。

「任せてよ。あたし絶対負けないわよ。見てなさい?」

 頼もしい笑顔の後、アリーナの名前が呼ばれて一行は移動した。アリーナの限界への挑戦が、今からまさに始まろうとしていた。